アピールプレイ(その2)
アピールプレイその1では、どんなプレイをアピールプレイとしているのか、また、選手はどのようにアピールするのかを中心に書きました。
この記事ではどちらかというと審判目線で、何をしなければいけないか、
何に注意しなければいけないかを解説します。
【守備側からアピールされたら】
・何についてのアピールなのかを確認
これは野球規則 5.09(c)【注4】で規定されています。
野手からアピールがあった時、審判は
・何についてのアピールなのか
・どの走者を対象にしているのか
この2つを確認しなければいけません。
例えば走者なしの時に二塁打を打った打者走者が一塁を踏まずに二塁まで行ったようなケースでは、一塁手がアピールをするでしょう。
そんな時なら「走者が一塁を踏まなかった」だけでもわかります。
ところが、走者一塁で打者が三塁打を打ったとかホームランだったような場合に、二塁でアピールをされると、「走者が二塁を踏まなかった」と言われても、一塁走者のことを言っているのか打者走者なのかがわかりません。
ですので、どの走者に対してのアピールなのかは野手の口で言わせてください。
・「どの走者に対して」を間違わないように
これ、高校での練習試合で実際に起こったプレイです。
走者一三塁のときに打者が長打を打ち、一気に三塁へ行きました。
無論、一塁走者も三塁走者も本塁へ生還しています。
すると二塁手から 「三塁走者が二塁を踏んでいません」 と僕にアピールしました。
「ん?三塁走者?三塁走者は二塁なんか踏まんだろ?」 と思いましたが
ひとまずセーフの判定をしました。
恐らくその二塁手は、打者が三塁セーフだったので、その走者が二塁を踏まずに三塁に行ったと言いたかったのだろうと後で気づきましたが、特に問題なくその回の攻撃は終わりました。
打者走者であろうと一塁走者であろうと、二塁を踏まずに(空過と言います)三塁へ進んだ場合、三塁ではセーフだったにしても、二塁を踏んでいなかったその場面ではまだ打者走者(一塁にいた走者なら一塁走者)です。
ですから、審判に対してアピールする時には、
打者が一気に三塁へ行ったので 「打者走者が二塁を踏まなかった」 と
表現しないといけませんし、この高校のケースで言うなら二塁を通過した
走者は2人いますから、
前位の走者(一塁走者)とか後位(打者走者)という表現でも構いません。
【ボールデッド中にアピールされたら】
・ボールデッド中にアピール
例えば、打者が二塁打になるヒットを打ち、二塁へ着いたところでタイムがかかったとします。
そこでボールデッドとなるわけですが、その時に一塁へ返球し一塁でアピールするということはできません。
ボールインプレイ中でなければアピールは認められていないのです。
これはアマチュア野球内規 ⑦ で定められています。
※但し、ボールデッドのまま試合終了となるような場合のように、プレイが再開されずに試合終了となるような場合にはアピールは可能です。
・ボールデッド中のアピールに対して審判はどうする?
これもアマチュア内規 ⑦で定めています。
「今ボールデッド中だ」 「今はタイムがかかっている」 などのように、
ボールインプレイではないということだけをアピールした選手に伝えます。
決して「アウト」、「セーフ」などの判定をしてはいけません。
ついやりたくなるんですけどねぇ。。。
「プレイが再開したらアピールできるよ」などと言うのはアドバイスやヒントを与えることになりので絶対厳禁です。
けっこうありがちなので気を付けましょう。
【不正規な走塁に気付いても・・・】
・目の前で走者が塁を空過した
審判は完全中立で公正な立場ですので、選手や監督、コーチにも一切のヒントやアドバイスを与えてはいけません。
そのため、自分の目の前で走者が塁を踏み損ねているのを見ても、何もなかったかのように振舞ってください。
間違っても、「あの走者ベース踏んでないかもね」 みたいなことは絶対に言ってはいけません。
・走者が塁に着いた時にプレイが発生していない場合
これは必ずしもアピールプレイとは関係しない場合もありますが、
例えば、本塁への返球が間に合わず、捕手が走者にタッグするようなプレイが発生しないと、走者は悠々と本塁へ生還します。
こんな場面では、初心者の審判だと思わず「セーフ」のジェスチャーをしてしまう場合がありますが、このような「プレイが発生していない」場面では判定を出してはいけません。
もし走者が本塁へ達したときに本塁を踏んでいなかったとしたら、
本塁に触れていないのですから「セーフ」の判定は出せませんよね。
そうすると、守備側にとっては
「走者が本塁に戻ると、プレイが発生しなくても「セーフ」を出すのに、
「セーフ」を出さなかったということは、走者が本塁を踏んでいないんだな」と思わせるかもしれません。
これは守備側へのヒントを与えることになりかねませんのでやってはいけないのです。
ですから、野手と走者の間にタッグプレイがなければ判定を出してはいけないのです。
※本塁フォースプレイの時にもプレイ(ボールを持って塁を踏む)が発生すれば必ず判定を出しますが、プレイがなければセーフは出しません。
繰り返しになりますが、本塁へ返球もなくタッグプレイにもならない、
或いは捕手がボールを持っていたとしても、タッグしにいかなかったような場合走者が本塁を踏んでいても踏み損ねても、決して「セーフ」をコールしてはいけません。
【アピール権の消失】
・守備側がアピールできる権利
プレイが行われ、プレイが落ち着いたら守備側はアピール権を行使することができます。
前項にも書きましたが、守備側選手にはインプレイ中であればいつもアピールする権利はあります。
ただ、タイムがかかったり、ボールがボールデッドゾーンに入ったりして
試合が一時的に止まったていらアピールできないというだけのことなので、アピールする権利はそのまま残ります。
ですので試合が再開したらアピールすれば良いのです。
試合を再開するには、投手がボールを持ち、投手板に触れたところで球審がプレイをコールします。
投手は投手板から軸足を外してアピールしたい塁の選手にボールを投げます。
その塁の野手はボールを持って 「前位の走者が三塁を踏んでいませんでした」 という感じで審判にアピールすれば良いのです。
・ひとつでもプレイがなされたら権利消失
しかし、以下の場合には守備側のアピールが消失しますので、このような場合にはアピール権はなくなり、審判もアピールを受け付けてはいけません。
投手がアピールをするために塁に送球したら悪送球ボールデッドになった
投手が次の打者へ1球でも投球した
その他何か一つ(1球)でも他のプレイが行われた
少しわかりにくいので事例を紹介しましょう。
走者二三塁のときに打者が大きなレフトフライを打ちました。
三塁も二塁もタッグアップをして三塁走者は本塁へ、二塁走者は三塁へ進みました。
次の打者を迎えた時、投手は三塁走者のタッグアップで離塁が早かったと思い、三塁に送球しました。
しかし、三塁手は三塁走者へのけん制球だと思いこんでアピールをせずに捕ったボールをそのまま投手に返してしまいました。
投手は三塁手に「アッピールしろ」と言ってもう一度三塁へ送球し三塁手がアピールしても審判はアピールを受け付けません。
理由は最初に三塁へ投げたことが一つのプレイの完了なので、その後でアピールはできないということです。
もう一つの事例があります。
走者一塁の時、一塁走者は盗塁を試みました。
投球を受けた捕手が二塁へ送球したところ、大きな悪送球となり、
ボールは外野へ転がっています。
その間に一塁走者は三塁近くまで走っていましたが、外野からの返球で二三塁間のランダウンプレイとなり、走者は三塁セーフとなりました。
ここで二塁手が、走者が二塁を踏まずに三塁へ行ったように見えたのでボールをもらいアピールをしました。
アピールが認められ走者はアウトとなりました。
このケースでは、二塁を踏まなかった後で外野から三塁への送球、二三塁間でのランダウンプレイなど、送球は何度か行われていますが、これは一つのプレイが発生したとはなりません。
一塁から二塁への盗塁から始まった一連の連続したプレイなので、プレイが落ち着くまでに送球が繰り返されてもアピールを失うことはないのです。