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キオクシア上場、同床異夢 調達資金は853億円どまり 東京証券取引所は27日、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)の上場を承認した。東芝の経営危機を受けて誕生した半導体の「日米韓連合」が節目を迎える。ただ、上場に伴う新株発行での資金調達は853億円にとどまる見通し。

一部の主要株主が株式数の増加による株価下落を嫌気したもようだ。株主間の利害関係が交錯するなか、中韓勢に対抗するという成長戦略に不透明感が漂う。 キオクシアはスマートフォンなどのデータ保存に使うNAND型フラッシュメモリーで世界2位のシェアを握る。 上場日は10月6日となる。株式の売り出し条件などが決まり次第、東証1部か2部に上場する。上場した時の時価総額は2兆1300億円とみられ、今年最大の新規株式公開(IPO)の案件になる。 キオクシアは不正会計問題などで経営危機に陥っていた東芝からメモリー事業を切り離して設立された。米投資ファンドのベインキャピタルや、韓国半導体大手のSKハイニックスなどの日米韓連合に2018年に約2兆円で売却された。現時点では東芝がキオクシア株をまだ約40%分保有している。 筆頭株主のベインのほか、東芝など各社は上場に合わせ、キオクシア株の一部を売却する。東芝は27日、保有するキオクシア株を約2割売却すると発表した。売却で得られる金額の過半を株主に還元するとしている。売却後は東芝の出資比率は32%に低下する。 キオクシアの上場の最大の狙いは、市場から調達した資金を成長投資に充てることだ。新規の工場投資には数千億円が必要となる。四日市工場(三重県四日市市)と北上工場(岩手県北上市)では新工場棟を建設する構想がある。キオクシアに設備を納入している業者は「上場でようやく構想が現実味を帯びる」と歓迎する。 ただ、今回の上場には首をかしげる市場関係者も少なくない。キオクシアが27日に提出した目論見書によると、同社が想定する1株当たりの公募・売り出し価格は3960円。約2156万株の新株発行に伴う資金調達は853億円にとどまる見通しで、今後の設備投資をまかなうにはいかにも迫力不足だ。 背景にはキオクシア株を巡る主要株主の思惑の違いがありそうだ。ある出資企業の関係者は「ベインは自分たちの出資比率が薄まってしまうため新株発行を嫌っているようだ」と明かす。増資で1株当たりの価値が希薄化すると株価が下がりやすくなり、既存株主には痛手となる面もある。 IPOの本来の目的は株式市場から成長資金を調達することにある。ただ筆頭株主の意向が影響し、大規模な資金調達に踏み切れなかったというわけだ。この関係者は「半導体は投資を続けなければならないが、それができない」と嘆く。 東芝は今後、半導体メモリー事業に積極的に関与する方針がないことを表明済み。半導体市況に左右されやすいキオクシア株の保有比率を減らすことで、自社の業績の振れ幅を小さくしたい考えだ。 一方、キオクシアのライバルたちは積極投資で先を行く。フラッシュメモリー首位の韓国・サムスン電子は19年末、中国・西安工場(陝西省西安市)に80億ドル(約8500億円)を追加投資すると明らかにした。韓国内の最先端ラインでの増産投資も進める。 中国勢も追い上げる。半導体大手の中国・紫光集団傘下の長江存儲科技(長江メモリー・テクノロジーズ、YMTC)は4月、記憶容量を左右する層について世界最先端水準となる「128層」の開発に成功したと発表した。キオクシアが量産の準備を進める「112層」を上回り、技術力を着実に高めている。 新型コロナウイルスの感染拡大によるテレワーク需要などを受け、NANDフラッシュの需要はデータセンター向けを中心に今後も伸びる見通しだ。 半導体は機動的な設備投資の判断が今後の成長を大きく左右する。半導体メモリーのDRAMで、1990年代に果敢に投資を続けて日本勢を蹴散らしたサムスンが代表的な例だ。 一方、キオクシアは株主の利害関係が複雑だ。ある関係者は「結局、究極のゴールがどの株主も異なる」と話す。足並みがそろわないままの経営では、上場を反転攻勢のきっかけにするとの目標が遠のきかねない。

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