見出し画像

スタンフォード大学コンピュータ学科の憂鬱、次は東大松尾研究室の憂鬱になるか。

1月15日に「HAI Seminar with Russell Wald」というセミナーを聴講してきました。

これは、Stanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligence (HAI)が一般に向けて無料で提供しているセミナーです。スタンフォード大学構内のゲイツ・コンピュータ・サイエンス ビルディングの多目的フロアみたいなところで開催されました。普通に、フリーのアプリ(Eventbrite)で申し込んで、当日は、受付で名字を名乗ったら、そのまま入れました。このご時世、むしろ、それではちょっと怖いです。無料のランチが出ていました。そのためか、内容には興味がなさそうな、ランチ目的のお年寄りも来ているようでしたが、そこは太っ腹のスタンフォードなので、全然大丈夫そうでした。

セミナーのお知らせは、次の通りです。
HAI Seminar with Russell Wald - Stanford University

DeepLというウェブサイトの無料版で内容の説明を翻訳すると、次の通りです。

AIは世間の注目を集め、政策立案者の焦点となっている。 AIに関する懸念は、ニッチな学術的議論から広範な言説へと発展し、世界中の立法措置に影響を与えている。 現在は、主に産業界主導のAI製品に焦点が当てられており、より広範なAIのエコシステムや社会的影響には関心が向けられていない。 この産業界中心のアプローチは、学界や市民社会を疎外し、AIガバナンスを公共の利益よりもむしろ産業界の利益へと歪める可能性がある。 これに対処するため、AI開発には多様なステークホルダーの関与が不可欠である。 科学的好奇心を刺激し、将来のAIリーダーを育成し、政策立案者にAIの客観的理解を提供する、人間中心のAIには、しっかりとした学術研究が不可欠である。 本セミナーでは、政府が公的セクターのAI研究への投資をどのように促進すべきかについて議論し、産業界の優位性と学術界の多大な貢献のバランスを取るための政策を提案する。

ちょっと上位概念でまとめすぎていてわかりにくいように思います。

聞いてきた話の趣旨は、
1.AIの研究・開発は、政府、学界、産業で行われている。

2.よりよいAIを開発するのに、一昔前と違って、現在では、多数のGPU(graphics processing units)を必要とする。現在、開発者が渇望するNvidia H100sというGPUを、例えば、プリンストン大学が、ある週に300個買うと発表すると、同じ週にMetaは35万個を買うと発表し、Microsoftは180万個の購買計画を発表するという具合になっている。

3.そのGPUを訓練するのに、昔の初期のモデルでは、千ドル以下でできたのに、今は、例えば、GoogleのGemini Ultraでは約200ミリオン・ドルかかっている。

4.産業には、2021年に340ビリオン・ドルが投入されたのに対して、学界には、政府から1.5ビリオン・ドルしか下りなかった。そのため、GPUの数、開発費用、開発者の獲得という点で、学界は産業に比べて相当に不利な状態になっている。

5.初めは、大学から始まったAI研究であったが、2014年のAlpha Goの出現で、形勢の逆転が始まり、2022年のChatGPTの出現で、トップ・タレント(PhD保持者)の学界からの流出は、全体の70%にも上るようになった。

6.このままでは、大学での研究がどんどん貧弱になり、研究の共有による開発のスピードアップ、広い範囲への公共の利益、開発過程の透明性(すなわち結果(出力)の公正性の担保)という学界での研究の大事な役割が損なわれていく。大学自身も、内部に抱える問題を解決し、大学への助成金を何らかの形で増額されて行かなければならない。

セミナーの感想としては、ちょっと辛口になってしまうが、もう遅すぎると思います。「産業界の優位性と学術界の多大な貢献のバランスを取るための政策を提案する」というが、大学へもっと投資をと訴えているだけで、特に効果のありそうな政策の提案はなかったように思います。転換点の2014年の段階で、気が付いて対策を講じるべきでした。産業では、そのくらいの「目利き」ができ、行動していった結果が今に至るわけで、学界でも、先見の明が必要でした。もっとも、優秀な人物が抜けた後の学界でそれができる人材がなかったのでしょうか。

日本では、昨今、東大の松尾研究室の卒業生が、研究室の内外で活躍しているようです。内部事情など、詳しいことを知ることはできないけれど、今のところ、松尾教授のバックアップでたくさんのお金を引き出して、研究・開発・収益が出来ているようにお見受けします。が、将来、卒業生たちが多額の資金を持ちだしたら、スタンフォード大学と同じ憂鬱を抱えるかもしれません。

※ 写真は、記事中の実際のセミナーの様子です。