『On Your Mark』
『On Your Mark』
原作・脚本・監督:宮﨑 駿
製作:Real Cast Inc.
制作:スタジオジブリ
音楽:飛鳥涼 主題歌:CHAGE&ASKA
上映時間:6分48秒
配給東宝(「耳をすませば」と併映)公開日:1995.7.15(土)
今、宮崎駿の作品の話をするのであれば、『君たちはどう生きるか』だろというツッコミがありそうですが、それは他のどなたかが紹介するに違いないということで、僕はこの28年前に宮崎駿とCHAGE&ASKAがコラボレーションして作った作品について紹介しようと思います。
1995年に制作されたこのMVは、ライブ時に上映するようにとCHAGE&ASKAからの依頼で作られたものです。
今年の「映画のまち調布シネマフェスティバル2023」で、『耳をすませば』と共に上映されたことで、再び話題を呼んでいます。
On Your Markの詳細な内容については、色々なサイトに書かれているので、下記の参考サイトを見てもらいたいのですが、簡単にだけ説明しておきます。
「放射能で汚染された世界で、その中でも生きられる力を持つ、天使のような少女を権力から解き放とうと、チャゲとアスカに模した2人の警官が力を合わせて少女の奪還を計る」というものです。
作品が作られた当時の時代背景を考えると、チェルノブイリの原発問題があったり、世紀末を控えていたということもあり、そういう未来への不安が漂う時代の中で、警鐘を鳴らす作品として作られたのだろうと思われます。いつだって、出発点で、その岐路に僕らは立っていると。
そして、コロナが明けた今、まさに再度この岐路に立たされているということで、上述した映画祭でも上映されたのかなということを勝手に推測しています。
<参考サイト>
※岡田斗司夫の方は、MV見てから見た方が良いです。
このコンテンツの内容については、色々な見方ができるものとして作られているので、皆さんがどう見たのかということについて、また話をしたいなと思うのですが、僕は上記の参考サイトなどを知らずに、友人からの紹介でこのMVを見たということもあり、全然違ったことを考えました。
僕は最近はAIのことばかりを考えているので、この世界がAIが猛烈に進歩した世界として感じられ、この天使は汚染された世界で生きられるどうこうではなく、AGI(汎用人工知能)として捉えてしまい…と、完全に間違った見方をしてしまっておりました…
話を元に戻して、僕がこのコンテンツを紹介しようと思った理由は以下の点からです。
・28年経ってもなお古びることなく注目を集めるコンテンツとはどういうものなのか。
・ライブで流すための映像というある種のクライアントのオーダーを満たしつつ、制作者としてコンテンツに作家性を潜ませることとは何なのか。
僕らの制作の仕事というのは、SNS動画などが最たるものですが、消費期限がとにかく短い。今年僕がディレクションした動画の99%もしくは100%は今年中には消費期限が過ぎ、来年には世界から消滅していると思います。
企業のプロモーションなどもそうですが、むしろ、今年のうちに消費できるだけしてもらって、来年はまた新規発注してもらうというのが、ビジネスとしてありがたいサイクルになるわけですが、コンテンツが制作した当初の役割を果たした後に、コンテンツ自体として生き残っていくものがあるとしたら、それは作り手にとってもコンテンツにとっても大変喜ばしいことだと思うわけです。
(誤解が無いように伝えたいのですが、長く使ってもらえるものを作りましょうという話をしているのではなく、クライアントが求める要望を満たすだけのコンテンツ作りが決して正解ではないということです。)
本作品を紹介する狙いの二つ目の話と関係してくる話なので、少し昔話をしますが、サラリーマン時代に、同僚や先輩と番組を制作した後に常に話題に上がったのが、「今回はどれくらい潜ませられたか」ということについてです。
潜ませるというと何か悪いことをしているように聞こえますが、そういうことではなく、言わなくちゃいけないこと、言ってはならないこと、というある種のクライアントワークのようなものが存在します。これは番組として放送する以上、満たさなくてはならない要件です。
また、ドキュメンタリーでもドラマでもそうですが、物語には始まりがあって終わりがあるという大きな流れ(構成)が存在します。それを分からせなければコンテンツとして成立しないので、商品としては必要不可欠なものであるわけですが、必ずしもその大きな流れ自体が作り手が伝えたいことであるとは限りません。むしろ、コンテンツに求められることが「より多くの人に好んで見てもらうこと」という前提がある時点で、その大きな流れというのは一般化されていくわけで、それ自体に面白味や目新しさを持たせるのは色々な意味でかなり困難なわけです。そんな中で作り手が独自の視点で伝えるべき、見せるべきと誰に頼まれたわけでもなく自らのクリエイティブを発揮する余地が、この「潜ませる」という行為だと考えています。
この後、潜ませる行為自体について色々と書こうとしたんですが、どうも説
(またまた誤解が無いように言いますが、潜ませられているから素晴らしいとか、消費期限が長いとかそういうものではありません。素晴らしいと言われているコンテンツの多くにはクリエイターの息吹が潜んでいるということです。さらに、今回は映像コンテンツの話をしていますが、WEBサイトでもグラフィックデザインでも僕は同じだと考えています。)
制作において、クライアントが求めるオーダーに応えることは、キャリアを重ねることで、自然とできるようになっていきますが、この潜ませるという行為は、何年やっても自然にできるようにはならないと考えています。
今日は偉そうに色々と書いてますが、僕自身がこの潜ませるということができているわけではなく、むしろ日々、踏ん張らないといけないと思っています…。この潜ませる行為自体は大変頭も労力も使うので大変なのですが、これをやらないで制作をしていくと完全な消耗戦に突入します。
言われるものを作るだけの制作マシーンと化してしまいます。制作の初心を忘れずに、取り組んでいきたいなという自戒の念を込めて、今回はOn Your Markを紹介させていただきました。