【詩 満月 no.5】
満月 no.5
~ 離脱 ~
かなしみだけが降り積もる森は、さまよう魂
であふれていて、入口に立った私のこころに
朱色の煙がついてこいと呼びかけていた。枯
木に囲まれた道なき道を、時刻さえ存在しな
い空間を導かれるまま歩く。
(睡眠薬を飲み込んで
脳内を占めていた絶望に別れを告げた
そうして森へやってきたのだ)
どこまで進んだか解らなかった。地面を這う
魂の数は多くなり、あしの踏み場もないくら
い。朱色の煙は前方に留まり、私が追いつく
のを待っている。
ふしぎと疲労は感じなかった。からだは弾む
ように軽く、春風でも吹こうものなら乗って
いけそうな気さえしたが、風の音は聞こえぬ
ばかりか仄暗さのなか、コトバすらないよう
に思われた。かつてコトバは無限の可能性を
秘めていたのに。(つなぎつながれふくらん
で、ときに音楽のように浅く深く
変化のない風景が続いた。
嫌気がさしては立ち止まり、歩くたび記憶が
寄せてくる。
コトバはいつしかズレを生じ本音と建前が交
差する上を、斜めになって飛び交っていた。
昼夜を問わず、画面上に表れるコトバは中傷
の道具と化し、気にするあまり自ら高く壁を
作りあげた。壁に守られた内側から外の様子
を観察しては、手を差しのべられるのを待つ
ようになり、誰かの成功が焦りを生んだ。同
時に少しずつ自信をなくした。離脱は脱線を
開示した。坂道を連想させ転がり落ちるのに
限界などなかったから。
長いこと俯いていたらしい。湧き出る記憶の
断片は鋭利なガラスの破片のように、こころ
の内に突き刺さり、そのせいで、私だけが人
間のからだのままなのかもしれなかった。気
づけば朱色の煙との距離は離され、追いつこ
うと試みた。
だが、朱色の煙は消えていた。予測の範囲を
超えた事態に直面し、どこかも解らない場所
でひとり、どの世界にも属せない、からだが
意思が、大量の汗を分泌させる。
人生の長さと残したものは、必ずしも比例は
しないけれど、私はいったい何を成し遂げて
きたのだろう。詩を書くのは好きだった。集
中するあまり食事をとるのも忘れるくらい。
そんな自分さえ安易な行動で裏切ったのだ。
コトバはもう意味をなさない。
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イラスト、お借りしました。
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(ちょっとだけ解説)
満月のエネルギーはとても強いものですか
ら、ちょっとした失敗でも感情を揺さぶられ
てしまう可能性を含んでいます。そこで、解
放してあげることが重要になってきますし、
満月は、こころの浄化を意識するタイミング
の良いときとされております。
月・シリーズは完結となります。この作品
が最終回にふさわしいかどうかは解りません。
全編を通して『生きてください!』それだけ
を伝えたかった。
(それだけを伝えたかった)
ここまで読んでくださいまして、誠にありが
とうございました。
あらためましてお礼を記したいと思います。