[総集編]ダイナミックケイパビリティの経営学 #世界標準の経営理論 #ダイナミックケイパビリティ
どもっ、しのジャッキーです。本記事は、"「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学"からの学びを17回にわたってまとめてきたnote記事の総まとめ記事です。
1.未完の超重要経営理論「ダイナミック・ケイパビリティ」変化する力はどう獲得するのか?
第1回では、なぜ私がダイナミックケイパビリティに関心をもったのか、そのきっかけとなった「世界標準の経営理論」で解説されている内容をまとめました。
ティース型とアイゼンハート型の2派閥がダイナミックケイパにあるとされています。ちなみに、今回まとめた著書の菊澤先生はティース派ですので、道中で、アイゼンハート型へのスタンスの取り方なども書かれていて、いま改めて読むも学びが深いですね(後述)。
いま、改めて読み返して「世界標準の経営理論」では「Sensing, Seizing」がティース型と書かれていますが、これはちょっとまずい書き方だと思いました。
実際は、その結果、自社のケイパビリティの変えるべきものは組み換え・再構成して変容するという「Transformation」までがダイナミックケイパビリティの一つのサイクルとなっています。
2.「ダイナミック・ケイパビリティ」が解決する問題とは?
第2回は、ダイナミックケイパを学ぶ目的です。そもそもケイパビリティは以下の2種類があり、これらは別物である、というスタンスを取ります。
その上で、ダイナミックケイパはオーディナリーケイパでは解決が困難な人や組織が合理的に失敗する現象である「不条理」という問題での解決に有効な能力だとします。
3.「ダイナミック・ケイパビリティ」は組織の不条理をどう回避するのか?
合理的に失敗する不条理とはどんな現象なのでしょうか?不条理には以下の4つの代表的パターンがあり特に「パラダイムの不条理」が特に強力であり、他の3つの不条理を引き起こす原因ともなっています。
これらの不条理が発生する理由として3つのコストが挙げられています。特に先ほどあげた「パラダイムの不条理」においては、取引コストが巨大となり、現状維持のほうが合理的という不条理に陥ってしまいます。これに対応するための能力がダイナミックケイパビリティとなります。
解決の方向性としては以下の2つが挙げられています。前者はガバナンスの対応であり、後者は、イノベーションや組織開発の話ですね。
4.「ダイナミック・ケイパビリティ」が提示する日本企業が目指すべき経営パラダイム
まじめな日本企業はパラダイム(思考の枠組み)を精緻化し続けることで環境変化の際にパラダイムを変革できず、既存のパラダイムでまじめに変化に対応しようし、合理的に失敗しているといのが著者の分析です。
両利きの経営でいえば、知の探索と知の深化において、深化に偏ってしまう、コンピテンシートラップにかかった状態になってしまうということ、ともいえるのでしょう。
少子高齢化で借金が増え続ける日本経済において、社会保障費用の財源を悪補するためには、国民総生産(GNP)を増やす、つまり総付加価値を増やす必要がある。そのためイノベーションを重視した経営パラダイムが日本企業に求められるというのが本書の主張となっています。
付加価値を高めるために、模倣困難な組織をつくり・作り変え続けるという風に読めばRBV(リソース・ベースト・ビュー)的でもあり、それが「感知・補足・変容」という学習プロセスを回し続けることである、とみれば認知心理学ベースの経営理論ともとらえられる、つまりは統合的な経営パラダイムが求められるってことだよなー、と改めて眺めていて感じます。
私は、「感知・補足・変容」という学習プロセスとセンスメイキング理論のサイクルとの共通点を感じ、記事の中では考察させていただきました。関心のある方は以下の記事をご参照ください。
以降は、3回にわたって、実際にダイナミックケイパビリティを発揮した日本の3社の事例が紹介されます。それぞれ1枚で事例のエッセンスをまとめてみました。
既存技術の転用を可能にする:事例「富士フイルム」
独自のビジネス・エコシステムを形成できる:事例「ソニー」
イノベーションのジレンマを回避できる:事例「YKK」
5.「ダイナミック・ケイパビリティ」からみる富士フイルムの既存技術転用の変革を1枚にまとめてみた
1枚まとめチャートの中にも書きましたが、既存のアセットを多角化実現のコアにするために、応用分野を定めて集中投資を行うという意思決定ができたことがすごいな、と思いました。
事例紹介は、以下の記事をご参照ください。
6.任天堂が独占していたゲーム機業界でソニー独り勝ちを実現した共存戦略
ソニーの事例は、プレイステーションでゲーム機業界に参入した時のものです。競合の構造的に転換しずらいところを新規参入のメリットを生かして、うまくステークホルダーとの共存の戦略をとることで、信頼関係を構築して、独自のビジネス・エコシステムを形成することに成功した結果、60%という圧倒的なシェアを達成しました。
事例紹介は、以下の記事をご参照ください。
7.YKKのイノベのジレンマ回避戦略とパラダイムシフト×環境変化×経営理念 #ダイナミックケイパビリティ
最後の事例は、YKKによるものです。事例自体も非常によいのですが、企業の精神、価値観の浸透によるパワーを感じられる事例で、非常に勉強になり、自社のパーパスやらを改めて読み返しました。
事例紹介は、以下の記事をご参照ください。
8.日本的経営と #ダイナミックケイパビリティ は相性が良いのか?
事例を終えて、改めて、日本的経営をとらえるために米独日の経営の比較がなされます。
これは個人的には直観とあわない部分もあったのですが興味深いものでした。結論としては、日本の組織構造は、柔軟な組織で、ダイナミックケイパビリティが強い、というものです。
9.イノベーションは資本主義から自由を守ることかもしれない
さて、著者は日本的経営はダイナミックケイパビリティを強みとできる特徴があるのに、それが株主主権の米国流経営パラダイムに汚染されているという主張です。ということで、第4回のまとめで取り上げた以下のシフトが必要であるという主張に戻ってまいりました。
「イノベーションは資本主義から自由を守ること」で、古典的な経済学が目指す完全競争という状態は、企業にとっては差別化不能で儲からない状態が、社会のリソースがもっとも効率的に使えている状態で、国民にとってももっとも好ましい資源配分だと考え方であり、それを打ち崩す(破壊する)ことこそイノベーションなんだなぁ、というのが学びでした。
10.ダイナミックケイパビリティ に至る経営理論の系譜
第10回は、ダイナミックケイパビリティの経営理論の中での系譜が紹介されます。それはSCP理論(ポーターの競争戦略)、RBV(資源ベース論)です。前者はアウトプット先となる市場に着目し、後者はインプットとなる資源に着目しています。そこから、日々刻刻と変わる状況に対して、資源を組み合わせて変化し、対応していく組織能力が注目されてきたといいます。これがコアコンピタンスやケイパビリティ(組織能力)という言葉で表現・説明されるようになったといいます。
ということで、ダイナミックケイパビリティの3要素が出てきます。この3つのプロセスをぐるぐる回すことが経営者の役割でありそれを指揮者になぞらえて、このプロセスをオーケストレーションと呼ぶそうです。
ダイナミックケイパによって既存の資産や技術を再構成・再配置・再編成するにあたって、個別に利用しても大きな価値を生み出さないが、特殊な資源や知識を結合させると相互補完的な効果が生まれるとし、それを「共特化の原理」と呼んでいます。
このときに、組み合わせる資源・知識・技術などを社内だけでなく社外も含めてオーケストレーションしビジネス・エコシステムを形成することが重要と強調しています。
11.(番外編)合理的に失敗してしまう不条理にダイナミックケイパで立ち向かえ
ちょっとここで、閑話休題で、書籍からちょっと離れて、某所で受けた、ダイナミックケイパへの質問に自分なりに考察した記事を書きました。得られた学びだけ書いておくと、経済学ベースの経営理論に基づいて本書は書かれているが、認知心理学ベースの経営理論で扱う内容にとても似てきているな、ということが学びでした。
認知心理学ベースの経営理論に関心のある方は、以下をご参照ください。
12.ダイナミックケイパビリティの誤解とセンスメイキング理論
さて、第12回は、書籍に戻りまして、よくあるダイナミックケイパビリティへの誤解が紹介されました。これは、ティース派のダイナミックケイパへの誤解ですね。
2つ目の誤解が、「世界標準の経営理論」でダイナミックケイパの2大グループとされるアイゼンハート氏のシンプルルールについてです。個人的には、どちらのスタンスからも学びがある、と感じました(もともこもないw)
13.ダイナミックケイパと補完関係にある取引費用理論についてまとめてみた①
第10回で、ダイナミックケイパの基盤となる経営理論であるSCP理論、RBVについて取り上げましたが、もう一つの基盤となっている理論「取引費用理論」についてで取り上げられます。
第13,14回では「世界標準の経営理論」での内容を自分なりにまとめたものを紹介しました。第13回では、ホールドアップ問題とその解消法として内部化を紹介しました。詳細は以下をご参照ください。
14.ダイナミックケイパと補完関係にある取引費用理論についてまとめてみた②
取引費用理論の別の観点として、内部化によって企業の範囲を広げるか広げないか、そのときにどういうレベルで内部化(垂直統合)するかといったガバナンスと密接にかかわるのが取引費用理論である、ということ、そこから、企業の国際化について取引費用理論を広げた内容をまとめました。
この流れ、"「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学"と同じ展開でしたが語り口が違いのが学びを多面的にしてくれました。では、本書の内容に行ってみましょう。
15.ダイナミックケイパビリティと企業の垂直統合の関係
「世界標準の経営理論」では、市場の不確実性、取引の複雑性、資産の特殊性の3つがホールドアップ問題の要因であり、その解消のために内部化すると説明していました。
本書では、それをざくっと「市場が薄いか厚いか」と表現しているのが面白かったです。垂直統合するかどうかを検討する際に、フィールドとなる市場の厚さ・薄さという表現が出てきます。市場が薄いとは、取引相手が少ない市場の状況のことで、この「市場の薄さ」の方が取引費用うんぬんよりも企業の垂直統合化のより強い要因になるといいます。
で、これは、企業にとってのゼロイチの意思決定だったら、まだいいが、実際は、何かしら着手している規定路線があったりするうえで、の意思決定になることが多く、そういう場合に取引コストが意思決定の邪魔をする、という論点を挙げています。
だからこそ、常日頃からダイナミックケイパビリティを発揮し続けることで、規定路線に引きずられるという取引コストを下げる必要があるわけですね。
事例として、バーバリーと三陽商会の関係が挙げられています。関心のある方は以下の記事をご参照ください。
16.ダイナミックケイパビリティと多国籍企業化の関係
垂直統合についての話の次は「世界標準の経営理論」同様、企業の国際化についてです。ダイナミックケイパ論では、多国籍化行動は、国内で確立したオーディナリーケイパを海外に移転することと捉え、以下の3つのパターンに分類します。
「取引コスト vs 機会損失」について、国内と現地の差異を感知し、そこにビジネスの機会をとらえ、オーディナリーケイパを再構成・再利用するというダイナミックケイパを発揮した結果、多国籍化行動をとるとしています。持続可能な多国籍企業のダイナミックケイパに基づく行動を以下の図のように説明しています。
次に戦略、ダイナミックケイパビリティ、経営者の関係性を以下のように説明しています。なるほど、ダイナミックケイパはあくまで能力であり、戦略がその方向性を与える、というのは確かに、ですね。
記事の中では、「ワイズカンパニー」に出てきたシマノ社の事例が参考になるとおもい紹介しました。関心ある方は以下の記事をご参照ください。
17.持続的イノベーションには開かれた組織が必要だった
最後、第17回です。オーディナリーケイパとダイナミックケイパの階層性という概念が示されます。私なりに意訳をすると、具体と抽象の行き来が大事、ということです。
規定路線に引きずられないで、ダイナミックケイパを発揮し続けられるために「批判に開かれた組織」が必要であるとし、著者は以下のようにリーダーが自分が不完全であることを認め、メンバーに自由と責任を伴う権限移譲ができること、だとしています。
記事の中では、この「開かれた組織」について、心理的安全性のことと通底しているな、と思い、以前に読んでまなびをまとめた「恐れのない組織」についてから思ったことを考察しました。
もう一つ、「世界標準の経営理論」の「エコロジーベースの進化論」の中でも、組織が淘汰されないようにするために「開かれた情報の選択プロセス」が求められるという内容と、組織創造理論の進化系SECIスパイラルを描く「ワイズ・カンパニー」からの学びの考察を取り上げました。
関心のある方は、以下の記事をご参照ください。
まとめの連載記事一覧
ということで、全17回にわたってまとめてきた書籍"「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学"からの学びの総まとめでした。以下に全記事のリンクを再掲しておきます。
日本的経営と #ダイナミックケイパビリティ は相性が良いのか?
おわりに
今回のような過去の複数回にわたって紹介した学びのアウトプットのまとめ記事は以下のマガジンにまとめています。
このほか、当方の経営理論に関する記事は以下のマガジンにまとめていますので、もしよかったらのぞいてみてください。またフォローや記事への「スキ」をしてもらえると励みになります。
ということで「形のあるアウトプットを出す、を習慣化する」を目標に更新していきます。よろしくお願いします。
しのジャッキーでした。
Twitter: shinojackie
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