総合格闘技としてのデザイン
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第14回(2021年10月11日開催)にて、デザインファームTakramのディレクター/ビジネスデザイナーである佐々木康裕さんの講演を聴講した記録を残します。このクリエイティブリーダーシップ特論の記事も今回で最終回となりました。今回のお話はまさに最終回に相応しい内容だと思いました。
佐々木さんは、2005年に大学卒業後、伊藤忠商事に入社し、シリコンバレーのテック企業のソフトウェアやハードウェアライセンスを買い付けて国内への導入するビジネスやベンチャー投資などを経験。その後、イリノイ工科大学にデザイン大学院留学(ID)したのちに、Takramに入社されています。Takramではビジネスデザイナーとしてデザインとビジネスの知見を組み合わせた領域横断的なアプローチでエクスペリエンス起点のクリエイティブ戦略、事業コンセプト立案を展開。2019年3月には、スローメディア「Lobsterr」を共同創業。“ビジョナリーブランディング“を行うPARADEの取締役、ベンチャーキャピタルMiraiseの投資家メンター、グロービス経営大学院の客員講師(デザイン経営)も務められている。
著書/共著に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)、『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 』(同)、『いくつもの月曜日』(Lobsterr Publishing)等、多数。
伊藤忠商事に入社されてから一貫して新規事業開発に携わられているが、IDに留学を決めたのは、大前研一氏が翻訳を手がけている「ハイコンセプト」を読んで大きな刺激を受けた。そして、これまで経験してきた新しい事業の作り方、いわゆる属人的なやり方ではなくサイエンスとして方法論として学べるところを探していく中でIDに行き着いたそうです。
ハイコンセプトで語られているエッセンス
「機能」だけでなく「デザイン」
「議論」よりは「物語」
「個別」よりも「全体の調和」
「論理」ではなく「共感」
「まじめ」だけでなく「遊び心」
「モノ」よりも「生きがい」
IDはアメリカのシカゴにキャンパスがあり、アメリカの中でも東海岸や西海岸とは違って、同質性が高く保守的な考え方を持つ日本と似たカルチャーがある場所で、デザインをビジネスにどのように取り入れていくのかについてのヒントがたくさんあり、まさに職業訓練校のような感じで、クリエイティビティなんて必要がない、創造性に依存しないというアプローチをとっている先生も何人もいたそうです。
不確実性が高い時代における新事業創出とは、答えが提示されているミッションを解決するような「パズル」型のアプローチではなく、答えがそもそもない「ミステリー」型のアプローチが必要で、パンデミックが起きた時にどのように私たちの暮らしや社会システムを変えていったらいいのか?というような複雑で厄介な問題(Wicked Problem)に対応するためには、学際的かつシステム論的なさまざまなアプローチが必要な、まさに総合格闘技が必要とのこと。
そして、近年重要となっているのが、気候変動やジェンダー、多様性の問題などのグローバルアジェンダに対応しているのか?ということ。佐々木さんは、グローバルアジェンダとの接続という言い方をされていたが、グローバルで議論されているアジェンダを自分事として理解し、解決しようとしている問題を複合的かつ俯瞰的に捉える視点や、他者に対する共感みたいなものをしっかり軸として持つことが重要であり、固定概念に囚われずに積極的に越境するということなのだろう。
ここ最近、トランジションデザインというのが話題であるが、さまざまな環境の変化の中で、常に社会システム、我々のライフスタイルそのものの変革が起こっている(起こらざるを得ない状況が起こる)が、総合格闘技としてさまざまな領域、価値観を越境した総合格闘技的なアプローチが必要とされており、デザインの領域的な広がりは果てしないな、、と改めて感じた最終授業に相応しい時間となりました。