ラトヴィア放送合唱団コンサート Aquarelle / 演奏リンク付
2022年03月22日
ラトヴィア放送合唱団のコンサート "Aquarelle"で共演する機会に恵まれました。
既に数ヵ月も前の出来事なのですが、それはとても濃い時間で、言葉に消化するまで時間がかかってしまいました。
コンサートの録音も以下に掲載しているので、是非聴いてみてください。
コンサート参加の経緯
放送合唱団との出会いは2017年、ハインツ・ホリガーのスカルダネッリ・ツィクルスの日本公演でした。それ以来のファン。この合唱団をきっかけにしてあらゆる合唱音楽に出会ってきました。今回のコンサートは2019年の夏のコンサートで一緒に歌わせてもらって以来の共演でした。それがまさか、指揮者という役割でなんて、、人生のビッグイベント。
知らせを受けたのは12日の夜。オペラ劇場でアイーダを観ていて、劇場の天井からカモメの合唱がやけに騒がしいな、あれはBGMじゃないのか、いやあれはリアルのカモメだって聴きに来た友人と言い合ってた休憩時。突如ワッツアップに同級生と後輩によるグループが立ち上がり、長文を受け取ります。
指揮者のカスパルスがコロナによって22日の放送合唱団のコンサートに出られなくなったので、私たちでリハーサル、本番を一曲ずつ担当してくれということらしい。みんな引き受ける?楽譜が送られてきたら、誰がどれやるか決めよう。
あんまりに驚いたのと興奮と緊張と、、それからのアイーダ3幕4幕は正直全く集中できなくて、上の空。(友だちごめん)
「良いね」「最高やん」「余裕だぜ」
なんてみんな楽しそうに返事してたけど、それもつかの間。
コンサートはいわゆる現代音楽フェスティバルの一環なので、コンサートプログラムは私たちがまだ演奏経験のないような作品たちでした。
音楽院の作曲科2年生3人による新曲委嘱と、リトアニア人作曲家による作品。ラトヴィア放送合唱団のために描かれたような作品なので、どのような作品なのかはお察し。楽譜を受け取った瞬間、チャットの空気が少し変わったのを感じました。(笑)
このフェスティバルは、毎年リガで開催されている現代音楽フェスティバル deciBels の一環であり、その名の通り、新曲委嘱作品の初演や、20世紀後期以降の作品を合唱はじめブラスバンド、器楽などあらゆる楽器や編成による刺激的な音楽が期間中に演奏されます。
ラトヴィア放送合唱団も例年コンサートを行っており、昨年のルチアーノ・ベリオのA-Ronneの演奏に大興奮したのが記憶に新しいです。私自身、毎年楽しみにしているフェスティバルでもあり、今回このような形で参加できると知った時は正直嬉しかったです。急すぎ展開だけど。
コンサートプログラムと演奏リンク
ラトヴィア放送合唱団、そしてラトヴィア国立音楽院の合唱指揮科の大学院生と学部生の5名の指揮者でのコンサート。
指揮者は演奏順にマティース・ペーテリス・ツィルツェニス、アナスタシヤ・キルディシャ、オスカルス・イェスケ、パトリクス・ステルペ、そして私。
私以外の4名は、ラトヴィアのユース合唱団Kamer...や男声合唱団Dziedonisの指揮者を務めていたり、指揮者コンクールで優勝していたり、、近い未来に世界に羽ばたくであろう将来有望の大変優秀な指揮者たちです。
プログラムは以下
・Henrijs Poikāns "Questa musica non ha bisogno di un nome"
・Annija Zariņa "Await"
・Ernests Valts Circenis "La lune"
・Mantautas Krukauskas "The Prayer"
・Justė Janulytė "Aquarelle"
はじめ三曲がラトヴィアの学生による新作、そして後半二曲はリトアニア人作曲家による作品で、ラトヴィア初演でした。
演奏は以下URLから聴くことができます。
00:03:00あたりからコンサートの演奏はじまります。
私の演奏は00:40:50から。
https://klasika.lsm.lv/lv/raksts/latvijas-koncertzales/latvijas-radio-kora-koncerts-aquarelle-musdienu-muzikas-festival.a159653/
写真/ 合唱団と作曲家と指揮者と.... / Oskars Upenieks
作曲家ユステ・ヤヌリテと演奏作品Aquarelle
私はリトアニア人作曲家、ユステ・ヤヌリテによるAquarelle(水彩)を演奏しました。
ユステ・ヤヌリテはイタリアのミラノ在住のリトアニア人作曲家。
彼女の作品は、ミニマニズム、スペクトラリズム、音響エレクトロニクの基、多層の音による質感、そして緩やかに音楽が変容していくのが特徴です。
「Aquarelle」は4群の合唱団、16声部のアカペラ作品。ミニマリズムのスタイルで書かれた作品ですが、自然な呼吸に寄り添うように書かれたクレッシェンドデクレッシェンド、それらの繰り返しとそこから生まれる音の柔らかなアウトラインが水彩絵の具のようなテクスチャーを空間に描きます。
*詳しくはコーラス・カンパニーのメールマガジン【世界の合唱作品紹介】にて紹介予定です。
リトアニアもラトヴィアと同じように、自然信仰の思想があります。ユステは私に、日本の神道にも通ずるものがあるのよね、と言い、私が彼女の作品を指揮することをとても好意的に捉えてくれていました。
この作品、Aquarelleは今後もレパートリーとしてどこかでまた演奏をしたいと思っています。
ちなみに、リハーサルにサーモの水筒を持っていた私に、「私の日本人の作曲家の友人もいつもサーモの水筒を持ち歩いてたよ!なんか、ミステリアスなお茶が入ってるんだけど、あなたのもそうなの?」と。
その彼女の言う日本人の作曲家の友人は、細川敏夫さん。
そして私のそのときのサーモの水筒には、ジンセン・レモングリーンティー。
やっぱり?日本人のサーモの中身はそうなの?
カスパルスとの再会
コンサート前日のゲネプロでは、回復したカスパルスもやってきて、リハーサルを見学していました。
カスパルスは2017年に東京で開催されたTokyo Cantat合唱指揮法マスタークラスで講師を務め、私は当時受講者として指導を受けました。今回はそれ以来、実に5年ぶりにカスパルスからコメントをもらいました。
こんな機会に恵まれるなんて、当時は考えてもいなかったので、、ね、人生って本当に不思議なことが起こるもんだ。
ラトヴィア放送合唱団の空気感
放送合唱団の団員は、常に私たち、若い学生の指揮者たちに協力的な姿勢でした。初めは不安だったものの、彼らの姿勢がリハーサルを重ねるうちに指揮者たちは開放させていきました。
5人の指揮者の仲間たち誰もが、放送合唱団の高い技術はもちろんのこと、彼らの協力的で柔軟な姿勢に強い印象を受けていました。
この国で合唱団の前に立つと、ジャッジをされる感覚を殊に強く受けることがよくあります。この感覚は、この国で育ってきた同僚たちは特に強く感じるそうで、時に難しい場面にも出くわします。(特に音楽院や音楽学校のなかでは、この傾向は強いかもしれません。)
しかし、放送合唱団からは常に良いものを作ろうという前向きな空気が流れており、個々への強い尊敬がありました。何かを試してみよう、という提案にも開放的な姿勢で、なるほど、これが彼らのあの音を生み出してきたのかと納得もしました。(どちらが先なのかは、分からないけれど)
ラトヴィアにきて5年目ですが、その中で最も印象的な本番でした。
感謝。
最後にユステとカスパルスとのスリーショットでしめくくりたいと思います。やっぱりみんな身長高い。
写真/ 作曲家のユステとカスパルスとのスリーショット