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金魚【散文・短歌】
行きつけのお気に入りの茶房の小さな庭には、これまた小さな一坪ほどの池がある。本当にタタミで二畳分ほどの広さで、おしゃれで趣のあるものである。行けば、いつもそこに二十匹ほど金魚が泳いでいるが、ある時、まったくいなくなっていたことがあった。池の修繕で一時的に他の場所に移したのかと思っていたが、どうやら違っていたようだ。
後日、違う種類の金魚がほぼ同じ数、その池に泳いでいるのを目にした。そして、池の上には「鳥よけ」と思われる目の粗い黄色い網がかけられていた。「以前そこにいた金魚たちは鳥に食われてしまったに違いない」そう確信した。
金魚を鳥から守るためには致し方のないことであろう。茶房自体は好きなので、この池、「なからましかばとおぼえしか」である。全く風情がなくなってしまい、それ以降は利用を控えるようになってしまった。
『興醒めや 網に切られし金とゝの ゆらり漂う水面の影は』(私之若夜)
※これは十年ほど前の実話です。詩というよりは、むしろエッセイですね(笑)文中、「なからましかばとおぼえしか」は、本意とは、かなり違いますが『徒然草』第十一段の「この木、なからばしかばとおぼえしか」の流用です。変な使い方をして、ごめんなさい、吉田兼好様。
(20220319/私之若夜=しのわかや)