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[FT]エヌビディアのアーム買収に頭を抱える中国 米半導体大手エヌビディアは、ソフトバンクグループから英半導体設計大手アームを400億ドル(約4兆2000億円)で買収する計画を進めている。中国のチップ業界は、買収が成立すれば、ほぼすべての携帯電話のチップに使用されている主要技術が米国の手に渡ると危機感を募らせ、中国政府に調査を求めた。

北京半導体行業協会の朱晶副会長は、エネルギー効率に優れたアームのチップの設計図は中国で設計されるチップの95%に使用されていると指摘し、同社の所有権を米国企業に渡すわけにはいかないと述べた。 ■「ファーウェイがどんな目に遭ったか」 中国側は警戒 朱氏は中国の政府系メディアの澎湃新聞の取材に対し、「中国通信機器の最大手である華為技術(ファーウェイ)が米国でどんな目に遭ったか、考えてみるといい。アームが米国企業に買収されたら、誰も安閑としてはいられないだろう」と語った。 別の政府系メディアである環球時報も16日、中国政府に介入を促し、社説で「アームが政治的な駆け引きの道具と化し、米国政府が同社を中国のテック企業に対する武器として利用する可能性を真剣に考慮しなければならない」と警鐘を鳴らした。 ファーウェイ傘下の半導体メーカーで、アームの知的財産を利用している海思半導体(ハイシリコン)のチップ設計部門の従業員も、この買収を不安な思いで見つめている。匿名を条件に取材に応じたチップの設計技術者は「アームは買収された後も知的財産を提供してくれるだろうか。少し気がかりなのは事実だ」と述べ、別の従業員は「当社が置かれている状況が一段と苦しくなるのは間違いない」と語った。ファーウェイはコメントを避けた。 アームは中国国内において、様々な方面とのつながりを持つプライベート・エクイティ・ファンドである厚樸投資(HOPU)との合弁事業を設立しており、そのため中国の独占禁止法執行機関には、エヌビディアによる買収計画を審査する権利がある。加えて、中国の規制当局は、独禁法に基づき、企業の合併・買収が国の発展に及ぼす影響を調査することを明示的に義務づけられている。 独禁法を専門とする弁護士によれば、この買収について中国政府から承認を得るのは至難の業だ。匿名を希望する香港の弁護士はこう語る。「中国では、この話題が国全体を巻き込んだ一大論争を巻き起こしつつある。今この状況でハイテク・セクターの買収取引を遂行しようとするなら、並大抵でない覚悟が必要だ」 別の弁護士によれば、中国政府が表立って買収を妨害することはめったにないものの、米クアルコムが2018年にオランダのチップ会社であるNXPを買収しようとした時のように、承認を無期限に先延ばししたり、多額のコストを要する是正措置を要求したりして、エヌビディアに買収を諦めさせたりすることはありえるという。 ■エヌビディア 中国撤退という手もあるが 一方、エヌビディアも強力な武器を持っている。アームの設計図とエヌビディアのグラフィックプロセッサの両方に大きく依存している中国市場から撤退するという選択肢だ。しかし中国のある弁護士は、世界有数の市場である中国への再進出が困難になるため、この選択肢は高いリスクを伴う最後の手段だと指摘する。「両陣営とも、相手にどこまで譲歩を迫れるかを探り合っている状況だ」 スイスの金融大手クレディ・スイスのアナリストは、この取引は「とりわけ中国の規制当局から待ったがかかる可能性が高い」と指摘するが、米運用会社アーク・インベスト・マネジメントのジェームズ・ワン氏は、成功の確率を「五分五分」と見る。 エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は、同社は中国の規制当局と時間をかけて話し合う考えであり、4月にイスラエルの半導体設計メラノックス・テクノロジーズを買収した時のように承認がおりるという「掛け値なしの自信を持っている」と述べた。 アームの知的財産は英国のケンブリッジで30年以上かけて創出・開発されたものであり、本社は引き続き英国にとどまるとファン氏は語る。「技術の源泉国は変わらないため、アームが日本企業の傘下から米国企業の傘下に移っても輸出管理に一切影響はない」 しかし大手法律事務所ステップトゥ・アンド・ジョンソンの所属弁護士で、輸出管理を専門に手がけるウェンディ・ワイソン氏は、アームの社員、資金、技術に占める米国の比率が高まるにつれ、いずれ同社にも米国の制裁規則が適用されるだろうと予測する。 「米国の親会社は、アームのチップの設計図に取り入れる技術やソフトウェアについて干渉し、同社に対する支配を強め、リスク削減のために中国への販売を停止すると宣言する可能性もある」とワイソン氏は指摘する。 ■アームの中国合弁会社も問題に エヌビディアは買収を1年半以内に完了させたい考えだが、独禁法の執行機関から承認を得ることに加え、アームの中国合弁事業であるアーム・チャイナの権力争いの解決という問題も立ちはだかる。同社のアレン・ウー会長は、取締役会によって解任されたにもかかわらず、その後も法的な支配権を乗っ取って会長の座に居座っているためだ。 アームのサイモン・シガースCEOは、ウー氏の解任騒ぎについて「ほぼ収拾がついており、心配はしていない」と述べ、ソフトバンクグループに近い複数の人物は「解決済み」だと主張した。だが状況をよく知る中国国内の二人の人物によると、ウー氏の退任を巡る交渉は今も続いており、同氏と近い人物いわく、同氏は「今もアーム・チャイナの会長職にとどまっている」という。 アーム・チャイナの関係者の話によれば、同社の出資者は、中国政府とのコネを利用して手詰まりの状況を打破しようとしただけでなく、このいざこざが中国の投資環境についての好ましくない印象を与えると訴えながら、深圳の地方政府当局に介入を求めさえした。しかしこの事案を担当する弁護士によれば、政府職員の中にはウー氏に味方する者もいるという。 アーム・チャイナの広報担当者は、この噂についてコメントを控えた。 アームは19年、米国の規制を理由にファーウェイとの技術共有の停止を余儀なくされたものの、それは一時的な措置にすぎないと述べたことで、ハイシリコンの最高情報責任者であるディアオ・ヤンチュー氏から称賛された。「アームは長年にわたる当社のパートナーであり、足元の状況によってそのことが一層明白になった」 ソフトバンクグループの18年の発表によれば、中国はアームの総売上高の5分の1を占めている。 

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