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長文感想『銀しゃり』山本一力

時は寛政年間、まだ握り鮨が生まれるより40年も昔の江戸。上方由来の箱鮨の時代。

早朝、ひとりの若き鮨職人が、自分の店で炊きたての庄内米(高級品!) と格闘しています。

二親を早くに亡くした彼の名は新吉。関東近郊の飯能からひとり江戸へ。

厳しい親方の元で修行を積み、腕を認められて受け取った高給を自らの新しいお店に投資。

江戸深川の亀久橋そばにある、出身地から命名した「三ツ木鮨」。
日夜、銀しゃりの炊き具合と鮨酢の絶妙な塩梅を探求します。

彼の姿を見守る、親友の棒手振り(ぼてふり・魚の行商人) 順平。そして、深川富川町に居を構える旗本家臣・小西秋之助。

師匠の教えを守り高級な食材にこだわるゆえ、新規開店の商売の売り込みに苦戦していた新吉に秋之助は助け舟を出すのですが、何か訳ありの様子。。。


箱鮨の切り売りと口コミで徐々に商売が軌道に乗り始めた矢先に出された、武士階級の借金を反故にする幕府の「棄捐令」(きえんれい)。

たちまち市中の金回りが滞り、今まで大盤振舞いだった顧客も財布の紐を締め出すのは当然のこと。

単価の高い鮨の売り上げも落ち込み悩む新吉、そして出自する稲川家の勘定方を勤める秋之助もまた、実直な性格ゆえにその場限りの安易な政策に憤慨するひとりでした。
(すぐに金策が滞るので抜本解決にならず、より自分の仕事が困難になる)


日々のお勤めにこころ塞ぐ秋之助。

一方で同じく悩みを抱えた新吉に、合わせ酢の中に自らの屋敷に成る柿の皮を加えることを提案します。
これで高級な砂糖を節約できると言います。

鮨を試作した新吉は、今までの合わせ酢では出なかったまろやかな甘み、加えて柿の香りも楽しめる新しい味に歓喜します。
「これはこの不景気風の中でも評判になる!」

「柿鮨」(こけらずし) がこうして編み出されたのです。


物語はここから杮鮨に関わる多くの人たちの人生模様も絡んで、まさしく合わせ酢のような味わいが展開していきます。

新吉や秋之助、秋之助の下男、順平、その妹のおけいや火事場見廻り役の侍。
杮鮨に関わる多くの職人のアイデアも重なるとワクワク感も倍増!

過去のわだかまりさえも、ひとが寄り添うことでドラマチックな展開を見せるストーリ展開は、さすが注目のストーリーテラーだと感じた次第。

エピソードを次々重ねて進行するところは、読み手の興味を削ぐことなく先へ先へとグイグイ引っ張られる感もありますね。

ラストはちょっと出来過ぎの感もありますが、そこまでの背景描写が緻密なこともあり、江戸市中の人情劇としての完成度の高さにうならされた次第。

個人的には、稲川屋敷が私の職場のご近所さんだったのが一番の驚き。

まさしくご当地小説でした(笑)。

【以下、余談】(ちょっとネタバレ)





江戸っ子らしい気っ風の良さが読んでいて気持ちのいい新吉と順平のコンビ。

早朝出入りする順平は気さく過ぎて、ある朝寝坊していた新吉の寝乱れた姿を見てしまい…。
(膀胱に尿がたまると…ま、生理現象ですから😅)

すかさず、野郎らしいくすぐりを入れる順平😏
いそいそと新吉は厠へ向かいますが、そこから物語はふたりの女性がクローズアップされることに。

一力先生、前振りが…さて、アシタハドッチダ?( ̄▽ ̄;)



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