『HOUSE GUYS』 二宮健監督【在宅映画制作 LINER NOTES #1】
絶え間なくつづく、おしゃべりと歌声。そのなかで育まれる新しい関係。
本企画『在宅映画制作』1作目は、二宮健監督によるまさかのlo-fi クレイアニメ作品だ。自身のキャリア初挑戦であるクレイアニメでの在宅制作という、変化球勝負かと思いきや、POPなビジュアルのなかで語られる会話劇は、現在の日常を瑞々しく切り取り、不思議な味わいをたたえた新境地と言えるだろう。教訓なのか、はたまた苦笑いなのか、アメリカのシュチュエーション・コメディ・マナーよろしくの手さばきのなかで導かれた場所には、きっと観る人それぞれの希望を感じさせる風景が広がっているはずだ。
Postscript #1 二宮健監督
・今回の作品の着想は?
正直なことを言うと、自分がプロジェクトを動かしたものの、何を撮るべきか全く思いつかず、悩んでしまいました。そこで、またみんなと会えるようになった時に撮った方が上手く作れそうなアイディアは、省いていくことにしました。そうしていくうちに、クレイアニメというアイディアが出てきました。こんな時じゃないと、自分は家に籠って粘土を動かす作業に、打ち込んだりしないなって。クレイアニメは作ったことなかったけど、コマ撮りの撮影手法は自分の映画制作のルーツだし、自宅待機中という設定にすれば、基本一画面に人形一体で済む。それなら、もしかしたら期間中に制作が間に合うかもしれない。早速、アマゾンでクレイアニメ用の粘土を取り寄せました。それが今回の作品の始まりです。内容に関しては、その時、感じていたことを、生身の人間の台詞にするには、ちょっとタイムリーで生々しいことも、粘土のキャラクターが言えば、スっと入って来るかもしれない。そんな狙いもありました。
・撮影時のエピソードや裏話を教えてください。
3話のラスト、みんなでサハラ砂漠の朝日を見上げるという展開ですが、提出日間近の天気は曇り続きで、自宅の窓から思ったような朝日を撮影することが出来ませんでした。そこで、自分の家にあるものでサハラ砂漠の朝日を作ることはできないかと考えました。それこそが、3話テーマにもなっている、”想像する”ということに直結するなと思ったんです。試しに、家のバスタオルを何となく机に敷き詰めてみました。「お、これ砂漠に見えなくもないな」と、そうやって深夜のノリでひとりで試行錯誤しているうちに、手作りサハラ砂漠の朝日が完成しました。
果たしてこれが朝日として成立していたのかどうかは、正直自分でも謎のままですが、少なからず劇中のキャラクターたちの”在宅の想像でサハラ砂漠の朝日を見上げる”というシチュエーションに、自分も呼応出来たような気がして、ひとりでにささやかな満足感を感じました。
・今回の作品を制作して実感したことは?
誰かの自宅待機時間に寄り添えるような作品を創ろうと念頭に置いていました。クレイアニメということもあり、小さいお子さんが楽しんで観てくれたという声を聞いたときは、とても嬉しかったです。自分の家族もいつもより喜んでいました。あと、クレイアニメ作りの作業が想像以上に楽しかったので、また機会があれば挑戦してみたいなって思っています。
・ 在宅映画制作を通して、これからの映画制作に活かせそうなことだと思ったことは?
自分は、テーマや時間など様々な条件を設けて撮影する作品創りを、ある種トレーニングみたいな感覚で、普段から好き好んで行っていました。映画作り面白さのひとつとして、絶体絶命のピンチを絶好のチャンスにして打ち返すことがあります。ピンチは、時に盲点や思い込みを炙り出し、作品を想像以上に輝かせられるヒントの在り処に導いてくれる。それに素早く気付ける瞬発力を、自分なりに磨くためにも、条件付きの作品創りは絶好の機会だし、何より楽しい。今回の在宅映画制作は、それのある種の究極だったように思います。あらゆるコンタクトを禁じられて、それでも自分のモチベーションを上げられるものを見つけるのは、そう簡単なことではないし、否が応でも自問自答を強いられる。僕は、自分がそんなときに粘土をパートナーに選ぶことを知ったし、改めて自分自身の創作の歓びについて問いかけることが出来た。それに、参加してくれた他の監督たち、皆がそれぞれの問いかけの中で、ひとつの答えを自力で導き出しているのを、作品を観ることで感じられたことは、とにかく感動的でした。だからこそ、在宅制作映画を経て、多くの監督が今思ってることはひとつのはず、「早く撮影現場でみんなと撮影したい!」って。
・作品をご覧になった人にメッセージをお願いします。
新型コロナウイルスと向き合う中で、私たちの生活は、いつにも増して、いろんな意見が飛び交い、皆、怒りや恐怖を抱き、深く傷つきました。もちろん、そんな中でも、誰かの優しさに触れ、救われるような経験もあったかもしれません。「HOUSE GUYS」に登場する4人のキャラクターは、それぞれが誰かの立場から見ると非難されてしまいそうな側面を持ち合わせています。自分の意見を持つことは非常に重要ですし、私たちはもっと日頃から他者と意見を交わしていく必要があることは、この短い期間の中で如実に浮き彫りになったように思います。そして私たちが、これから今まで以上に自分に対して誠実で冷静にいるためには、怒りや恐怖、憎しみの感情よりも、優しさや寛大さ、そして他者を和ませる一滴のユーモアを培っていくことが大切だと信じています。今度はスクリーンで作品をお届けできますように!
『HOUSE GUYS』全3話
監督 / 二宮健
キャスト(声)
篠原悠伸
門脇麦
アベラヒデノブ
小林達夫