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物語「星のシナリオ」 -3-

「やあ。連れてきたよ」

猫はそう言うと、目の前に現れたもう一匹の猫にボクを紹介した。

「ここから先はこの猫が案内するから」

「え?じゃあ、きみは…」

「この先はぼくの担当じゃないからね」

案内猫はそう言うと、夜空へ消えていった。

「じゃあ行こうか」

何だか。いつものあの猫より穏やかで優しそうなその猫は、ボクを促すようにして白い世界を歩き始めた。

「月の話は聞いた?」

「あ、うん。消えゆく月の日に生まれたって」

「そう。それから、きみが生まれた日の消えゆく月は獅子座の領域で輝いていたよ」

「獅子座…領域?」

「そう。この星空には…きみには見えないかもしれないけど、各星座の領域があって、月も他の星たちもそれぞれのペースでその領域を進んでいるんだ。それできみが生まれた日は…」

「お月さまが獅子座の領域にいたってことか!」

「そう」

「それって。ってことはさ、みんなそれぞれ生まれた時の月の星座は違うってことだね」

「そうなんだ。まあ、そのことを覚えてる人の方が少ないかもしれないけどね」

「覚えてる?ボクは初めて聞いたよ」

「初めて…本当は、きみ自身が選んだんだけどね。みんな、自分が生まれる日を自分で選んでるんだよ」

「そうなの⁈」

「そう。それは、この宇宙の叡智なしにはできないことなんだけど、みんなそれぞれ人生のシナリオを自分で決めて、それに見合う星空の日に地上に降り立つんだ。ほら、あれ」

猫のしっぽが指した先に、懐かしさがこみ上げてくるような、そんな光景が広がっていた。何だか…胸の奥が熱くなる。そんな感覚がして、気がついたらボクは涙を流していた。

「うん。みんな、降り立つ前の自分を思い出すと、その熱いものを感じるらしいね。じゃあ、行こうか」

猫の後についてボクはあの懐かしい光景に溶けていった。

そこは、さらにボクを安心感で包み込み、
「この感覚を思い出したくてここにいる」
そんな言葉がボクの中から湧き上がってきた。

その懐かしさ感じる場所にはたくさんの人がいて、みんな何だかとても楽しそうに話をしていたり、下の方を眺めたりしていた。

「みんな何をしているの?」

「星のシナリオを描いているんだ。これからそれぞれ地上に降りて、それぞれの人生を体験していく。そのために、どんな家庭環境で、どんな自分という人物設定で、どんな名前で、どんな母親のもとに生まれ、どんな体験がしたいのか。全て自分で描き決めていくんだ」

「ウソだろ⁈名前も自分で決めたの?」

「そうだよ。それを、地上にいる縁のある魂が先にキャッチしてくれてる。まあ、それも無意識のうちにだけどね」

「ボクの名前は、おばあちゃんがつけてくれたって…」

「かなた…。名前も人生のシナリオを思い出す一つのカギになるんだ。その名前の音と漢字もね。きみの場合は、奏詩。遥かかなたの世界から響く詩を奏でる者」

「詩を奏でる者…かなた」

「名前ともう一つ。月星座つまり生まれた日のお月さまも大切なカギになってる」

「獅子座の…消えゆく月?」

「そう、きみの場合はね。地上に降り立つとみんな、星のシナリオを描いたことを忘れるようになってるんだけど、地上であんまりにも自分を見失った時、月星座はこの星の世界へアクセスするカギになるんだ」

猫の話を聞きながら進んでいくと、人々の中にとりわけ透き通るような女性が何人もいることに気がついた。


つづく


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