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FRB、国債管理政策の影 短・中期債利回りに上限案 米連邦準備理事会(FRB)は新たな金利目標の検討に入る。短期債や中期債の利回りに上限を設けて、市中金利全体を引き下げる案だ。新型コロナウイルスに対処した米国債の大増発で、金利上昇リスクが色濃く残り、戦時のような「国債管理政策」となる可能性もある。

市場ではトランプ大統領が求めるマイナス金利政策を導入するとの見方も残る。 FRBは20日、4月28~29日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表した。複数の参加者が「一定期間、短期債と中期債の利回りに上限を設けて米国債を買い入れる」という案を提唱。従来の政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利に加え、新たに1年物の短期国債(TB)や5年物国債などに金利目標をつくって、市中金利全体を低めに抑えるアイデアだ。 主要国では日銀が長期金利をゼロ%近辺に誘導する「イールドカーブ・コントロール」を採用する。FRBも第2次世界大戦の前後に、3カ月物や1年物のTBの利回りに上限を設け、中期や長期の金利を低めにコントロールしたことがある。 FRBが新たな政策手段を必要とするのは、FF金利が既に0~0.25%に下がって、利下げ余地がないためだ。FRBは「雇用の最大化」を使命とするが、失業率は戦後最悪の14%台に上昇。コロナ危機前の3%台に戻るには相当な時間がかかる。追加緩和の手段を得なければ、金融政策は早々に「無策」となる。 もっとも、短期債・中期債とも利回りは既に歴史的な低水準だ。1年物は0.1%台で、5年物も0.4%を割り込む。FF金利と同じく引き下げ余地はほとんどない。 それでも、短期債・中期債の金利誘導案が浮上するのは、米連邦政府の国債大増発で金利上昇リスクが拭えないためだ。米政権は新型コロナ対策で既に3兆ドル弱の財政出動を決定し、さらなる追加措置も検討中だ。20年の財政赤字は4兆ドル規模となり、国内総生産(GDP)比でみれば第2次世界大戦時並みの20%台に達しかねない。 FRBが1940年代に短期債と中期債の利回りに上限目標を設けたのは、戦時の「国債管理政策」に協力するためだった。長期金利の目標を2.5%とし、3カ月物や1年物にも上限目標を設定。FRBが大量の国債を買い入れて金利を低めに抑え、米国の戦費調達を支え続けた。 パウエル議長は「新型コロナによる経済への長期ダメージを避けるには追加策が必要だ」と明言。4月の会合では長期金利の引き下げを目的に、米国債の購入拡大も議論になった。トランプ氏は新型コロナを「見えない敵と」と表現し、自らを戦時の大統領と主張する。FRBの政策も「戦時」に近づきつつある。 もっとも、導入の是非はこれからの議論次第だ。FOMCの議事要旨では、同案に言及したのは「複数の参加者」で、大勢とは言いがたい。米国債市場は日本などと比べて規模が極めて大きく、中央銀行が金利を操作できるか疑問もある。 市場ではトランプ氏が要求するマイナス金利の導入論も消えない。パウエル議長は銀行の収益悪化などのリスクを挙げて「有用でもなく適切でもない」と完全否定だ。20日に公表した議事要旨でも、マイナス金利政策への言及はなかった。 それでもマイナス金利論が残るのは、FRBが過去の景気悪化局面で平均5.5%も利下げしてきた経緯があるからだ。今回は3月に2回の利下げを決断したが、合計で1.5%の引き下げにとどまる。金融危機時にFRB副議長を務めたドナルド・コーン氏は「マイナス金利も排除すべきではない」と明言。景気の長期停滞リスクが強まれば、緩和余地をつくるため、マイナス金利を検討する可能性がある。

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