【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 8 (「澪標」シリーズより)
「──およそ60年前の春、私と妻は教師の家同士のお見合いで出会いました。当時の光景は、今でも瞼の裏に焼き付いています。桜の美しい季節でした。料亭の席で、私の向かいの席に座ったのが、妻になる女性、薫子さんでした。化粧を施され、桜色の着物を着た彼女は、浮かない顔をしていました。私は、彼女が結婚に乗り気ではないのだと思い、縁談が決まってしまう前に、料亭の外に彼女を連れ出しました。
『もしも結婚が嫌なのならば、私の方から破談を申し立てますが』と私は彼女に言いました。
しかし、彼女は横