『怪物的未来』 安川有果 監督 【 在宅映画制作LINER NOTES #22 】
ガール/デタッチメント/メタモルフォーゼ
少女たちの些細な交流も、コロナ禍で一寸先は闇だ。安川監督が、在宅制作映画で、十八番とも言える不穏なガールズワールドを新たなフェーズで作り上げた。在宅制作という制約が、新たな角度で、より今日的に、少女たちの世界を再構築することを実現している。安川監督は、少女にとって日常と闇は表裏一体で、危ういものであることを、度々私たちに訴えかける。一度、無垢な少女が好奇心を持ってしまえば、そこで少女を思う少年はいつだって無力だ。少女が、外からの攻撃でどれだけ傷つこうが、”怪物”は常に少女自身の中にあるのだから。『怪物的未来』は、安川有果的未来の新しい観測地点を私たちに与えてくれる。
Postscript #22 安川有果監督
・今回の作品の着想は?
最近読んだ「氷」という小説の中に、氷河期で今いる街が消えそうなのに、部屋に愛着があって逃げるか迷う少女の描写があって心に残っていました。人が住んでいる部屋の存在感を映像で表現できないかな?と閃きました。
七里圭監督の風景だけで構成された映画『眠り姫』も念頭にありましたが、家の風景だけでは厳しいし、スタイルに囚われすぎず自由に作れたらなと思いました。
カードの不正利用は実体験です。日記的な映画なので入れてみようかなと思いました。ネットとの距離が近いと、突然恐い情報が入ってきてその日1日調子が出ないことがあったので。
「怪物的未来」というタイトルは、姉で詩人の安川奈緒の全集がもうすぐ発売になるので、詩やエッセイを読み直している中で見つけた言葉です。
“「書く」に自分を投入する”と題された対談の中で、「(世代が比較的近い詩人が集まった時に)お互いにこれは違うんじゃないかといった喧々諤々とした状態、仲良くやっているという感じではなくて、男前の男女たちがイライラとやり合っている争いのある空間、そういう場所に今の現代詩をしたいと思っています」と語っていて、私もその言葉に共鳴し、SHINPAもそのような場になれば面白いなと思ってこのフレーズを使わせていただきました。
短編の内容そのものとはあまり関係ありません。
あとは単にこのフレーズがかっこよかったのと、地味な映画なのでタイトルくらい派手にいきたいと思いました笑。
・撮影時のエピソードや裏話を教えてください。
役者さんにカメラを扱ってもらうのが大変ですが、それさえスムーズにできれば演出はzoomで同時にできました。役者さんが撮った素材に私の「よーい、はい」という声が入っていて、素材だけ見ていると現場にいるみたいだなと思いました。
・今回の作品を制作して実感したことは?
いろいろと考えたいことがたくさんある中で、目の前のことに集中するのは大変でした。これを書いているのは公開前ですが、youtubeですぐに見られるのは恐い気もするし、楽しみでもあります。
長編を公開する時に堂々としていられたのは、宣伝の人なども入って映画と距離ができ、冷静に向き合えていたからだったのだなあと感じます。
・ 在宅映画制作を通して、これからの映画制作に活かせそうなことだと思ったことは?
メールのやり取りも映像にすると間とかは演技力が必要だと気付きました。最近見たミヒャエル・ハネケの映画で、ひたすらメール画面を5分程映しているシーンがあり、案外持つものだなと思っていたので今回使ってみました。キーボードを打つ速度に人の精神のヤバさが表れていて、面白い演出だなと思いました。
・作品をご覧になった人にメッセージをお願いします。
ご覧くださってありがとうございました。次の映画も見てもらえたら嬉しいです。
・その他、感じたこと、考えたことがあれば、教えてください。
出演してくれた祷キララ、古矢航之介、加藤紗希の魅力が伝わるものになっていたら嬉しいです。
協力してくれた皆さん、本当にありがとうございました。
SHINPAチャンネルも3週間足らずで登録者数が2000人近くいて、この作り方・見せ方の可能性を感じつつ、その一方で映画館で掛かる映画を作りたい想いは益々強くなっています。面白い映画を作ってお客さんを映画館に呼び戻したいです。頑張ります。
監督 / 安川有果
音楽 / AMIKO
造形 / 田中佑佳
素材提供 / 倉本光佑
キャスト・撮影
祷キララ
古矢航之介
加藤紗希