特別な夏〜ウィンブルドン2022〜

 主催者「ロシアとベラルーシの選手はダメ!」ATPとWTA「じゃあポイント無し!」選手「えー」という感じで始まった今年のウィンブルドン。

 セレナの復帰に沸いた女子は、2月から負けなしシフィオンテクの快進撃がどこまで続くか注目されたが、3回戦で力尽き、抜け出したジャバーがアラブ系初のグランドスラム王手、と思いきや、最後はカザフスタンの「笑わない」美少女リバキナが逆転勝ち、という相変わらずの予想屋泣かせの展開。

 ナンバーワンのメドベージェフ、それに続くルブレフ、ハチャノフといった、ここ最近のATPを引っ張ってきたロシア勢欠場の男子。期待のズべレフはケガ、復帰してきたベレッティーニはコロナ陽性で離脱というわけで、結局優勝候補は丈夫で長持ちのナダル、ジョコビッチの両巨頭。

 対抗馬。コーチである父親のコーチング違反疑惑、トイレットブレイクルール改正のきっかけにもなった「トイレ長すぎてマレーがキレる」事件など、文字通りギリシャの彫刻を思わせるイケメンで人気あるけど実はお騒がせくんの第4シードチチパス。同世代ライバルが消えてひそかにチャンスだったが、3回戦でこれまた暴れん坊キリオスとの問題児対決に敗れ、このたびもグランドスラムには手が届かず。ちなみにこの試合で、チチパスはイラついてボールをスタンドに打ち込み、キリオスは審判に文句言い過ぎで仲良く罰金。

 暴言放言ラケットへし折り審判とケンカ大得意、悪名高い罰金王のキリオス。世界ランク40位。久しぶりに好調が伝えられる中で迎えたウィンブルドン。2,3度ボールをついたかつかないか、美しいフォームから迷いなく繰り出される素晴らしいサーブと、抜群の身体能力、わーすげーやっぱこの人すげーうまーい、とつくづく思った。ポテンシャルは高いのに極端に気性難、道中かかりっぱなし。でも19歳で2014年のウィンブルドンに突然現れてナダルにさくっと勝った姿があまりに鮮烈で、なんか憎めないんだな。やればできる子。台風の目になれるかな、なってほしいな、と思っていたら、あれよあれよと勝ち進み、準決勝8年ぶりにナダルとウィンブルドン対決が決まり、腹部のケガでナダル棄権により実現せず残念だったけど、自身初、本人もまさかのグランドスラムファイナリストとなった。待ち受ける相手は、アルカラスに勝ったシナーをフルセット逆転など苦戦しつつもやっぱりこの人、ディフェンディングチャンピオン、ジョコビッチ。

 ポイントなしということで、エキシビション、と揶揄されたウィンブルドン2022。まあそうだとしても、これ以上は望めない男子決勝カード。記録はつかないけど、記憶には残る、というあたりがやっぱ全英しぶとい。試合は、第1セットキリオスが取って、およ、と沸いたものの、その後ジョコビッチきっちり3セット連取で(第4セットはタイブレークでキリオスもがんばったけど)ウィンブルドン4連覇。見事、ほんとうにお見事でした。

 いろいろあったけど、最後は収まるところに収まってめでたし。短い芝のシーズンを終えて、キリオスは彼女とバハマでいちゃいちゃバカンスを楽しみながら全米に向けて練習を再開してる様子。ワクチン未接種のため現在のところアメリカ入国が許されず、全米は欠場が見込まれるジョコビッチは、故国セルビアでそれでもトレーニングに励んでいる。本来であれば受け取れる、キープできるポイントを失ったため、グランドスラムファイナリストであるにも関わらず、キリオスは40位から45位へ、ジョコビッチは3位から7位へランキングを落とした。逆に、去年4回戦敗退のメドベージェフは180ポイントしか失わないため、今大会欠場でもナンバーワンのままというねじれっぷり。

 国籍による出場の可否、ランキングポイント付与無し。2022年のウィンブルドンはのちにどんなふうに振り返られるだろう。個人的にウィンブルドンは、去年いち早く「パンデミックどこ吹く風」とばかりに大歓声フルハウスをやってくれて、とても元気をもらったので、今回のことは残念に思っているし、成り行きとは言え、ポイントなし、になってしまったのも残念。失うポイントの多いトップ選手はもちろん、むしろダメージが大きいのは、自身初の3回戦、とか、シード選手を破ったノーシードの選手とか、地道に積み重ねている下位の選手たちだからだ。

 今年最後のグランドスラム、8月末の全米オープンにはロシア勢が戻ってくる。でも男子シングルスは未だ最強の呼び声高いジョコビッチは出られないという、やっぱりどこかいびつなかたちは続く。テニスに限らずアスリートの旬ははかないし、当然好不調の波もある。今は今しかなくて、そういうものが簡単に「はい残念、じゃあまたね」みたいに流されていくことに、ずいぶん慣れてしまったなあと思う。かと言って腹を立てることにも、なんだか疲れてしまっているようで。いつかこの特別だったウィンブルドンを思い出す時、そういう自分も一緒に思い出すのかな。その時私は何を思っているのかな、と、早過ぎる夏空を見上げつつ、ゆっくりゆっくり取り戻し始めているティーム、気合だけは「若いもんには負けねえ!」のマレー、フェデラー先生は来年復帰するって言ってるし、ズべレフの靭帯はものすごい勢いでくっついてきてるみたいだし、イレギュラーの中でいまを生きる姿に、やっぱり目を凝らしてしまうわけで。

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