没入型スポーツエンタメ施設Cosmが凄い
こんにちは、村田です。
初めて参加した個人フットサルで、ゴールを決めたらみんなでハイタッチしないとノーカウントと言われたので愚直に実践してたのですが、実際試合が始まってみるとハイタッチしてるのは私だけでした。
めげずに最近調べてみて面白かったCosmという施設について書いていきたいと思います。
(画像は全く関係ない、クロアチアのHNKリエカのユースの試合を視察した時のものです。海辺を見渡せる美しいスタジアムでした。)
背景
今やストリーミングを通じて世界中どこにいても主要なスポーツリーグにアクセスすることが可能になり、子供世代は地元の球団やサッカーチームよりもドジャースやブライトンを応援していたりします。
こちらはノッティングガム・フォレストを応援する日本人サポーターのキャプチャです。スポーツファン的には「わかる」映像ですね。みんなこうなります。例外はありませんし、異論は認めません。
どういったきっかけでフォレストを10年前から応援することになったのかは置いといて、今やトップクラブではなくてもSNSや配信を通じてここまで人を感動させるだけの感情的な繋がりを世界中で持てる時代になっています。
スポーツコンテンツはグローバル化していますが、ライブ体験のアップデートはストリーミングで長年止まっています。しかし、Cosmというドーム型施設がここを進化させる可能性を持っています。
以下映像はEFLリーグワン所属、ウェールズのWrexhamの試合ですが、ゴール裏じゃないんです。こちらはCosmで放映されている8Kの映像です。
そしてこちらはCosmのDomeで観るNFLの試合です。
海外のクラブをサポートする層が増えると、友達とスタジアムに行って一緒に盛り上がる体験は過去のものとなっていきます。
そんな中、まさにスタジアムとパブの中間地点、没入型スポーツ観戦ドームとしてローンチされたのがCosmです。
Cosmはライブスポーツのみならず、コンサートやシルク・ドゥ・ソレイユのコンテンツを提供しています。またNBAやESPNと正式にパートナーシップを結んでいます。
Las VegasのSphereなど同じコンセプトのドームがたくさん出てきているのですが、今回はスポーツ観戦に特化したCosmを調べてみました。
調べていくと、プラネタリウムやコンピューターグラフィックなどの技術が水平利用されており、M&Aによる価値創造がダイナミックで非常に面白かったので、そちらを中心に書いていければと思います。
施設詳細
施設は3つ別々のフロアで構成されています。メインで話題になっているThe Domeは意外と300人程度のキャパで、他はスポーツバーやテラスになっています。
収容人数:
LA:最大1700人 (Domeに289人)
Dallas:最大2000人 (Domeに360人)
直径:
LA:26m
Dallas:22m
The Dome:ドーム型スクリーンと三階建て観客席
ここがよくSNSでFeatureされている施設ですね。テーブルで友達とワイワイできる席構成になっていて、飲んだり食べたりできます。最高ですね。
The Hall:既存のスポーツバースタイルで2階席あり(バー、ソファー、ブース、テーブル席など)
超大画面のスポーツバーという感じですが、これでもパブより良い体験ですね。レビューみるとスクリーンの解像度も満足度高いようです。
The Deck:屋上テラススペース
TVスクリーン、バー、DJブース、ソファーやテーブル席などがあり、スポーツ関係ないイベントなども開催されている模様。
スポーツ放映は二次的なもので、イベントスペースとして活用するようです。屋上のスペースからは夜景が見れて良い感じですね。
なりたち
枯れた技術の水平思考とは任天堂の伝説的プロデューサー、横井軍平さんの哲学ですが、Cosmの前身となったSpitzという会社は斜陽産業となったプラネタリウムの運営企業でした。コズミックのCosmですね。
このSpitzをEvans & Sutherland社が買収し次世代ドーム体験をエンタメ施設に提供する会社に変貌を遂げています。
そしてSpitzの親会社をMirasol Capitalが買収してCosmが生まれました。
まとめるとSpitzの持つドームシアター設計・エンジニアリング技術とE&Sのコンピューターグラフィック・空間コンピューティングがMirasol Capitalの発想と合わさってできた産物がCosmです。
Spitz:ドーム設計・ドームエンジニアリング・ドーム建築技術
+E&S:イメージング・空間コンピューティング
=Cosm(没入型エンターテイメントドーム)
アメリカらしい資本を利用したクリエイティブな金融と技術によって事業が作られる素晴らしい例ですね。
Spitz Incの略歴
1947年にアルマンド・スピッツ氏が大学発のプロジェクトとして創立
世界最大規模のプラネタリウムやプロジェクション機材の開発会社に
プラネタリウムドームなどの設計、建設をミュージアムや教育機関、遊園地向けに提供
2006年にEvans&Sutherlandに買収される
Cosmの実質的な前身であるSpitzs社は元々大学発のプロジェクトでプラネタリウムやプロジェクション技術を開発していました。
2006年にコンピューターグラフィック・シミュレーターを開発していたEvans & Sutherland社が買収し子会社化。
Evans & Sutherland社の略歴とSpitzの買収
1968に軍や航空会社向けにフライトシミュレーターを提供する会社として設立。
航空宇宙企業や製薬会社向けにシミュレーション、モデリングソフトウェアの提供
2006年2月にシミュレーターやモデリング開発の部署を200名の従業員やソルトレークシティー・オーランドの研究開発、シミュレーション設備とともにRockwell Collinsに$71.5milで売却
2006年5月に上記のSpitz Incを$3.4milで買収
これを機にビジネスモデルがソフトウェア・エンジニアリング開発企業からプラネタリウム、プロジェクション、デジタル関連に完全乗り換え
現在までに800を超えるプラネタリウムドームなどの建設を50か国以上で提供
2020年にMirasol Capitalによって$14.5milで買収され上場廃止
ちなみにE&Sはシリコングラフィックスやネットスケープを創業したジム・クラーク氏やAdobeの創業者であるジョン・ウォーノック氏を輩出しています。
コンピューターグラフィックス業界の寵児であり上場企業として一世を風靡しましたが、その後Mirasol Capitalの買収を機に上場廃止しています。
Mirasol CapitalによるE&S社の買収とCosmの成立
現在Cosmの実質的なオーナーはMirasol Capitalです。以下買収後の動きです。
2020年3月:Cosm設立
2022年秋:Cosm LAの建設スタート
2023年6月:Cosm Dallasの建設スタート
2024年6月:Cosm LAがハリウッドパークにオープン (2年弱で完成)
2024年7月:Cosmは評価額約$1bnで$250milを資金調達
$14.5mで買収後4年で$1bn!
これはCosm LAとDallas建設後に調達しているのでそれ見合いの資金ではなく、今後新しい施設の建設やカメラ・プロジェクション技術などのR&D費用です。
ちなみにE&SのビジネスはCosmになっても継続しています。Cosmのドームエンジニアリング・コンピューターグラフィック技術の顧客にはIMAXやユニバ、ディズニーなどのテーマパーク、映画館、教育機関でプラネタリウム建設やプロジェクション、撮影、上映技術の提供などが含まれています。
簡単に言うと、ディズニーシーのSoarinを作るような技術を持っています。(ディズニーもE&Sの顧客です)
E&Sはライブエンタテイメントの総合開発・運営カンパニーとして運営を続けています。
そして2024年8月にCosm Dallasがオープン(1年弱で完成)
正確な建設費は公表されていないが推定想定$42milほど
今後の予定
2026年にアタランタでもう1施設開業予定です。その後マイアミ、ニューヨーク、ナッシュビル、ベガスを検討中で、2030年までに世界全土で50施設まで拡大する予定とのことです。
アグレッシブな拡大路線、日本にも来るのでしょうか?それとも日本企業が技術力を活かして先に作るのでしょうか?
ビジネスモデル
LAとDallasのCosm施設の運営
提供コンテンツ
ライブスポーツイベント:NBA, UFC, Tenniss, EPL, NHL, NFL, ESPN, TNT sports, Fox Sports, Cirque du Soleilなどとパートナーシップ提携
コンサート・ミュージカル:ミュージカルや施設から遠くで行われているコンサートなどをライブで上映
アートや教育関連:プラネタリウムや自然についてのムービーやCosm Studios Creator Programをとおしてフィルムメーカーやアーティストとパートナーを組み彼らのコンテンツを上映
おおよそのチケット収益
算定方法:現在のチケットの売り上げ状態や価格推移を記載し、それをベースに想定売り上げ額を計算しています。大体満席なので満席計算しています。
スポーツイベントのDomeはほぼSold outですが、人気のないチームやエンタメは少し売れ残ってたりします。
こちらのイベントページを見ると毎日1-3個のイベントがあるので、控えめに計算しても30億円/月の売上がありますね!
料金詳細
収益はDomeとHallに分かれているので、それぞれの料金を下記します。
席ごとの料金:イベントまでの日数、席の種類(ブース、テーブル、カウンター、など)、席の位置(真ん中、横、後方)、予約率、プレイするチームの人気度などによって価格が異なる
The Dome(約300人)
Premier league (price change: last minute → later date
Level 1: Booth: $47~72, table: $55~61, counter: $36~39
Level 2: Booth: $80~110, sofa: $88~110, table: $72~94
Level 3: Sofa:$72~110, coutner: $39~44
NFL
Level 1: Booth: $50~66, table: $55~72, counter: $50
Level 2: Booth: $77~110, sofa: $88~121, table: $72~94
Level 3: Sofa:$72~110, coutner: $39~55
NBA
Level 1: $44~55
Level 2: $72~88
Level 3: Sofa:$72~88, coutner: $50
The Hall & The Deck(約1400人)
The Hallに150ft (45m) x 15ft (4.5)の横長スクリーン
チケットは二種類
二階席またはTheDeck+TheDomeの立見席にアクセス可能:$22 (特別イベントは$39)
一階席+TheDomeの一階立ち見のみ:$11 (特別イベントは$22)
興味のある方はもっと詳細なデータもありますので、お気軽にお問い合わせください。
おわりに
今回は没入型スポーツエンタメ施設のCosmを取り上げてみました。
個人的にはプラネタリウムやコンピューターグラフィックなど、やや枯れた技術を資本を媒介してダイナミックに転用したところが非常に面白かったです。
横井軍平さんのようなプロデューサーの思考をアメリカの金融投資家が持っているという点は面白いですね。
弊社はファンタジースポーツなどソフトウェア領域でスポーツライブ体験をもっと楽しくするサービスを開発していますが、ハードウェアというアプローチについて思考するきっかけになりました。
何より自分が行きたいですね。スポーツは唯一結末の決まっていないエンターテイメントです。そんなスポーツの価値をもっと上げていきたいですね。
ライブ体験が大好きなので、本当はスタジアムに毎週通いたいのですが、Cosmのような施設があることでファンとクラブの繋がりがもっと素敵なものになれば良いと思います。