世界観とは、表現してきた“好き”の詰め合わせ。あの人と学ぶ自分らしい写真の探し方
誰かの発信を見ては自分らしさに惑い「ふう」と小さなため息をつく。憧れのあの人のSNSを開いては眺めてを繰り返す。
いつだって気軽に発信できるようになった今の時代。代わりに、多くの発信を見かけるようになった時代。自分らしさや世界観に悩むことって、きっとあるのではないでしょうか。
今回はそんな「自分らしさ」に迷いながら発信に取り組む方へ届いてほしい世界観のお話を。
4月18日(土)に完全オンラインにて開催した、オンラインコミュニティ「.colony」の主催イベント“.colony × Photoli × GENICの「写真のはなし」その3 - 世界観のつくり方ってどうしてる?編 -”のトークセッションをレポートします。
▼ 「.colony」とは?な方はこちらから
https://note.mu/nontsu/n/nf072479c9872
▼ 以前のイベント内容が気になる!な方はこちらから
https://note.com/shino74/n/n1fa6b9030fbb
「.colony」主催の古性のちさん、コミュニティゲストである写真メディア「Photoli」編集長の横尾涼さん、ゲストにはInstagramを中心に華麗なフードフォトの世界を生み出す中野晴代さんをお迎えして「世界観」をテーマにトークを繰り広げていただきました。
また、横尾さんと同様コミュニティゲストのトラベル&ライフスタイル雑誌「GENIC」を発刊するミツバチワークス代表の光山一樹さん、前回のイベントゲストであるコハラタケルさんも登壇くださり、総勢5名の登壇者が集まる賑やかなオンラインイベントになりました。
自分らしさってなんだろう、世界観の作り方ってなんだろう。そんな風に足踏みしている方のちょっとしたヒントをお届けできたら嬉しいです。
■ 古性 のち(@nocci_84)
1989年生まれ。オンラインコミュニティ.colony主催。
写真と文筆を仕事に世界中を旅している。1年の半分は海外。
Twitterが大好きだが投稿はいつも誤字まみれ。SNSの総フォロワーは現在8.5万人ほど。
■ 横尾 涼(@ryopg8)
写真のコツとフォトスポットを紹介するwebマガジンPhotoliの編集長・フォトグラファー。写真の楽しさを広めたい人。マーケと写真が好きです!
■ 中野 晴代(@haruyonakano)
グラフィックデザイナーでフォトグラファー。
住宅施工会社のマーケティング・ディレクターとマルチに活躍しながらも、家庭では二児の母。Instagramグラムでは6.6万人以上のフォロワーを持つ。2019年6月に共著『Instagramグラム商品写真の撮り方ガイド』を発売。
■ 光山 一樹 ミツバチワークス代表、GENIC発行人(@genic_web)
雑誌「GENIC」は、毎日をフォトジェニックに送りたい女性のためのヒントをたくさん詰め込んだ、カメラとトラベルのライフスタイルマガジンです。今流行の写真スタイルやおしゃれな旅先、使いやすい最先端のカメラなど、読むだけで日々をセンスアップできる雑誌を目指し、発刊しています。
■ コハラ タケル(@takerukohara_sono1)
1984年、長崎県生まれ。仕事は家族写真、Instagramでは女性ポートレートを中心に撮影しているフリーのフォトグラファー。絶景ではなく誰もが日常で歩くようななんでもないただの道での撮影を得意としている。現在SNSの総フォロワー数は95,000人以上。
料理は苦手。でも、食卓に並ぶ美しいフードは撮りたい
中野:はじめまして、中野晴代です。よろしくお願いします。
私は日頃、静岡の住宅施工会社でグラフィックデザイナーや広報として働いていて、会社のInstagram運用や施工写真撮影などを行っています。その傍ら、副業でもフォトグラファーとして働いています。
写真は15年ほど前から趣味で撮り始めて、最初はブログで発信を続けていました。
その後、2010年頃にInstagramがリリースされたのでそこからはInstagramで発信するように。現在はInstagramを中心に撮影のお仕事やイベント登壇のお声がけをいただいています。
中野:では、普段よく撮っている写真をご紹介させてください。
私の場合は、一番フードの撮影が多いです。というのも、写真を始めたときからフードの写真を撮るのが好きだったんですよね。
ただ、料理は苦手なんですけれど……ちょっとでも料理に関することが楽しめたらと思って撮影している節もあります(笑)。
自分で料理やお菓子を作るのはうまくないので、お店で買ってきたケーキやお惣菜をワンプレートに乗せて写真を撮る、みたいなことが多いです。
中野:この写真もスタイリストさんのお宅で撮影しました。作るよりもできあがった美しい料理を撮るほうがテンションが上がります。
古性:料理もときどきはするんですか?
中野:します……けれど好きじゃないんですよね(笑)。息子がいるんですけれど、男の子って私が好きなようなおしゃれなカフェごはんって食べてくれないんです。
普通に横で納豆ごはんを食べるほうが好きみたいで。だから、Instagramにたまに作った料理を載せるのですが、それはひとりで作って、ひとりで食べています(笑)。
中野:フード以外だと旅行写真を撮ることもあります。この写真は北海道で撮りました。
これはシカゴですね。余談ですが、たまたま行ったときに日本人が自分ひとりだけで周りが海外の方ばかりで……英語が話せないのですごく苦労したの思い出があります。気合いで乗り切りました。
中野:あとは、たまにポートレートを撮影することもあります。
姪っ子の写真とか、
シェフの写真を撮らせていただいたりとか。
中野:あとは、商品写真の撮影をお仕事ですることもあります。
ピーターラビットさんのInstagramアカウントで掲載する写真だったり、
お菓子の「PRESS BUTTER SAND」だったり。
中野:あとは、本業として施工事例の写真を撮影することもあります。こう考えてみると、結構なんでも撮影しているんですよね。
古性:晴代さんのイメージは割と「フード」一択だったので、他の写真がすごく新鮮に見えます。
中野:本当ですか? なんだか嬉しいです……!
「中野晴代らしさ」を生み出す3つのキーワード
中野:今回のお題である世界観についてお話していこうかなと思うのですが、実はこのお題をいただいたときすごく考え込んじゃったんですよね。考えれば考えるほど深みにハマるというか……。
古性:このプレゼンのスライドを中野さんからいただいたのがイベント前日の深夜だったので「すごく悩ませてしまったのでは……!」と思っていたところです。
中野:そう、なんか哲学的な問いになってしまって、考えても考えても答えが出なくて詰んでました(笑)。でも今日はその世界観をビジュアルの話と捉えてお話していこうかなと思います。
中野:まず、私が普段使っているSNSはInstagramとTwitterの2つです。ただ、Twitterはつぶやくよりも見ているほうが楽しいので、Instagramをメインの発信ツールとして使っています。
ただ、Instagramの運用の方法といっても、仕事をいただくためとか誰かに何かを届けたいという思いはあまりなくて。あくまで「自分の癒し」だなと感じています。
その証拠に、私が投稿しているものはあくまで私が好きなものなんですよね。いわば、自分自身の心の安全地帯、なのかな。
前提として自分自身が癒されるアカウントであることを重視しているし、フォロワーさんにもさらっと見てもらえたらという気持ちではいます。できる限り「見てみて!」と押し付けがましい存在ではいたくないです。
古性:YouTubeのコメントで「晴代さんの写真が本当に好き!」とか「光がすごく綺麗!」とかたくさんいただいています。
中野:わあ、本当ですか……嬉しい! あくまで好きなものを好きなように撮って投稿しているので、自分の写真が好きだと言えるんですよね。というか「好き」って言えないと続けていても楽しくなくなっちゃいませんか?
SNS疲れみたいな感情が生まれるのも無理しているからだと思うんです。楽しいことに焦点を当てて運用すると継続はしやすいような気がします。
中野:その上で、世界観について考えてみると「世界観は見る人にとって変わるもの」だと思います。
別の言葉に置き換えると“第一印象”みたいなものに近いかもしれませんが、私のInstagramに関しては「色味」「被写体」「(写真の)並べ方」の3要素が影響しているのかなと。
古性:前回、コハラさんをゲストのお招きした際も「世界観は写真を見る人が決めるもの」と仰っていたのが印象的でした。
中野:うん、本当にそう思いますね。自分の思う「こう見てほしい」という思いと受け手が捉える印象には少なからずズレがあるし、そういうズレが起きるのは必然的。だから見る人に世界観は委ねていますね。
ただ、私自身が意識している運用のルールみたいなものを考えると3つの要素がありました。とはいえ、これはあくまでお題を考えていく中で見えたものなので後付けではあるんですけれどね。
そして、色味・被写体・並べ方のポイントをさらに細かなポイントに落とし込むとこんな感じです。
● 投稿のテーマを決める
テーブルフォトやおでかけ写真などをメインに投稿すること。ポートレートは表現したいものと外れるので投稿しない。
● 澄んだ空気感を表現するため、青みを少し強めに
青っぽい写真が好き。以前、インドネシアの女の子と撮影に行ったときに「写真を見るとどこの国の人が撮影したのかわかる」と聞いたことがある。日本人は青みがかっている写真を好む人が多い。他にも、日本特有の湿度感のある気候が写真にも反映されていたり。
● ギャラリーは9枚1セットとして考え、引きと寄りの写真をバランスよく並べる
ギャラリーのどの9枚を切り取ってもバランスが良くなるよう、アプリを使って投稿前にギャラリーのイメージを確認している。
● フィルムの色味を意識して仕上げる
もともと昔はフィルムで写真を撮っていた。当時はCONTAX Ariaを使っていてそのときの色味がすごく好きなので、今撮影しているデジタルの写真もフィルムの色味に寄せている。
● 肉眼で見たままの色仕上げない
商品撮りは別だけど、自分の作品として撮るときは感じたイメージや作りたい世界から表現する色味を決めている。全体的には、青みがかった色合いに少し黄みを加えて補正することが多い。大幅な補正は作り込みすぎてしまうので避けるものの、記録というよりも「ファンタジー」であることを意識した補正が多い。
古性:私も「こんな物語があったらいいな」と考えて、そのストーリーを意識しながら写真を補正するので、すごくわかる感覚です。
中野:あとは、写真単体で見せる場合の補正とInstagramで投稿する写真とではの補正を変えることもあります。単体だと何にも影響を受けないので、その1枚が綺麗に仕上がることが大事。
ただ、Instagramの場合はギャラリーの他の写真に馴染ませることも必要なので、あえて暗めに補正するみたいな調整もかけていますね。
古性:へ〜それ面白いですね。あと、晴代さんへのラブレターがめちゃくちゃきています。「美しい写真で眼福」「素敵」あとやっぱり「光の切り撮り方がさすがです」が多いかも。
「真俯瞰で写真を撮るときにいつもカメラの影が入ってしまうのですが、どうしたら入らないですか?」って質問もきていますね。
中野:真俯瞰の写真、こういうのかな。
中野:カメラの影が入ってしまうのは、おそらくカメラの上から光が入っているからだと思うんですよね。だから、部屋の電気を全部消して、被写体に対して自然光を右や左から差すようセッティングするのが良いと思います。
古性:なるほど。カメラの影が入ってしまって困るみなさん、まず電気を消しましょう!(笑)
中野:あと、ギャラリーの9枚の写真の中に「箸休めショット」を2枚ほど入れるのも世界観を作るときに少し意識しています。この写真でいうと、右上の海や藤の花とかですね。
すべての写真がぎゅっと詰まった情報量の多いものだと、見ていておなかいっぱいになってしまう気がするんです。
だから、抜け感を作るというか。空間の多い写真をときどき混ぜて判ラスを取ることも意識しています。
加えて、感覚値なので言語化が難しいのですが……ギャラリーに「縦」「横」の流れを生むようにも考えていますね。
藤の花や左下のタルトの写真は「縦」の流れを生むように。海の水平線は「横」の流れを生むように。
古性:うんうん、わかります。目線が流れる感じですよね。
中野:そうですね。ギャラリー全体としては、色味がごちゃつかないように彩度をやや落とすことなんかも考えていますね。
その「好きな表現」は、見るのと作るの、どちらが合っているのか?
中野:普段「Instagramで世界観を作るのに苦労している」とか「目指したいスタイルがあるけれど近づけない」などの相談をもらうことがあるんです。
私も同じように悩んだことがあるのですごく気持ちがわかるなと思って。
中野:ただ、私は無理なく自然に表現できることや表現のクセが自分のスタイルや世界観を作るのだろうなと思っているんです。だから、一度自分のクセを受け入れてみてほしいです。
私も3年前くらいにとってもシンプルなギャラリーに憧れた時期があります。白背景で余白を綺麗に取って、商品は中央にぽつん、みたいな。
でもダメだった。だって余白があるとなにかを置きたくなっちゃうんです(笑)。
そのときに見るのが好きな表現と、表現することが好きなものとは違うのだなと思いました。
頑張って努力して会得するのも大切だし会得できるなら良いけれど、無理なものってあるなあと。そこからはクセを活かして作品作りをするようになりました。
古性:めっっっちゃわかります。たとえば、私の場合は白水桃花さんのギャラリーの余白が美しくてバランスが良くて好きで……すごいなといつも思うんです。でも、できない。
中野:そう、表現できないんですよね(笑)。シンプルな表現を見るのが好きだけど、私が表現したいものはどうやらがちゃがちゃした世界観なので、割り切って運用していますね。そのほうが楽しいですし。
古性:結構、その「好き」と「できる」の狭間で悩むことってありそうですよね。
中野:表現するのが好きな人には、少なからずその葛藤の時期はあるのだろうなと思います。格好良いのが好きなのにかわいくなってしまうとか。
でもそれを悲観的に捉えるのではなく、活かすように考えるのをおすすめしたいですね。
さっき例に出したSNS疲れも葛藤から生まれるのかなと思いますし。私も一時期、フォロワー数とかいいね数とかに翻弄されて写真が上げられなくなったことがありました。
本来は「楽しいから」を理由に始めたのに、数字や周囲への憧れに目を向けてばかりで楽しめなくなるのはもったいない。
だから、無理なく続けられることを考えました。今は、撮りたいときにはたくさん写真を撮るし、撮りたくないときには何も撮らないです。
ガチガチしたルールを作らず、やりたいようにやるのが長続きさせる秘訣だと思います。
雰囲気を考えるとInstagramには載せられないみたいな写真はTwitterに載せるとか。使い分けしながらSNSと付き合っていますね。
古性:Twitterは統一感を考えずに発信したいことを単体で流せますもんね。
「まるで絵を描くように」世界観を作る小物の選び方
古性:さて、いろいろ伺ってきたので、ここからは登壇者している賑やかしチームからの質問タイムにしようかなと思うのですが、なにか質問のある方はいますか?
コハラ:フードの写真を撮るときの質問なんですけれど、主題に添える小物選びのセンスがあんまりなくて「どう足していこう?」といつも悩んでしまうんですよね。晴代さんはどうやって小物を選んでいるんですか?
中野:先日、共著を一緒に出した6151さんともそういう話になったんですよね。なんだろう……たとえば、パスタを撮るときには使った食材を添えるみたいな感じです。
トマトパスタならミニトマトとかカトラリーとかグラスとかクロスとか……テーブルフォトの場合はその食事に関連しないものは取り入れないですね。
私も小物を合わせるのは結構苦手で、毎回同じラインナップになります(笑)。
中野:この写真はcocoroneさんからのご依頼で撮影したのですが、グラス・ジャム・缶の飲み物・クロスがセットになった商品の写真で、背景に食卓に関連する小物をセッティングしました。
意識したのは、小さいものと大きいものをバランスよく配置することです。とはいえ、三脚を立ててカメラをセッティングして、何度も小物を置いては外してを繰り返して撮っているのでバシッと決まることは少ないです。
テーブルフォトってすごく時間がかかるんですよね。
コハラ:小物のサイズのバランス感も意識しているんですね。
中野:そうですね。この写真にはミルクピッチャーが2つ写っているんですけれど、そのくらいのサイズ感も小物は隙間を埋めるのにとても重宝します。
あとは、ユーカリを入れることも多いかな。グリーンが入れたいとか、入れるものがないときにはよくユーカリを登場させちゃう(笑)。
テーブルフォトは絵を描く感覚に似ていますね。ファインダーを覗いてみて、主題に対してどう隙間を埋めて構成するのかみたいな。ちなみに6151さんはイチゴとかレモンをよく置くって言ってました。
古性:イチゴとユーカリとミルクピッチャーを買います(笑)。
中野:(笑)。ブルーベリーケーキならブルーベリーとかね。私自身、好きな雑貨って限定されているのでスタイリングは本当に難しいです。
先日、プロのスタイリストさんとお仕事をご一緒したのですが、やっぱり引き出しが多くてすごいなあと実感しました。
古性:ひとつの撮影にはどのくらい時間をかけているんですか?
中野:準備から含めると、1時間以上はかかりますね。セッティングに時間がかかる分失敗したときにすごく落胆してしまうから、枚数はものすごく撮ります。
1カット100枚くらい撮ることも珍しくないですね。息子からは「母ちゃん、なんで同じのばっかり撮ってるのー?」ってよく言われます(笑)。
古性:(笑)。100枚はすごい……! 涼くんからは質問ある?
横尾:そうですね。スタイリングや写真のインスピレーションはどこから得ているんですか?
中野:雑誌とか好きなインスタグラマーさんの投稿から得ることが多いですかね。
古性:晴代さんの好きなインスタグラマーさん、聞きたいです。
中野:おそらく私の印象とは違うのですが、北海道のwinter named winterさんがずっと好きで。誰もマネできない世界で、まるで詩を読んでいるような写真だなあって。
古性:すごい。黒バック(背景)でごはんを撮るんですね。
中野:マットな黒で綺麗ですよね。私が黒バックで写真を撮るようになったのもこの方の影響です。とはいえ、同じような表現はしたいけれどできないです。
古性:この写真もすごい……! 私だったら日当たり良いところに持っていって撮るだろうから考えつかないです。すごいなあ。
中野:うんうん、憧れの眼差しで見つつも、自分だったらどう撮るかなって考えながらいろいろなアカウントを見ていますね。
古性:たしかに、晴代さん、以前も「Instagramをめちゃめちゃ見る」って仰っていましたもんね。
中野:そうですね。あとは、海外の方のアカウントから得るインスピレーションも多いですよ。海外の方のテーブルフォトってすごくうまくて。
古性:私も思います。よくpinterestで海外の方の写真を見るんですけれど、こだわり方とか撮影方法が全然違うんですよね。
中野:マネしたくてもマネできない世界観ですよね。置いてある小物を見ていても、根本的にライフスタイルが違うのだろうなと。
古性:ありますね。家の造りを見ていても「そんなに青い壁は日本の家屋にはない」とか思います(笑)。
中野:(笑)。日本だとスタジオを借りないと絶対に難しい撮影でも、海外の自宅ならできるから面白いですよね。
やりたいこととできることの葛藤とどう戦うか?
古性:私から涼くんやコハラさんに聞いてみたいことがあるんですが、さっき晴代さんが仰っていた自分の「やりたいこと」と「できること」の葛藤って二人にもありましたか?
横尾:僕はあんまりないかも。僕自身が発展途上なので、向かいたい方向を目指していつも写真を撮っているんですよね。だから、自分自身の個性を決めきるみたいなことはあんまり考えていないです。
古性:涼くん、昔と最近とで随分と写真が違うよね。フィルター(レタッチ)を変えたの?
横尾:そうだね。今ちょうど迷走期なのもあって、最近の写真は随分とレタッチを変えました。
あとは、仕事で写真を撮ることが多いから、自分らしさよりも人が乗り移ったような写真を撮れることを求められるシーンもあって。
すると、いろいろなタイプの写真が撮れるようになる。ただ、そのかわりに個性は見失いやすくて「自分の写真って?」という疑問が生まれるんですよね。今がちょうどその時期です(笑)。
古性:よくわかんない期なんだね。頑張ろうね。
横尾:頑張る(笑)。僕、同じ質問をコハラさんに聞いてみたいです。
コハラ:僕は表現したいものがたくさんあるし、写真人生はまだまだ長いから「諦める」ことはしていないですね。ただ、晴代さんが仰っていた無理なく続けられる表現はすごく大切だと思います。
今の僕ができない表現に対して諦めは抱いていないけれど、現在進行系で撮っている写真は無理のないものかもしれないです。やりたい表現は、空いている時間で勉強しているって感じですね。
古性:たしかに、サブアカウントの雰囲気はメインアカウントと比べて随分と違うなと感じます。
コハラ:でも、サブアカウントも本当はもっとファッションぽい撮影を多く取り入れたかったんですよ。
横尾:そっちに向かおうと思っているんですか?
コハラ:うん、向かおうとしたけれど、フタを開けてみたらいつも通りの自分でした(笑)。まだ諦めてはいないですけれどね。
光山:僕から晴代さんに質問なのですが「好き」の原体験ってなんですか?
晴代さんの写真は写真そのものの統一感だけではなくて、好きなものが明確にあることを感じるんですよね。どんなものが一番好きで、その自覚はいつ頃からあったのだろうかと気になります。
中野:なんだろう……食器ですかね。シンプルなデザインの北欧の食器は15年前くらいからずっと好きなんですよ。
結婚して家にいる時間が長くなった頃に、お気に入りのものに囲まれて暮らしたいなと思って探したのが食器でした。見ているうちに「こんなものがあるんだ〜」と魅了されたんですよね。
あとは、かわいいパッケージが好きですね。アメの包み紙とか、かわいいと捨てられなくてずっと取っておいてしまうタイプなんです。
古性:あ〜わかります!
中野:チョコレートの箱とかも、中身はさておき箱が欲しくて買っちゃいます。バレンタインでドゥバイヨルのチョコレートを夫にあげても「箱は返して?」って言っちゃう(笑)。
光山:すごい。その箱はずっと取っておくんですか?
中野:取っておきますね。断捨離が好きなのですぐになんでも捨てちゃうんですけれど、箱だけは残しています。
物心付いたときからデザインが良かったり綺麗なものはそばに置いておきたかったんですよね。だから、日頃から買い物もパケ買いが多いです。もっと素敵なパッケージが世の中にお溢れたら良いなと思いながら暮らしています。
光山:最近気に入ったパッケージもありますか?
中野:静岡も代表的ですけれど、ご当地のお土産はパッケージのかわいいものが増えてきていますよね。あと、身近ですが、ドラッグストアで売られているシャンプーも「かわいい!」と思うことが増えました。
古性:めちゃめちゃわかります。パッケージ力高い商品多いですよね。
「好き」が明確であることと「統一感」がもたらす関係性
古性:前回号のGENICでは晴代さんが登場しているページがありますよね。光山さんはどうして晴代さんにお声がけをしたんですか?
光山:まず前提としては、読者の方に紹介したい方ということで、編集長・編集者・ライターと話をしていました。その中で「何が好きなのかクリアである方」をご紹介したいと思ったんです。
逆説的ですが、好きなものが明確で言葉になる方って発信の統一感もあるし、熱量が伝わってくるなと。
晴代さんのことは随分と前から存じ上げていましたが、このタイミングでぜひご登場いただきたいと思ってお声がけしました。
古性:好きなものが明確であることって本当に大切ですよね。
光山:のちさんもときめきが好きな理由とか、どうして写真を撮るのかとか、どうやって撮るのかみたいな質問を僕が投げかけても明確に答えてくださるんですよね。意思のクリアさは発信に必ず影響していると思います。
古性:「好き」が明確にあることは大切だと思いつつ、でもInstagramで映える写真と自分の好きが必ずしも一致しない場合ってあるじゃないですか。そういうときって、世界観を守ることを重視するんですか?
中野:そうでうね。たとえばフード写真の場合だと、デザートにイチゴが乗っている写真ってよく伸びるんです。
古性:(笑)。わかる。
中野:でも私は天の邪鬼なので「絶対に(イチゴが乗った写真は)載せないぞ」と思っちゃう。イチゴのスイーツにはもちろん罪はないしかわいいけれど、私のギャラリーに合わせると心地よくないんです。
だから、いいね数よりも自分の好きで作られた世界観を重視していますね。
古性:みんなもそうですか? イチゴ(のデザートに当たる写真)は載せる?
横尾:僕に関しては、イチゴはそもそも撮らない。「伸びる」「伸びない」を意識していないから、そもそも伸びるものを撮ろうという思考がないかも。
コハラ:僕は結構載せますね。どんどん載せるってことはしないですけれど、見る人の目線は意識しています。
たとえば、僕自身は桜の写真ってそんなに好きではないんです。でも、春になったらみんな桜の写真が見たいだろうから「投稿するか〜」って思うんです。
コハラ:とはいっても、統一感や世界観を崩さない程度ですけれどね。突然ダークな色味を挟み込みたい衝動に駆られることもあるけれど、統一感ありきでかつみんなが見たいものを投稿するようにしています。
古性:コハラさんはいいね数と世界観のバランスを保っているんですね。ちなみに私は、躊躇なくイチゴを載せる人です。伸びるときに、伸びる時間帯を狙ってイチゴを載せちゃう。イチゴが好きな私が好き説もあるかも(笑)。
中野的「世界観を統一するレタッチ / アプリ」「表現の幅を広げる撮影小物」
古性:では、時間もちょうど良い頃なのでみんなからの質問に答えていきましょうか。
Q . 晴代さんのレタッチに使っているアプリと、ギャラリーのイメージ確認用に使っているアプリをそれぞれ教えてください!
中野:レタッチに関してはAdobe Lightroomを使っています。最近は、PCよりもスマホでレタッチすることのほうが多いですね。
PCのほうが細かいところまでこだわってレタッチできるので良いのですが、PCでレタッチした写真をスマホで見ると印象が違うことが多くて。
プレビュー用のアプリは「UNUM」を使っています。投稿前に写真を並べて全体のバランスを確認して調整しているんです。UNUMを使うまでは、投稿した後に「なんか違う!」とよくアーカイブしていました。
コハラ:僕、以前は「KeepSafe」というアプリを使っていて最近は「グリッド」を使っていたんですが「UNUM」便利そうですね。
古性:指で簡単に写真の並び替えできるからすごく便利ですよね。
Q . 晴代さんの青が好きです! 写真をレタッチするときに気をつけていることはなんですか?
中野:フィルムっぽさが好きなので、それに寄せたレタッチを心がけています。ポイントは、
・ハイライトを落として白い部分の色味を落ち着かせる
・トーンカーブでシャドウを持ち上げて深い黒を作らない
・デジタルのパキパキ感を減らすため彩度を落とす
・写真によって色別補正も行う
みたいな感じです。
古性:ルールは自分自身の中で決めているんですね。
中野:後から気がついたっていう感じですけれどね。「そういえばこうやっているな〜」と気がつくことが多いです。
Q . テーブルフォトを撮るときは、大きいテーブルや広い場所が必要なのでしょうか? 家だとなかなか撮影が難しいなと感じてしまいます。
中野:自宅のテーブルを購入するときから写真を撮るぞと決めていたので、たしかに大きめかつアンティークな質感のものを購入しました。
ただ、背景に関しては壁のリフォームができるわけではないので、背景紙やクッションフロアを購入して、Amazonや楽天などで売られているスタンドを立ててセットを組んでいます(ちなみに、背景スタンドは安すぎると造りが雑なことがあるのでレビューは要チェックです……!)
中野:背景紙を購入するときにお世話になっているのは「壁紙屋本舗」さん。本来はない壁を工夫して作って写真に撮っていますね。
こういうアイテムをたくさん購入しているので部屋はロールだらけになりますが……(笑)。1m×1mで十分活用できるので、ぜひ試してみてください!
横尾:僕も学生時代に暮らしていた家で商品撮影の練習をしていたんですが、3畳の部屋にセットを組んでいたので工夫次第でなんとでもなると思います。
背景紙とスタンドを駆使すると意外にコンパクトですし、真俯瞰の撮影ならなおのことですね。
Q . 使っている機材を教えてください!
中野:カメラはSONY α7Ⅱです。レンズはフィルムカメラのAriaに付けていたPlanarをそのまま使っています。
古性:コハラさんはどうですか?
コハラ:作品撮りの場合はFUJIFILM、仕事のときはNikonのZシリーズを使うことが多いですかね。
FUJIFILMの場合はAPS-Cか中判の二択なんですが、APS-Cだとちょっと心配だし中判は機動力の面で不安が残ることがあるんです。仕事での撮影はフルサイズが一番ちょうど良いと感じて使い分けていますね。
古性:涼くんは?
横尾:僕は変わらずFUJIFILMの中判を使っていて、その前はCanon 5Dでした。Canonのフルサイズは汎用性が高い機材なのでおすすめです。FUJIFILMは挙動がときどき不安定なので。
入門機としては僕だったらSONYが良いかなあ。あとはCanon、Nikonの上位機が使いやすいと思います。
古性:光山さん、最近よく見るカメラとかってありますか?
光山:古性さん周りはやはりFUJIFILMが多いですよ。
古性:古性さん周り……(笑)。私はFUJIFILMのX-T3を引き続き使っています。
Q . カメラの設定ってどうしていますか?
中野:私は絞り優先モードで撮っています。なぜなら、最初に撮った設定がそれだったから(笑)。本当は「マニュアルで撮っている」と言いたいところなんですが、なにせ機械に弱いんです……。
古性:その感覚、晴代さんと私は似ていると思います。私はほぼフルオートですもん。マニュアルでも良いんですけど、面倒くさがりで……。たまに「カメラの設定教えてください!」と聞いていただくこともあるのですが、そういうときは冷や汗が出ます(笑)。
横尾:僕も絞り優先です。マニュアルじゃなくても良いと思うんですけれどね〜。
古性:マニュアルだと設定を決めている間に撮りたい瞬間が去っていくんです。あと、ピントもオートじゃないと目が悪いので合ってくれない。
コハラ:僕は完全マニュアルなんですよね。
横尾:そうなんですか!
コハラ:わざと白飛びさせたい、みたいな表現がやりたいのでマニュアルじゃないとできなくて。ピントに関しては、2m以内に相手がいるときはマニュアルを使う場合もありますが、基本的にはオートフォーカスです。
Q . 晴代さんの日頃のお写真は屋内での撮影が多いと思うのですが、屋外での撮影時に意識しているのはどんなことですか?
中野:太陽の光が真上から当たらない時間帯に撮ること、ですかね。
季節にもよりますが、午前中なら10時、午後なら14〜15時のように太陽光が斜めに差す時間を狙って撮影しています。設定は変わらず絞り優先なので、何枚か撮って調整する感じですね。
横尾:屋外での撮影のときに光を遮断するようセットすることもあるんですか?
中野:全くしていないです。
横尾:すごい、太陽光の角度ですべて調整しているんですね。
古性:さて、いろいろとお話していきましたが、あっという間に時間が経ってしまった……! みんな壁紙とリメイクシートを購入して撮影しましょう(笑)。
では、みなさま、長々と聞いてくださりありがとうございました。良いおこもりライフを!
Graphic Record - mochi(.colony)