発達(凸凹)に理解がある幼稚園、保育園とは?
予定より1週間遅れての記事公開になってしまいました。主に保護者向けの記事ですが、幼稚園、保育園の先生方もお勤めの園はどのタイプ?と振り返ってみていただける内容になっています。
今回は、5,000文字を超える大作(?)になってしまいましたので目次をつけています。
👶はじめに
発達障害や発達凸凹、グレーゾーン…園はどのように理解しているか
発達障害者支援法が施行されて早17年が経ち(平成17年4月施行)、大人だけでなく、乳幼児健診や、幼稚園や保育園などでも「発達障害」や「発達凸凹」「グレーゾーン」という言葉をよく耳にするようになりました。
私が、キンダーカウンセラー(関西の一部の府県の私立幼稚園で導入されている、幼稚園版スクールカウンセラーのような役割をしている心理職)や保育園の巡回相談員の仕事をする中でも、「よくおしゃべりもするし、集団活動にもついて来れている。でも先生が『何か気になる』『どう接してあげればいいのかわからない時がある』」という子どもの相談をよく受けます。
また、先生が「気になる子」以外の子どもの中にも「成長するにしたがって、集団生活の中でのしんどさが出てきそうだな」と思われる子どももいます。
保護者の中にも、入園前から診断を受けている子、乳幼児健診で「様子を見ましょう」と言われた子、お友達と遊ぶのが苦手、言葉がゆっくりなど、親から見て気になるけれど周りからは「大丈夫」と言われている子など、幼稚園や保育園でちゃんとやっていけるのだろうか、と不安に思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私は2008年から未就学児の支援に携わるようになって以来、10を超える市町村の自治体で、幼稚園や保育園、認定こども園などへの訪問相談活動を行ってきました。そして、この度日本法令から出版させていただいた「幼稚園版スクールカウンセラー 導入・活用・実践ガイド」執筆の際に、これまでの活動を振り返って改めて思ったのは「発達についての理解は、地域によって、園によって実に様々」ということでした。
「え?」
「幼稚園や保育園の先生なのに?」
「乳幼児期の子どもを預かる場所なのに?」
と思う方もいらっしゃるかもしれません。幼稚園や保育園の先生は、言うまでもなく保育、幼児教育のプロですが、発達についての知識や対応方法については、個々の先生の関心や知識に任されているのが現状です。そこに乳幼児期の心理や発達を専門とする私のような心理士が定期的・継続的に関わることで、子どもを様々な方面から理解し支えていくことができるのですが、カウンセラーがいる園は、全国的にもまだまだ少ないと思われます(※)。
この記事では、これまで私がカウンセラーとして活動してきた経験から、園によって違う「発達への(様々な)理解」を、それぞれの対応の例も挙げながら、紹介したいと思います。
👶実は園によって様々な理解と対応
1.発達の凸凹は「誰にでもあるので特別視しなくて良い」という理解の園
この「特別視しない」という言葉をありがたいと捉える保護者もいらっしゃるかもしれませんが、特別視しないというのは特段の配慮もしないということでもあります。実際、発達の凸凹は程度の差こそあれ、誰にでもあるものですが、集団生活の中で良くない方向に目立っている場合は、乳幼児期であっても(というか、乳幼児期という早い時期だからこそ)、特徴に応じて適切に対応していくことが必要です。
このタイプの園は、さらに2つに分かれます。
1.-Ⓐ 発達に関する知識が乏しいか、偏っている。
例えば、多動や不注意がある子も「元気な子」「子どもはこれくらいでいい(自分達が子どもの頃はもっとやんちゃな子もいた)」などと認識されています。保護者が気になることを相談しても「気にしすぎ」と流されがちで、実際、園や家庭での介入が有効な凸凹も、見逃されてしまいます。
園にとって、発達の凸凹は「特別視する必要がない」ので、子どもへの注意の仕方も、一般的(「また〇〇君は!」「××はしたらダメだと言っているでしょう。何回言えばわかるの?」等)です。このような叱り方が有効でない子は、同じ失敗を繰り返してしまいますし、その度に同じ叱られ方をするので、「自分は何回言われてもできないダメな子」という自己像を持つようになってしまいます。
他には、
・活動に参加せず床でゴロゴロしている
・偏食が激しい
・「~してもいい?」など先生への確認が多い
・お友達より先生と遊びたがる
など発達の凸凹から来ている可能性がある「気になる様子」についても、家庭環境や、親の関わり方に問題があるから、または愛情不足などと捉えられて見逃されがちです。
こういった園で過ごした子どもは、在園中は「問題ない」かもしれませんが、この「問題ない」は、あくまで園から見ての問題のなさですから、卒園と同時に世間の荒波に放り出されるような状況になります。小学校に行って環境が変わるとしんどさが出てきた、といったことが起こります。
1.-Ⓑ 発達に関する知識はあるが、寛容すぎる。
1.-Ⓐ とは違い、発達に関する知識は持っておられるので、例えば「教室を抜け出してよく職員室に来る子ども」がいたら、無理に教室に戻そうとせずに職員室で受け入れます。「数字を書くのが好きで紙と鉛筆を渡すとずっと書いてる。3歳なのに100まで書ける。これがこの子の強みなのでもっと伸ばしてあげましょうと、保護者にも話している」という認識をされていたり、外遊びの時間に、一人で園庭で過ごしている子どものことを、「虫やゴミなど、何かを探すのが好きな子。興味、関心があることへの集中力がすごい(自閉スペクトラム症なのでこの過ごし方でいいし、将来が楽しみ、というニュアンス)」
などの認識をされています。
発達に関する知識は正確ですし、一人ひとりの特徴を理解して尊重もされているので、一見良いように見えますが、対応は1.-Ⓐ とある意味同じで、「診断がついているから」「凸凹があるから」これで良いのだ、この子の長所なのだ、と実質放置されてしまっています。
「3歳で100まで数字を書ける記憶力と器用さ」「何かを探す関心の強さや集中力」は確かにその子の強みです。でも、その能力だけでこれからの人生を生きていけるわけではありません。今のうちに、興味や関心の輪を少しでも広げたり、友達と何かを共有したり、一緒に楽しく遊ぶような体験をさせておいてあげたいものです。
こういった園で過ごした子どもは、凹の部分の成長の可能性に、目を向けられずに園生活を過ごすことになります。発達の特性を持っている子にも、集団生活の場だからこそできる働きかけや、その子なりの友達との関り方を育ててあげる工夫もあるのですが、そういった体験をすることなく、小学校に進むことになります。乳幼児期に取り組める発達の課題を先送りにしてしまうのと同じなので、やはり、小学校に行ってから苦労することになります。
2.補助(加配)の先生をつけてくれる園
特に診断名がついている子どもの保護者にとっては、大変ありがたい園です。ただ、補助の先生と言っても、発達や特別支援のプロがつくわけではない、ということはあまり知られていないかもしれません。
今は公立・私立、また幼稚園・保育園を問わず、ただでさえ人手不足の状況です。教員免許や保育士免許を持っているパートの先生が補助について下さるのは良い方で、学生バイトやボランティアを配置している園もあります。子どもの成長に合わせた関り、成長を促してくれるような関りを期待できるところは、少ないのが現状です。
また、補助や加配の先生がついていても、次のような「望ましくないつき方」をよく見かけます。私はこれを「補助の先生の三大誤用」と呼んでいます。
補助の先生三大誤用ー① リスク回避要員
その子やクラスの他の子に、危険なことが起こらないように、介入したり見守っているだけの存在になっている。
補助の先生三大誤用ー② 二人の世界を作ってしまう
集団に入れなかったり、やりたいことがたくさんある子どもの場合は特に、補助の先生と教室の隅で二人で遊ぶ「二人の世界」をつくってしまいがち。子どもは、クラスの活動よりも自分のことを理解してくれる補助の先生と遊んでいる方が楽しいので、集団に入ることの楽しさや意味を見出す機会を逃してしまうことに。
補助の先生三大誤用ー③ 面倒を見すぎる
その子が活動に遅れないようにと、身の回りのお世話係のようになってしまっている。子どもは一見、集団生活について行けているように見えるが、「補助の先生がいなければ、できない」状態は変わっていない。結果、その子の園での自立を遅らせてしまうことに。
いずれの誤用も、その子が小学校に入ってからの生活まで考慮されていないのが特徴です。「小学校に行ったら特別な先生なんてつかない」地域だと、子どもは卒園した途端、身近に助けてくれる先生、遊んでくれる先生がいなくなり、集団生活は路頭に迷います。
理想的な補助や加配の先生の在り方は、① は必須としても、②と③は出すぎず引きすぎず、程よく介入する存在になってもらえることです。
保護者の理想としては、補助の先生には、我が子の得意な活動、少し頑張ったらできる活動などを把握し、機会を見て働きかけたりサポートしたりして、集団生活を楽しく送れるようにサポートしてもらえることではないかと思いますが、そういった関わりは現実的には難しいため、園とは別に、療育、児童ディ(児童発達支援事業所)などに通わせて、補い、育ててあげてほしい部分です。(この話は、また別の機会にでも。)
3.診断がついている子も快く受け入れてくれる園
一見、理想的ですが1.-Ⓑ のように寛容すぎたり、また「診断がついている子だから」と「困った行動」にも対処しない実質放置の園もあります。
「困った行動」というのは、例えば、気に入らないことがあると暴力をふるう子どもを「発達障害があるから仕方がない」「周りの子に怪我がないように気を付ければいい」と、補助や加配の先生も前出の「補助の先生三大誤用ー①リスク回避要員」として付けておられたりします。「クラスのお友達も、〇〇ちゃんはこういう子だと分かって認めてくれているから」と聞くと素晴らしい感じもしますが、実際には、周りの子にとっての〇〇ちゃんは「気に入らないことがあるとすぐ暴力を振るう『怖い子』」に他なりません。放課後も一緒に遊んだり、小学校に行っても仲良くしたい「お友達」がいるのか、できるのかは疑問です。
余談ですが、暴力行為は特に、小学校以降の社会生活でも問題になりますので、発達障害の診断がついていようがいまいが、幼児期の間にきちんと対処しておくことが必要です。しかしこういった知識や意識がない園は「診断がついているのだから仕方がない(変わらない)」「診断がついているのだから、困った行動は治らない」ので、「園に通っている間は、その子や周囲の子に怪我がないように見守るのが仕事」という認識をされていたりします。
👶本当の意味で「発達に理解がある園」とは…
1~3まで「一見、発達に理解があるように見える。でも蓋を開けると…」という園の特徴を挙げてきました。それでは、本当の意味で「発達に理解がある園」とはどのような園でしょうか。
まとめると、
子どもの発達的な側面についての関心が高く、知識を持っている先生が多い。
「診断名がついている子」
「診断はついていなくても凸凹がある子」
「一見、問題なく見えても場面によって、取り組みによってしんどさが見られる子(いわゆるグレーゾーン)」
たちの存在を認識、把握し、その子に合った関りを心がけてくれている。担任の先生が園生活の中で気づいた、その子の「気になる」面は、担任だけ、園だけで対応せず、保護者ともしっかり共有されている。
【補足】
中には気づいていても「関係が悪くなると困るから」と、保護者に伝えようとしない園があります。しかし、学年が変わったり、小学校に上がるなど環境が変わった時に(その子に対処できる先生がいなくなり)、これまで目立っていなかったしんどさが表面化することがあります。こうなると、せっかく早期に発見しているのに、対応を開始する時期は遅れてしまいます。普段、担任や園が把握している「気になる」点、園がしている対応の工夫や配慮は、保護者としっかり共有されているのが理想です。補助(加配)の先生の付き方が適切。
アルバイト学生やボランティアであっても、2.で見てきたような適切な付き方が指示されている。自傷や他害(暴力行為)に対しては、障害、特性と容認せず、きちんと対処している。また、保護者と、どのような対応が有効か等の情報交換ができている。
といったところでしょうか。
それ以外に、
園や担任が疑問に思ったり、対応に悩んだ時に相談できる、幼稚園版スクールカウンセラーや保育巡回相談員(乳幼児期の心理や発達に詳しい心理士/心理師)がいる。
かどうかも大切です(※)。
園によっては、保護者が園内でカウンセラー(相談員)に相談できる仕組みをつくっているところもあります。
1~3のように、一見、よく見える理解や方針もその中身は様々です。
蓋を開けてみれば…というようなことにならないように、保護者のみなさんも、知識をつけていただければと思います。
(※) 2021年8月に学校教育施行法が改正され、幼稚園にもスクールカウンセラーを配置できるようになりました。が、配置している園はまだまだ少ないと思われます。皆さんの園は、どうですか?
〇 幼稚園版スクールカウンセラーであるキンダーカウンセラーや保育巡回相談員について知りたい方はこちらの記事もご参考下さい。