ラブレターズが照らしたコントの光/キングオブコント2024
キングオブコント2024、ラブレターズ優勝おめでとうございます!今年も中年お笑いファンには嬉しい嬉しい結末になりました。昨年のコントの出来で結果が振るわず、これでダメなら優勝は厳しいんじゃないかと思っていたのですが、ラブレターズはやってくれました。結成してすぐにキングオブコントの決勝に進出し、その頃から二人の芸達者さと脚本の面白さは随一でした。それから10年以上が経って塚本は哀愁が増し、溜口はよりポップになりという変化がネタに深みを生んだように見えました。
一昔前は人柄が笑いにつながるのは漫才だけで、コントに人柄は関係ないというのが通説でした。コントに必要なものは台本と演技力。それで友近やシソンヌじろうなど憑依型の人間が評価されてきた歴史があります。ところがこの2年でサルゴリラ、ラブレターズと人間性を盛り込んだ熟年のコント師の優勝が続いて、面白いコントの定義が変わりつつあります。その変化はコントが次のステージに達したことの証明でもあると思います。
芸人がネタを分析する裏側の面白さがエンタメになる時代が来て、その評論をさらに視聴者が分析するややこしい構図になった日本のお笑い。視聴者にとっては笑えるか笑えないか、という評価軸しかなかったはずなのに、内容の整合性やディティールへの要求が増え、ボケのための不自然なセリフや展開に対して厳しい視線が注がれるようになってきたなと感じます。そうなると頭で考えた大喜利性の高いボケよりも、人間性から溢れたおかしさの方が無理なく笑える。
若手のコント師にとっては絶望的な流れですが、一度沈んだお笑いブームの再建には欠かせない流れだと思っています。お笑いに興味のない人でも目が惹きつけられるようなキャラクターの発掘が今後キングオブコントに求められていくだろうと思っています。個人的にはザ・ギースやサスペンダーズ、紅しょうがの躍進に期待しています。
大会を振り返ると、今回は感情の変化をうまく笑いに繋げたのがコットンとラブレターズの一本目で、そのことも優勝を後押ししたのかなと思いました。やっぱり漫才と違うコントの強みは感情の変化で笑わせられるところだと思います。
人間味の溢れる役者と感情の変化で笑わせる台本。この2つが求められる流れは今後も続きそうだなと思った大会でした。
特に好きだったコントと審査員のコメントについて、少し振り返ってみたいと思います。
まず今回の大会で一番笑ったのはニッポンの社長でした。声が小さいで会場を掴み、野球が上手いでさらに笑いを上乗せしてからバットでの一撃。会場も一番の爆笑に包まれていました。この一撃を評価したのが小峠と秋山というのも胸が熱くなります。5分のネタ時間のうちどこで一番の盛り上がりが来るか、どれだけいろんな角度で笑いを作るか、などこのネタの評価が分かれるポイントも理解できますが、もっと評価されて良いネタだったと思います。
そして最もコントの完成度の高かったや団。ボケの一つ一つ、ツッコミの一つ一つが全て面白くてアングラ感溢れるボケも含め最高のコントでした。これでファイナル行けないなんて、ショックすぎます。
一点だけ、中嶋が変わり者で理不尽な目に遭ってもヘラヘラしている、というのが個人的には引っかかるところでした。それなら中嶋が上司という設定にして、ロングサイズ伊藤が突っかかっていく方が構図として面白いのに、と思っていました。
ところが、じろうの審査コメント「伊藤がヤなやつなのに、それに付き合うしかない閉じた関係性が面白かった」で一気に印象が変わりました。工場長も含めて4人だけの職場で、伊藤があの感じになったら言う通りに従わないと場が収まらないのが彼らの日常。嫌だと反抗すれば喧嘩はますます大きくなる。だから中嶋は変人のふりをして言われるまま服を脱ぎ、子供の絵を破られてもヘラヘラしていたと思うと、その環境の悲壮感とヘラヘラ具合がマッチして全然違う物語だったんだなと感じました。逃げられない職場環境で、平穏に暮らすための防衛策が道化を演じることだった中嶋。中嶋目線ならこの話はジョーカーの前日譚でした。
最後に設定がずば抜けていたシティホテル3号室。日本中のコント好きが一気にファンになるぐらいの衝撃でした。ものすごく高度なことをしているのに、観客がしっかりついてくる動線の引き方が見事でした。内容が現実離れしていない点も非常に好印象。コントの一番面白い部分を綺麗に切り取って、余計な装飾なく魅せたスタイリッシュなコントでした。
その他のコントも全て面白かったハイレベルな大会でした。ダンビラムーチョが三発太鼓を叩いた瞬間と、隣人のチンパンジーが直立して歩き出した瞬間は何度見返してもお腹を抱えて笑ってしまいます。やっぱりコントって良いなあと思いました。
この面白い大会に松本人志がいないのが寂しかったです。来年の顔ぶれにはぜひ、何らかの形で松本人志のコメントが聞けるといいなと思っています。