ジョージアの危険な!?招待 Olgaの笑えない旅行記
ベラルーシ第2の年ホメリに住むOlgaは、13歳の男の子を女手一つで育てる美人ママ。最近の仕事は確か、パソコン教室と英語講師。
最近旅行に行ったんだけど、その時のことを話したい!と、久しぶりのビデオコールを。
天気が悪いと頭痛やだるさなど体調不良に悩まされる体質の彼女ですが、その日は雨降りがちなこの時期としては珍しく快晴で、自宅アパートのちっさなバルコニーから登場した金髪のOlgaは上機嫌でした。
他愛のない近況報告をしつつ、本題の冒険譚へ。
非常に微妙な国際情勢のもとではありますが、久しぶりに1ヶ月のロングバケーションをとってバスで諸国漫遊してきたとか。息子Ignatと妹夫婦と一緒の4人旅です。
島国である日本人の感覚だと、日本では外国に旅行=「海外」旅行なので、数カ国をバスで巡るというとあまり実感が湧きませんが、向こうはもちろん大陸で、隣国は地続きなわけで。ああそうか、バス旅行感覚で外国に行けるのね。
「事件」はジョージアについたそばから起きました。
まず、ついたのが夜中の2時。。
予約していたはずの宿にどういうわけか宿泊できず、こんな寂しい時間に街中に放り出された一行は、さんざっぱら歩き倒してようやく一つのホステルに到着し寝床を得ます。
しかし、ホステルとはほとんど名ばかりで、実際には阿片窟…といって伝わるでしょうか?要するに、麻薬ジャンキーな輩が寝泊まりする場末も場末の掃き溜めみたいな安宿です。あたり一面マリファナの煙と匂いが立ち込め、胸糞悪くて一睡もできなかったとか。。
翌日、少しは人間らしい宿をどうにか発見し、そこに移動。
義弟(妹の旦那)がバルコニーから外の空気を吸っていると、その下に一人の男が通りかかりました。義弟の名前を忘れちゃいましたが、便宜的にディミトリとでもしておきましょう。
通りすがりの男はどうも地元ジョージア人のようで、大変気さくに声をかけてきました。
「ヤァ、ようこそジョージアへ。よかったら一緒にランチでもどうだい?ご馳走するよ!」
ま、普通は断りますよね。
と思ったら、このディミトリ。人を疑うことを知らないのか、易々とその男のオファーを受け入れます。
子連れで慎重なOlgaは、「本当に大丈夫なの?知らない人よ」と警戒色を示しますが、根アカのディミトリは「大丈夫さ、ジョージア人ってのはと〜っても親切でおもてなしが好きなんだよ」と取り合いません。
もしあなたがOlgaの立場だったら、どうしますか??
結局、陽気な男とフッカルなディミトリに釣られるように全員街中のレストランに案内されることに。そこでたらふくローカルフードを食べ、マニフェスト通り、その通りすがりのジョージア人が気前よく支払ってくれました。
よかったね、シャンシャン!ならわざわざこのnote書くまでもない単なる旅の一幕。。
もちろん、話はこれで終わりません。
会計を済ませたジョージア人。今度は「なぁ、ボクのムラに来ないか?とってもいいところだぜ。」と言い出すではありませんか!
「ええ?なんですって。もうこれ以上はいいわよ。やめておきなよ」といぶかるOlga。ボクもOlga的慎重派なんですが、ここでまた出たこの男。ディミトリは「お〜そいつは楽しそうだ!なぁ、みんなついて行こうよ」…
そんな能天気な義弟に呆れ抵抗を見せるOlga。彼女が強く警戒するのには直感だけではない、立派な理由がありました。
レストランに招かれジョージア人のデカイSUVに乗り込む際、ふと、男の腰あたりにあるものがチラついたのをOlgaは見逃さなかったんです。
そうです。それは確かに男のシャツの下で鈍く黒光りしていたのでした。男の素性は全くわかりません。もしかすると警官だったのかも?いやいや、そんな私服で、どう見ても非番の時に銃を持ち歩くでしょうか。それよりもっとダークな想像の方が的を射ているというものでしょう。具体的にはわかりようもありませんが。きな臭い。。
それでも、逆に抵抗すると何をされるかわからない…という恐怖心が働いて、一行はジョージア(もはやジョージア呼ばわり)の言うまま車に乗り込み、彼のムラへと向かいます。
どのくらい走ったでしょうか。車中の雰囲気に特に違和感はなく、ただただ楽しい会話が飛び交っていたそうです(主にジョージアとディミトリだけですが)。きっとOlgaの笑顔は強張っていたに違いありません。
そうこうして辿り着いたムラ。彼のアジト…いや、家に招かれた一行は驚きます。そこには広々とした立派な屋敷があり、広大な農園があり、そしてワイナリーまでありました。
ジョージアはワイン発祥の地ですから、例の男はここぞとばかりに本場のワインを振る舞います。Olgaも気を紛らわせたかったか、男の調子に合わせざるを得なかったか、杯を重ねて結構ベロベロになってしまったそうです。
みんなが出来上がったところで、ジョージアが3枚目のカードを切り出します。「なぁ、どうだい。いいところだろう?もう、宿から引き揚げてこっちに泊まらないか?部屋ならたくさんあるから心配ない。」
ここでもまたディミトリはなんの疑いも警戒もなく、そのオファーを受け入れようとします。が、やはりOlgaは違いました。賑やかな宴の最中も、男の腰に光るものの存在を彼女はずっと気にしていて、もうこれで終わりにしよう!と誓っていたのです。
「いや、もういいじゃない。十分よ。帰りましょう!」
アルコールでやや朦朧としながらも毅然とNOを突きつけるOlga。いいじゃないか、いやよ、まぁまぁ…といったやりとりの後、結局ラチの開かない状況についにOlgaは立ち上がり、「もう帰る!Ignat、来なさい!」と戸惑う息子の手を強引に引き、席を立って駆け出します。
「お、おい、どこへ行くんだよ」
「ホテルに帰るのよ!」
「どうやって!」
「知らない!車を見つけるわ!」
流石のジョージアもディミトリも、ここまでなりふり構わず拒否するOlgaを前に、このまま強引に彼女を留め置くことは諦めたようで、
「わかった、わかった。何もとって食おうってわけじゃないんだ。ホテルまで送ろう」
ということになったそうです。
朦朧とする意識の中、苛立ちと拭えぬ警戒心を携えて、ジョージアの車でホテルに戻り、なんとか大事に至らず済んだ一行。男が本当にただの陽気な人間で本当に何も起こらない可能性もありましたが、どうにも信用しきれない人のホームに居続けるのはやはり不安だし、避けた方がいいですよね。
その後も、Olga一行の旅は続き、ホテルがなくて探し回るなどの苦労もあったようですが、とにかくこの一件のインパクトがデカすぎて、後のことはあまり記憶にないそうです。とはいえ、トラウマにはなっておらず、むしろ「面白い体験」としてシェアしてくれました。なんたって、意気揚々と30分しゃべり続けたほどです。
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男は、外見は陽気で気さくなジョージア人だったようですが、いまいち「目的」がなんだったのか勘繰ってしまいますよね。なぜ偶然見かけた、しかもホテルに宿泊している外国人を見ただけで、その瞬間にわざわざレストランに誘い、挙句には屋敷にまで招待したのか。。
羽振りの良さから察するに大企業の経営者など地元の有力者か、あるいは銃を保持していたので、やっぱり裏社会に関わっている人物なのかもしれませんが、何れにせよやはり得体が知れずミステリアスです。
ただし、後日調べたところ、ジョージアでは銃の所持が比較的自由であるため、日常的に銃を携帯している人を目にする機会も少なくないそう。なので、銃を持っている=悪人と決めつけるのもいかがか、という状況のようです。
旅行サイトやジョージアに行ったことのある人のブログを見ると、治安が不安定な地域では、観光客を狙った犯罪も少なくないそう。現地の人との交流は楽しみたい一方、知らずに危ない状況に巻き込まれたりしないか、警戒は欠かせませんね。