#みの編マフィア小説 【第8夜】 パトロンの気まぐれ
ボスからのメッセージも終わり、定例会合は終わろうとしていた。
しかし、狂一朗が最後に、皆へ一言二言を告げようとしたその時…
バタンッ!!!
部屋の入り口のドアが大きく開かれた。
「なんだこの騒がしい部屋は… この組織には品位というものがないのか?」
ブルーのスーツに身を包み、手にはMacBook。
丸メガネをかけたインテリ風の男が部屋に入ってきた。
「「財前…テメエ何しにきやがった!!?」」
達夜となべサンの声が重なる。
「財前…?」「財前ってあの…?」「滅多に表に出てこないはずじゃ…」
それに呼応するかのように、メンバーがザワつきだす。
「なんだ、ずいぶんなご挨拶だな。」
財前と呼ばれた男が、さして興味もなさそうに言葉を返す。
「パトロンが投資対象を観察したいというだけだ。なんら不思議なことではあるまい?私とて、こんな掃き溜めのような場所に、好んで足を運びたいわけではない。」
財前一族。
この国に生きる上で、必ず一度は目にする名前である。
高度経済成長を裏で操り、莫大な富を築いた一族。
彼はその末裔であり、みの編マフィアの活動資金の実に6割を提供する、絶大なパトロンであった。
「表に出てこねえやつが久しぶりに出てきたと思ったら、随分な言い草じゃねえか、あぁ!!!?」
財前の軽口に、鼻息荒く突っかかる1人の男。
2メートルに迫ろうかという巨漢にサングラス
組織きっての武闘派である”ブタゴリラ”だった。
「ここでてめえを締め上げることなんざ、容易いことなんだぜ?なあ!お前ら!」
「「「うおぉぉぉぉぉおおおおおお!」」」」
「ウッホ!ウッホ!」「うっほ!うっほ!」
ブタゴリラが呼びかけると、野太い声がいくつも上がった。
財前はその声を聞くやいなや、さも愉快そうに鼻を鳴らす。
「ふっ…ここは豚小屋か何かか?」
「…なんだと???」
ブタゴリラが食ってかかる。
「足りない頭をひねってよーく考えろ?」
財前が赤子に諭すかのようにゆっくりと語る。
「この組織の金銭を握っているのが誰かということをな。」
瞬間、部屋の空気が凍る。
「パトロンとして、投資価値がないと判断すれば、私はすぐさま手を引くぞ。」
放たれた言葉は、メンバー全員の動揺を呼ぶに有り余るものであった。
「なんだと…!!?そんな話は聞いていないぞ!」
狂一朗が慌てて話に割って入る。
「当然だ、今決めたのだからな。」
財前は無情に言葉を続ける。
「今の組織がどの程度のものか、底が知れた。何も生み出さず、考えず、徒に浪費を繰り返すだけの組織に先などない。」
いくつもの組織を見てきた男の言葉は鋭い。
「まだ貴様らに気概というものがあるのなら、せいぜい足掻いて見せてみろ。貴様らの、”価値”というやつをな。」
最後に一瞥し、部屋を去る。
残されたメンバーは途方にくれ、反応することもできなかった。
「見てろ…てめぇがバカにしたこいつらで、てめぇを潰す…」
燃え盛る瞳をサングラスで隠す、ブタゴリラ以外は…