やくざ仕込みの媚薬
まあひとの性向は千差万別、そのなかで自分のやりかたの好みや相性が合うひとと出会うって難しいですよね。ふつうのひとは、そんなに次から次へと相手を試してみるわけにもいかないでしょうし。
当時つきあっていたやくざの彼はそんな数少ないひとりで、知り合ったのは実はネット上。何度かやりとりをしてお茶をするようになり、指定の待ち合わせ場所にわたしが立っているところを、彼がどでかいキャデラックで突っ込んできて、京都市内のホテルの喫茶室にいきました。
車にのりこんだわたしを端正な顔つきの彼はじろじろみて、
「かわいいやん」
と言ってくれました。
「残念な外見やったら、素通りして帰って、あとから『どうしてもみつからなかった』って連絡しようと思ってたけどな。かわいいやん」
メールのやりとりでは丁寧な、とてもその業界のひととは思えない穏やかな感じだったし、感性に優れた文学的な文章だったので、ひそかに妄想力ゆたかな文学系学生かとも思っていたのですが、ほんとうにその業界の、指7本(右4本、左3本)で全身に紋々のはいった、迫力のある声つきのひとでした。
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