Rー1ぐらんぷり2020

Rー1ぐらんぷり2020、野田クリスタル、優勝おめでとう!

無観客で少々寂しい大会ではありましたが、今年も面白いネタがたくさんありました。優勝の野田クリスタルはもちろん、準優勝の大谷健太のネタも素晴らしかった。


Rー1は、一人芸の頂点を決めるコンテストで、Mー1やキングオブコントと比べて幅広いジャンルの芸人がエントリーします。

あえてジャンル分けするなら、「フリップ芸(粗品、大谷健太、COWCOW善し、佐久間一行)」「モノマネ(チョコプラ松尾、岸学、博多華丸)」「漫談(あべこうじ、濱田祐太郎、キャプテン渡辺)」「ひとりコント(おいでやす小田、マツモトクラブ、ルシファー吉岡)」「歌ネタ(AMEMIYA、SAKURAI、こがけん)」「ギャグ(COWCOW多田、とにかく明るい安村、BKB)」「狂気(ハリウッドザコシショウ、ななまがり森下、天竺鼠川原)」などでしょうか。この雑多なジャンルを一人芸と括り、競い合うのがRー1ぐらんぷりです。

例えるなら、日本中のおでんの具を集めて、今年はどの具材が一番美味しいのか決めるようなものです。昨年の優勝は北海道の大根だったけど、今年の優勝は茨城県のたまごだったなあ、というような。それぞれのジャンルのトップが集まって戦うせいで、比較が難しく、具材自体の好みもはっきり出ます。おでんなら絶対大根が一番うまい!という人もいれば、昆布が嫌いな人もいるわけです。括り方が雑なせいで大会に一貫性が出にくいのです。

それに対してM-1やキングオブコントは、例えるなら日本中のおでん同士が競い合う大会です。おでんという一つの括りの中で、関西と関東の味の違いを感じたり、地方の見たこともないおでんの具材を楽しんだりするのです。おでんという一貫性があるおかげで、視聴者も同じ姿勢で楽しめるし、評価基準もある程度わかりやすい。

スリムクラブというこれまでになくスローなテンポの漫才師が出てきて爆笑できるのも、笑い飯のような真っ直ぐに漫才のうまいコンビがいるからです。明確な括りの中で王道があるから、その対極のすごさがわかる。間をたっぷり使って、4分間に言葉を詰めないことのすごさ、その面白さがわかる。王道の漫才があるから、ぺこぱの漫才自体をフリに使うような漫才が面白くなる。

R-1ぐらんぷりは、ピン芸という括りが大雑把なせいで、王道の芸が存在せず、お互いがお互いの芸を引き立て合わないのです。

また、技術面やアイデア面での単純な比較が難しいという点も盛り上がりに欠ける要因だと思います。今回の大会でいえば、メルヘン須長のモノマネのクオリティと、SAKURAIの歌ネタの良さ、ななまがり森下の気の狂い方に優劣をつけることはほとんど不可能でしょう。好みの差です。


他にRー1の独特な点として挙げられるのが、笑いに必要な緊張感を作り出しにくいという点です。

例えば漫才では、ネタにアドリブを挟むことで緊張感が生まれます。アドリブという不確実なやり取りをネタに組み込むことで、会話が不安定になり、テンポが崩れてその後の展開に緊張感が走る。その緊張感に観客は引き込まれ、緊張が解かれた時に笑いが起こる。バラエティでよく論じられる、緊張の緩和というやつです。

漫才では緊張感をアドリブや怒鳴りで表現し、コントでは予想もつかない展開やキャラクターで表現する。

ピン芸では、この緊張感を生み出すのが本当に難しい。フリップや漫談で緊張感を生むのは難しいのです。

緊張感のない芸は、学芸会やお遊戯会のように、練習してきたセリフをそのまま話すかのような、「練習感の強い」ネタになってしまいます。これではなかなか客の心を掴めません。どんなに面白いよくできたネタでも、その人の練習が見えた瞬間に冷めてしまう。お笑いには緊張感やドライブ感、即興性のようなものが必要なのです。


R-1ぐらんぷりでは、その緊張感をどう表現してきたのでしょう。

ピン芸で緊張感を出す方法。まず初めに思い当たるのは、”客いじり”です。R-1ではネタの合間にお客さんに声をかけるネタがよくあります。例えば、佐久間一行の「伝われ〜」や「ついてきて〜」、濱田祐太郎の「これどっちか迷ったらわろといてくださいよ」などです。

こういったお客さんとのやり取りが、その場のライブ感を演出します。観客も声をかけられることで、その芸に参加している緊張感が生まれます。


ハリウッドザコシショウやななまがり森下のネタのように、「本当に狂った人が出てきたのかもしれない」という恐怖を伴う緊張感もあります。

ななまがり森下の今年のネタ、「乳首を隠せない男」めちゃくちゃ面白かったのですが、後半に小道具を用意する時間でその緊張感から降りてしまったのが少しもったいなかったなと思いました。あれが例えば乳首を隠せそうなボードが横から流れてくるけれど、それでもうまく隠せない、という展開なら勝ち抜けもあったのかなという気もします(いや、乳首はダメか。笑)。泣くほど笑ったので勝ってほしかったけれど、狂ったネタなら、ザコシのように、あの威圧感を最後まで降りずにやり抜く必要がありそうです。


他には、不確実な方法で即興性を楽しむネタもあります。

過去にはCOWCOW多田の「50音ギャグ」や、岡野陽一の「鶏肉を空に返す」などのネタがありました。風船と鶏肉のバランスをとる謎の時間で、緊張感と会場の一体感を作った岡野さんのネタはすごかった。あのネタこそ無観客で、悲鳴が上がらなかったらどうなったのだろうと考えてしまいます。

完全に用意してきたネタではなく、その場でのランダム性を会場で共有する。会場で一体となって「どういう展開になるのだろう」「成功するのか」と緊張するのです。「成功するのか」という緊張感は、アキラ100%のおぼん芸やだーりんず松本りんすのかつら芸にも近しいものがあります。

今年の野田クリスタルの優勝ネタ「野田ゲー」も、ゲーム実況という不安定なネタで緊張感を出していました。自作のゲームを操作しながら実況するという構成には、ゲームの誤作動やプレイングミスなどの不確実性があり、ネタ中は緊張感がずっとありました。喋りは少したどたどしい部分もありましたが、ネタの真髄は自作のゲームを実況するという大喜利性の高さです。今年のR-1ぐらんぷりで飛び抜けてバカバカしかったのはこのネタでした。素晴らしかった。優勝おめでとう!

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