物語「星のシナリオ」 -43-
〜星の世界へ還る日〜
「おばあちゃん、入るよ」
「にゃ〜」
いつものように、おばあちゃんの家の玄関に入ると、シロが出迎えてくれた。
だけど今日は少しだけいつもと様子が違って、ボクに何か合図をするように瞬きをすると、リビングの方へ走り去った。
言葉でないメッセージを受けとったかのようで、ボクも足早にシロに続いた。
「にゃ〜」
リビングに入って再びボクを見てないたシロは、ゆっくりソファに近づく。
「おばあ…ちゃん?」
ソファに横になるおばあちゃん。リビング窓から入る風のせいでテーブルの本がパラパラと音をたてた。
「ああ奏詩かい。寝てしまっていたようだね」
静かに身体を起こしたおばあちゃんの顔から、涙がポタポタと落ちた。
シロが膝の上に乗って、その顔をじっと見つめていた。
「大丈夫?おばあちゃん」
「風が…いくらか涼しくなってきたねえ」
風はカーテンを大きくなびかせ、まるでその言葉に反応しているかのようだった。
この空気…。どこか遠い記憶しまわれた、今と同じに流れていた風。
ああそうだ。おじいちゃんのお葬式の日。あの日も同じ九月だったな。
「もしかしておばあちゃん、おじいちゃんの夢でもみてたの?」
静かにボクの目を見て微笑んだおばあちゃんの頬をまた一粒の涙が流れていった。
あの日から今年で二年。
今でもふと、この空間におじいちゃんが現れそうな気がする時がある。その日までボクにとって二人は、普通のおじいちゃんおばあちゃんだった。でも今は…。
そうだ、自分のことだけで精一杯だったけれど、大きなきっかけをくれた「星のシナリオ」は、おばあちゃん一人では書き上げることが難しかった…おじいちゃんなしでは。いつかそう言ってたっけ。
「ああ、そうだったね。プリンを買ってきてもらったんだったね」
「うん」
時々おばあちゃんがおつかいを頼んでくるプリン。あるケーキ屋さんのそれを、自分では買いに行こうとしない。母さんに頼んで、それをボクがおつかいして届ける。
ああそういえばこのおつかいも…この二年…。
「今日は3個買ってきてって。誰かお客さんでも来るの?」
また何も言わずにボクの目を見て微笑んだおばあちゃんの顔は、さっきの涙の顔とは対照的だった。まるで少女のように…、いや少年のいたずらっ子のように、というのが似合うのか。なにかおもしろそうなことが始まる予感をボクに抱かせる表情だった。
「ああ来たね。奏詩、お客さんを出迎えてきて」
玄関のチャイムがなると同時にシロが走り出した。おばあちゃんに促されてボクも続いた。
つづく
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