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EXILEは人生のヒーローだった

13歳の頃、生きることをやめようと思ったことがある。

理由はクラスと部活動の同級生からのいじめ。約半年間続いたそれは学校という社会が生活のすべてだったわたしにとって、生きる理由をなくすに値するものだった。

内容は、どこにでもありふれてるなんてことのない、中学生の遊びだった。

誰かに話しかけても無視。
“ しのと口きいた人はハブ ”と書かれた回し手紙。
鈴木という名字のおかげで安易に付けられた“ 鈴菌 ”のあだ名。
学校からの帰り道に呼び止められ永遠と浴びせられる罵詈雑言のシャワー。

記憶の限りでは、特になにか悪さをしたつもりはなかった。なんとなく流行していたいじめのターゲットにたまたまなった。不運にも、そういうことなのだと思う。

今となっては別に引きずってもいない。むしろああいう経験をしていると、人の痛みを知れるようになるのでむしろ良い経験だったなとすら思う。

でも、当時は13歳。中学1年生だ。小学校卒業まで暮らした名古屋を離れて、中学への入学と同時に東京へ引っ越したわたしにとって、東京の中学校は異国の地。そんな場所でいわゆるいじめを経験したら正直、心が滅入る。

だから、もう楽になりたい、と思っていた。

毎日、絶望しか生まれない人生を生きることに一体どんな意味があるのか、どうか頭の良いどなたかに教えてほしいと思っていた。


それから13年が経った。わたしは生きている。それも、とてもしあわせに。

生きることを続けた理由でありきっかけは、漫画のような、ファンタジーなものだった。一曲の歌に出会ったことだ。

その歌を『song for you』という。EXILEが2008年にリリースしたベストアルバム『EXILE BALLAD BEST』の収録曲だった。

当時、2008年の世間にはEXILE旋風が吹き荒れていた。「EXILE PERFECT YEAR」とコンセプトを打ち出し、一年間でベストアルバムを3枚リリース。28枚目のシングル『The Birthday 〜Ti Amo〜』は日本レコード大賞を受賞。

決してミーハーではない13歳の少女ですら、EXILEを知らないわけがないほどに彼らの人気はとてつもないものだった。

だから、というわけではないのだろうが、2008年12月のある日、わたしは地元のTSUTAYAでそのアルバム『EXILE BALLAD BEST』をなんの気なしに手に取った。そして、すぐさまレジへ。

理由は覚えていない。なんとなくEXILEというグループが気になったのかもしれないし、ストレス発散ついでに衝動買いの勢いで買い物欲が湧いたのかもしれない。

中学生のお小遣いでは新品は買えるはずがないので、購入したのは発売されて間もなく店頭に並んだ新古品だったが(これが生まれて初めて自分のお小遣いで購入したCDでもあった)。

たった一枚のCDを購入し、帰宅。

自宅の階段を軽快に上り、自室へ飛び込むやいなやCDを開封する。美しいグラデーションをまとったパッケージ、CDをコンポに入れると、キュイインンと読み込む音がして、聞き馴染んだ一曲目『(略)Ti Amo』が流れる。

二曲目、冬歌の定番ソング『Lovers Again』。三曲目、デビュー曲の『Your eyes only 〜曖昧なぼくの輪郭〜』。どれも心をほどくような歌声で聞き入った。

四曲目、『song for you』。知らない歌だった。

Cry? 泣いているの?
そのわけなら 聞かないけど…それでも

Try いつかかならず
笑いながら話せるような時が来る

なにもかもイヤになる そんな日もあるけれど
きっとすべてはその未来へと続く物語さ

キミは一人じゃないよ
ボクらがここにいるよ
いつも胸の中でずっと見つめ続けてるから
なにもできないけれど
この詩(うた)を届けよう
We sing this song for you tonight

引用:うたまっぷ

コンポの前で歌詞カードで文字を追いかけていたはずの瞳から、不意に涙が溢れてきた。巻き戻しボタンを押して、何度も何度も何度も同じ曲を流す。視界はずっとぼやけたまま。

歌を聞いて泣いたのなんて初めてだった。歌を聞いて自分のための曲だと感じたのなんて、初めてだった。

当時、わたしが生きる毎日は苦しいばかりで、なんの光も見えなくて、何を希望に生きたらいいのかわからなかった。

日々を楽しそうに生きる同級生の姿があまりに眩しくて直視できなくて、生きる理由を見失いながら、なんとかカレンダーの日付を一つずつ数えるだけの代わり映えのない毎日を過ごすだけ。

そんなときに飛び込んできたのがこの歌。『song for you』は、わたしに“ 生きて ”と確かなメッセージを届けてくれているように感じられた。

生きることをやめなかった理由には、これ以外にも学内で唯一わたしの味方をしてくれた親友、家でわたしを守り続けてくれた両親の存在がある。ただ、この歌がわたしの心を強くしてくれたのは、紛れもない事実だった。


さて、こんな話をどうして13年も寝かせて書くことにしたのかというと、つい最近、再びEXILEの曲に号泣したからだ。

2020年11月、EXILEを丸19年間支え続けてくれたATSUSHIさんが勇退した。

ATSUSHIさんが参加した最後のシングル『SUNSHINE』。
カップリングとして収録された『約束 ~promises~』は、ボーカルのTAKAHIROさんが「最後にATSUSHIさんバラードを一緒に歌いたい」と希望したことで実現したATSUSHIさん作詞のバラード曲だ。

光失って 塞ぎ込んだ日
そっと優しく差し出してくれた手
言葉足りなくて すれ違った日
ずっと心の中 叫んでいた

素直になれず迷い込んだ先に
絶望しかない そう思っていたけど
愛さえあれば また笑い合える
そんな夢を見た…

僕が描いた未来は
そんな綺麗なものじゃないけど
愛さえあれば また笑い合える
そんな夢を見た…

僕が描いた未来は
そんな綺麗なものじゃないけど
これが最高だった
心の奥深く
そう思える
確かに…

引用:Lyrical Nonsense

ATSUSHIさんが作詞する、EXILEとして最後の楽曲。おそらくTAKAHIROさんやEXILEに対するメッセージを強く強く込めたもののように感じられる。

けれど、わたしにとっては、どこか「わたしがEXILEに伝えたいメッセージ」を言葉にしてもらったように感じられた。

なぜなら、光を失って塞ぎ込んだ日に手をそっと優しく差し出してくれたのはEXILEだったから。

絶望しかないと思って生きてきた日々が笑顔で溢れるものに変わったのはEXILEが生きることに立ち向かう勇気をくれたから。


13歳の頃のわたしが目をキラキラ輝かせて憧れてくれるような華やかな未来は描けていないかもしれない。

でも、わたしはあのとき生き続けることを確かに選択したから、誰よりも最高の人生を生きている。今、とってもしあわせなんだよ。

EXILEは、わたしの人生を最高にしてくれるヒーローだった。

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