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「怒り」の表出は深く傷ついているから
今回は、「怒り」の感情にまつわる話をします。
心理相談の仕事をしていると、「怒り」の感情を最初からカウンセラーにぶつけてくる相談者がよくいます。
カウンセラーにとっては、「怒り」の感情を向けられるのは、しんどいことではあります。
しかし、深く傷ついている人ほど、「怒り」の感情を表出します。
それは、感情を押し込めてきた場合に、ポジティブな感情よりもネガティブな感情が先に表出されるためです。
このことについて、精神科医の泉谷閑示さんの著書『「普通がいい」という病』に書かれています。
この本の内容を参考にさせていただき、上記の相談者の「怒り」について、考えてみたいと思います。
「怒哀喜楽」の順番に感情表出をすることについて。
心が傷ついている人の感情は、「怒哀喜楽」の順番(怒が一番上)で「感情の井戸」のような所に入っています。
「怒り」「哀しみ」というネガティブな感情が上の方で、「喜び」「楽しい」というポジティブな感情が底の方にあります。
上にある「怒」「哀」が出てこないと、底にある「喜」「楽」は出てこられないわけです。
カウンセリングをしていると、相談者のとくに「怒り」の感情は厄介扱いされがちですが、相談者がそこにある感情を表出して変化していくためには必然とも言えるのです。
「ポジティブ・シンキング」が浅い感情止まりの理由について。
このように考えると、よく言う「ポジティブ・シンキングでいこう」という発想には、無理があることがわかります。
感情の井戸の上の方にあるネガティブな感情を出さずして、ポジティブな感情になろうとするようなもの。
どうしても表面的なものになってしまいます。
「怒」や「哀」は必然的なもので悪い感情ではありません。
「怒り」にもネガティブな怒りとポジティブな怒りがあることについて。
「感情の鮮度」というものがあると考えます。
鮮度の悪い感情と、鮮度の良い感情があるということです。
「怒り」にしても、鮮度の悪い怒りと、鮮度の良い怒りがあります。
鮮度の悪い怒りは、過去に吞み込んだ怒りが溜めこまれて、成仏できずに腐敗している状態です。
過去に向かっていて「今・ここ」にないものです。
くどくどと過去の恨みを言い続けるようなものです。
一方で鮮度の良い怒りは、「今・ここ」にある自分の気持ちです。
後味が良く、後を引かず、本当の思いがそこに存在します。
この鮮度の良い怒りを表出できて、ようやく次の「哀しみ」の感情を表出することができるのです。
そして、「哀しみ」の表出が進み、いよいよポジティブな感情を表出できるようになるのです。
ですから、心が傷ついた人と関わる周りの人たちは、この流れを理解したうえで感情によりそっていく必要があるのです。
感情を溜めこまずにいるために。
以上書いてきたように鮮度の悪い怒りが溜めこまれていると、ときに周囲に向けられてしまいます。
未然にそうならないようにするためには、2つの方法が有効です。
① 人に「話す」こと
誰かに自分の気持ちを話したり相談したりすることです。
言葉にして人に話すことで自分の中で問題や解決策が整理されます。
② 紙に「書く」こと
話す相手がいなくても一人で行えます。
手を動かして書くという行為は、脳を活性化させます。
膠着していた思考が動き出して頭の中が整理されます。
「エクスプレッシブ・ライティング」と呼ばれる方法です。
思ったことや感情を素直に書き出すものです。
「自分を良く見せよう」とか「自分の感情を抑えよう」とか思わずに吐き出すように書く感じです。
気持ちが軽くなって、ずいぶん楽になります。
今回は、心が傷ついている人は、「怒り」の感情を向けてきやすい、それは「怒哀喜楽」の感情表出の順番があるためであるという話をしました。
また、感情を溜めこまない手段として、「人に話す」「紙に書く」ことについても説明しました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【参考文献】
「普通がいい」という病 (講談社現代新書) 泉谷閑示著
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小林いさむ|公認心理師