日記_202401XX
2024年1月X日(X) 晴れ
プライベート、かつプライバシー、かつセンシティブな話題のため日記だとしても書くのが憚られるが、2023年度のセッ◯スレス・オブ・ザ・イヤーを受賞するほど私たち夫婦はセッ◯スレスであった。
その事実は、無意識のうちに私の何かを蝕んでいたようで、先日友人とそのできたばかりの彼氏と飲んだ際、二人のあまりのイチャイチャぶりを目の当たりにした私は、ずっと仕舞い込んでいた内なる何かが崩壊したのか、別れ際の駅前で大号泣をかましてしまい、ドンキショッピング&オール(未遂)でシーシャバーにて友人たちに悩みを聞いてもらうという、寂しい人妻なのか渋谷のパリピくそバカ大学生なのかわからない夜の過ごし方をしてしまった程である。
こんな感じで結構悩んでいたのだが、なんと、本日およそ6億年ぶりにそんな感じの雰囲気になり、喜び勇んで夫婦生活を享受した。なんかもう小っ恥ずかしいのでナニがどうとか書くつもりはないが、はちゃめちゃにハッピーだった。頭の中でずっとDREAM COME TRUEの「うれしい!たのしい!大好き!」が流れていた。
それはまあいいとして、行為中、ふと、なんだか白くて小さな塊がベッドの上に転がっているのに気がついた。私はメガネを掛けていないと、2メートル先の小ぶりな岩石が猫ちゃんに見えてしまうくらい致命的な近眼のため、その塊もなんだかわからなかったのだ。
まあ、わざわざ気にかける必要はないだろうし、もし夫がその塊に気がつき、意識がそっちにいってえちちムードが終わることを危惧し、ちょっとしたスキマ時間で拾い、目につかないように右手に軽く握って隠しておくことにした。
握り心地は先の尖った雫型のプラスチックのようで、「なにかの部品が落ちちゃっていたのかな?」とその時は思っていた。
行為が終わり、「そういや、あのプラスチックの塊みたいなものはなんだったんだろうな」と思い、
恐る恐る握っていた右手を開くと、そこにあったのは――――
小さめのニンニクのかけらだった。
まごうことなく、ニンニクのかけらだった。
「セッ◯ス中、ベットに何か落ちている。それはなに?」
という大喜利のお題があったら、おそらく一番面白い答えなんじゃないか。多分麒麟川島を持ってしても答えられないと思う。
しかもセッ◯スレス夫婦の6億年ぶりの行為中に発見したというのがまたじわじわきている。誰が置いたのか(夫か私しかいないのだが)知らないが、「枕元に好きな人の写真を置くとその人が夢に出てくる」みたいなノリで「ベットの中にニンニクひと欠けを置いておくと勃起が維持される」みたいな女児向けの占い本に出てくるおまじないの一節(そんなものはない)が勝手に頭を横切っていく。
もう笑いを堪えきれず、全裸で今まさに大賢者とならんと背を向ける夫に「これッ……ブフッ…!………落ちてたんだけど」と、非常に気持ち悪い顔で手のひらの中の小さなニンニクのかけらを見せてしまった。
いきなり、気持ち悪い顔をした全裸の妻に右手を突き出され、挙句の果てにその手のひらの中には小さなニンニクのかけらがあったら、普通の男ならば狼狽してベットから転げるように逃げ出してもおかしくない。
そんなちょっとした緊張の中、夫と私は目を見合わせ……
大声で、二人して高笑いしてしまった。
行為後の余韻とか、ピロートークの気怠い雰囲気とか、そんなものなかったと思えるくらい、思わず二人肩を組んで、腹の底から笑った。さながら青空の下の高校球児のように、太陽のような笑顔で大笑いしてしまった。
大笑いしているうちに、もう、セッ◯スレスとかどうでも良くなっていた。
セッ◯ス中に小さなニンニクひと欠けが紛れ込んでいた事を、全裸で笑い合えるような生涯のパートナーが私にはいる。
この先、私は夫と何十年と共に生き、その中できっと今日と同じくらいくだらないことが何度も何度も起きるだろう。ただ、その全部をきっと今日と同じくらい笑い合える。それは悲しいことも同じだ。この先、こうやって思いきり笑い合い、思いきり泣きあう。この男となら、そうやって生きていける。
この人と結婚して本当によかった。
そんな思いが、不本意にもこの小さなニンニクによって引き出されてしまったのだった。
ベッドに紛れ込んでいたニンニクは、次の日サラダに混ぜて食べた。
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