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ビジネス#1 | なぜ高級食パンは中国で流行らなかったのか?

我が家は「ごはん」を主食としていたので、東京で1人暮らしを始めてから、ようやく「ごはん」から「パン」に切り替えることができた。

とはいえ、最初はバゲットやカンパーニュなどのハード系が好きだった。とあるきっかけで、完全なる高級食パン派となった。

それは2018年の秋、出張で大阪に行った時、仕事が終わり、帰りの電車に乗ろうとしたら、「のがみ買ってくるから、先に乗って」、と上司に言われた。

のがみってなに?

と思いながら調べてみたら、あの高級食パンの店だった。

東京の店舗は常に行列が長いが、大阪のこのやや田舎の駅に入っとる店なら、そこまで込んでなかった。出張のおみやげとしたら、家族も喜ぶだろうと。

それを聞いてミーハーの私も勿論買ってみた。結果、そのもっちりとした食感に感動しすぎて、その後もハード系に戻ることができなかった。

こんなにおいしいのに、なぜ中国では流行らなかったのだろう、と時々思う。

■ なぜ高級食パンは中国で流行らなかったのか?

そもそも中国では食パンの購入需要がまだ限られている。

日本では、16世紀半ばにポルトガル人経由でパンが入ってきた。20世紀半ばから食卓に登場し、近年ではごはんと同等・むしろごはん以上に根付いた。

中国にパンがやってきたは、20世紀後半だった。最近になって若者を中心にクロワッサン、サンドイッチ等が馴染んできた。とはいえ、大半の中国人にとって、パンは主食というよりも、まだお菓子のイメージが強いだろう。(今の中国のパン市場は日本の1970s-1980sに相当するような論調もある)

また、高級食パン屋Viking Bakeryが打ち出した、「一日のはじまりをしあわせに」というコンセプトも示したように、食パンは朝ごはんの利用がメインと思う。なお、日本とは違く、中国では朝ごはんの外食文化が盛んでいる。

朝ごはん専門店や屋台が街に散在し、豆浆、油条、豆腐脳、小籠包、腸粉、野菜まん、肉まんなど、子どもの頃から変わらない味で人気を呼んでいる。毎日違うものを食べれるし、値段も安い。この多種多様な選択肢が存在するなか、食パン需要が上がらないのも理解できなくはないだろう。

■ 今後、高級食パンが流行るのか?

以下2つの原因から高級食パンブームが起こるのではないか、と筆者が思う。

・ 食生活の西欧化に伴う需要拡大、多様性

某戦略コンサル会社のとある資料では、世界各国の飲料市場の発展段階を「成長前」、「量的拡大」、「多様化」、「成熟」と4つのステージに区分した。食パン市場も同様に4つのステージに区分すると、中国の食パン市場は「量的拡大」から「多様化」に進んでいるとも言えよう。CABCIによれば、2017年中国一人当たりのパン年間消費量はわずか4.4kgで、日本の20kg・韓国の10kgに比べて、はるかに低水準で今後益々パイが拡大すると予想している。

・ 健康志向、プチ贅沢志向の広がり

この大きな成長性を秘めている巨大市場では、海外から製パン原材料メーカー、製パンメーカーが開拓を急ぎ、現地ベーカリーも販売規模を拡大している。数多いプレーヤーの切磋琢磨によってパン市場が成熟化し、消費者も「美味しさ」から「付加価値」を求めるようにシフトすると予想している。

その中で、健康志向が台頭し、ホワイトカラーを中心に、伝統的な豆浆、油条、肉まんなどから離れ、食パンに目を向けるだろう。また、可処分所得水準の向上に伴い、「プチ贅沢」への消費意欲が高まり、高級食パンへのニーズも自然に生まれてくるだろう。

■ 今後、中国の高級食パン市場へ参入するとしたら

中国の食パン市場は、1)スーパーやコンビニ経由で販売している食パンメーカーと、2)実店舗を構えているベーカリーチェーンが大半を占めている。

前者は、セントラル工場 + 卸販売で展開している現地ベーカリーがほとんど。「桃李」、「達利」などが主要プレーヤーとして挙げられる。値段設定は高くないが、実店舗を持たず、スーパーやコンビニ、ネット販売を販売チャンネルとしているため、コストを抑えて利益を捻出している量販型。

後者は、人の往来の多い地域に店舗網を構え、現場で焼き現場で売り、一部はベーカリカフェーの形で運営している。「BreadTalk」(シンガポール系)、「Christine」(台湾系)、「85℃」(台湾系)、「ヤマザキ」(日系)などの外資系が挙げられる。やや高めな値段設定で、価格よりも価値を重視する都市部の住民を狙っている。

今後、中国の高級食パン市場へ参入するとしたら、恐らく後者から進化したプレミアムベーカリーという形で、後者と顧客を奪うこととなるのだろう。値段が少し高く設定しても、付加価値の高い商品であれば、ヒットする可能性が十分あると考える。

なお、現地スタッフの育成、店舗運営ノウハウの蓄積、原料調達、現地顧客の嗜好に合わせた味の開発など、じっくりとした準備も必要だろう。

また、高級食パンの海外進出として、関西発の「嵜本」は1年前後の準備を経て2020年4月に台湾で1号店を出し、半年以上経っても行列が絶えないようだ。また、日本の高級食パンブームを受けて、台湾現地の人が立ち上げた高級食パンの店も沢山ある。近い将来、中国のスーパー都市である上海や北京でも高級食パンブームが起こるのではないかと思う。

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