『SHINPA the Satellite Series #2 在宅映画制作』リレー公開を完走して。
皆さん、こんばんは。映画上映企画 SHINPA の二宮です。今夜『SHINPA the Satellite Series #2 在宅映画制作』で制作された24本の映画のリレー公開を無事完走することが出来ました。参加してくださった監督の皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。とても意義深いプロジェクトになったと思います。完走した今、感じていることをここで綴らせてください。少々、長文になってしまいましたが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
たった約3ヶ月前の2月のこと。映画界のある変化の兆しが、大きな希望となり、世界を大いに沸かせました。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が、第92回アカデミー賞授賞式で作品賞含む主要4部門を受賞し、歴史的快挙を達成。言語の壁を超えて、本当の意味での映画のグローバル化がここから始まる、そんな高揚感に胸が躍ったのは、僕だけじゃなかったはずです。それからすぐ文字通り、映画界は「変化」しました。しかし、その「変化」は、僕たちが全く予想してなかった形でした。
コロナ禍で、作品の発表の形態は変更を余儀なくされ、映画館の在り方については、今までより深く議論されました。コロナ後の世界で、いかにダメージが少なく、より良い状態で映画産業を再発進させられるか。そのために自分たちが今出来ることは何か。それを業界に携わる人間に限らず、映画ファンも巻き込み、皆で一緒になって考える時間になりました。
時代の流れの中で、旧来のシステムが変更を迫られることは、致し方ないこともあるとは思います。しかし、そんな状況の中で、本質的に大切なことを見落とすことだけは絶対に避けたい。さらに欲を言うなら、ここで一旦立ち止まり、冷静に考え、共有し合ったことを、これまで以上のさらなる発展につなげたい。それは、3ヶ月前、頭に浮かべた希望を忘れないためにも。僕はそんな思いでした。
今回、24人の映画監督たちが手を取り合い実現した『SHINPA the Satellite Series #2 在宅映画制作』は、映画を使って、在宅を呼び掛けるものでも、社会に何らかの特定の声明を投げかけるために行ったものでもありません。来る映画産業の再発進に備える中で、それぞれの監督が在宅という初めての制約で制作することが、創作の礎のアップデートになること、そして新たな場所、新たな形で作品を発表することが、オーディエンスを含めたより多くの方との新たな交流につながること、そんなことを期待して始めたプロジェクトです。
YouTubeで作品を無料公開したことは、作品を観るための敷居を下げるためではなく、これから共に映画業界を盛り上げていく仲間集めをお客さん含めて、広い間口で行いたかったと捉えて貰えると嬉しいです。僕たちの大舞台は、常にスクリーンにありました。なので、今回の24本の作品の中で良いなと思える監督やスタッフ、キャストとの出会いがあった方は、ぜひ次は映画館まで足を運んでみてください。もちろん、今後は劇場以外の選択肢も映画界の中でどんどん増えていくでしょう。僕たちの居場所も多様化します。ぜひ僕たちの作品を見つけてください。どんな時も、僕たちは「ここだよ!ここ!」と健気に手を振っています。
ピンチの時は真摯に手を取り合い、栄えるときはそれぞれの場所で互いに拮抗する。それが理想のライバル同士の関係だと僕は思っています。普段は共に仕事をすることがまずない映画監督同士が、「SHINPA」という場所でそのような関係を築けていることを、とても誇らしく思っています。
「SHINPA」は、2014年に映画の上映企画として発足し、映画監督たちが集まって行うことをコンセプトに、何度もイベントを企画してきました。僕は、SHINPAの活動が、誰かの映画に関する知見の広がりや、映画の新たな面白さの発見につながれば良いなと願い、活動を続けています。そして、それぞれの覚悟の中で日頃ひとりで活動している映画監督たちが、一堂に会した時に発揮する、底知れない独特の力強さは、僕にとって、とても刺激的ですし、それがSHINPAの面白さになっているように思います。
もちろんSHINPAを盛り上げるのは、映画監督たちだけではありません。今回の在宅映画制作もそうですが、SHINPAはこれまでも異業種の人が映画制作に初挑戦するきっかけを作り、歓迎してきました。映画作りの面白さはきっかけさえあれば、誰でも体験することが出来ます。自分たちの作品を披露し合うことで生まれる交流は、監督に限らず、作品に関わった全員にとって、とても充実していて、心に深く刻まれるものです。SHINPAがきっかけとなり、映画を作る機会が生まれることは、とても喜ばしいことです。それは観客としてSHINPAに接した方に対しても、同じ思いです。
正直、今の日本映画業界は深刻な問題をいくつも抱えています。しかし、その現状認識だけに煩わせてしまい、ポテンシャルのある可能性や方法に掘り下げていく時間が持てないのも事実です。例えば、いま一度映画の批評行為が新鮮な力を持つことで、観客と作り手の双方が切磋琢磨し合えば、より良い状況を作れると思います。観客と、作り手と、興行主の3者がもっと有機的に作用し合い、映画が今以上にどんどん面白くなっていく余地は、存分にあるのです。
映画を愛し、大切に思う人をどんどん増やしていくのは、もっともシンプルな道だと思います。映画を観る人が増え、そして映画を志す人が増える。そうすれば、いろんな可能性が増えていく。その流れが生まれたら、深刻な問題を解決するどころか、日本映画が世界で飛躍的に台頭することだって期待できます。
そういったことを実現するために、僕自身が監督として邁進して映画を作る。それ以外の角度でも出来ることないだろうかと思い、活動を続けているのがSHINPAです。映画を作る、見せる、それにまつわる様々なチャレンジを重ね、映画にまつわる人の輪を大きくすることに貢献したい。これからもその可能性をどんどん見つけて、挑戦していきます。そして、それらが、映画のグローバル化の前線で、僕たちが走っていける土壌になることを願っています。
少々熱くなり、話が飛躍してしまいましたが、これからもSHINPA、そしてSHINPAに参加してくれている映画監督の皆さんを、ぜひ応援して頂けると嬉しいです。三密というワードがスタンダート化した今、次のSHINPAがどのような形で開催できるか、まだ検討もつきませんが、今回の企画が実現したように、必ず何かしら仕掛けて参りますので、ぜひ今後ともよろしくお願い致します。
それでは皆さんが、安全と健康、そして素敵な映画との出会いに恵まれますように。
二宮健
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