Dokyo - 世界一のNFTコレクション制作過程
こんにちは。今回は昨年2023年9月にローンチしたDokyoというプロジェクトについて書いていきたいと思います。
弊社が制作を担当したDokyoは全チェーンの24h取引高トップを何回も達成しているAvalanche上で開発されたNFTコレクションです。2024年1月の取引高は45億円を記録しています。
弊社が実は世界有数のプロジェクトの制作に関わっているよというアピールも兼ねて、今回は制作の裏側を中心に書いていきたいと思います。
Dokyoについて
こちらのツイートに詳細あるのですが、要約版を載せていきます。
Dokyoは日本語で言う「度胸」と「同郷」という二つの意味があります。 誰もが勇気を持って自分の殻を破り、若い頃抱いていた夢ややりたいこと、心の故郷を取り戻すというビジョンの元立ち上げられました。
DokyoのPFPは皆マスクを付けています。 これは光と影のコンセプトを象徴していて、個々の心の状態を表しています。顔を覆ったり隠すことは弱さの象徴ではなく、より強くなる為の個性の発露を表現しています。
あらすじ
2023年5月、Murasakiはバルセロナで行われたAvalanche Summitにスポンサーしブース出展しました。
当時はクリプト市場の市況は非常に悪く、会社として最初のサービスを出したばかり、かつ資金調達も上手くいっていない中で営業目的で満を持してスポンサーした記憶があります。
残り数ヶ月分の残高しかなく、スポンサー費用もかかる中、やれる事は全てやろうという気持ちで参加していました。
幸いバルセロナは晴れていて、Summitが行われた場所は美しく、思う存分色々な方と話すことができました。
一方で花粉もかなり飛んでいて鼻水で鼻が完全にブロックされてしまい、点鼻薬の使いすぎで鼻に腫瘍ができ手術しました。山あり谷あり。
何故かベリロンのAkimさんも一緒に来ました。Akimさんは韓国も一緒だったし、オランダで1ヶ月ほど一緒に住んでいました。毎回気づいたらいますね。
そこで今回Dokyo参画のきっかけになるBrandoとKotaroに会います。日本の文化が好きで、日本コンセプトのNFTプロジェクトを作っているという話をしていました。
聞けば2023年3月に2人は既に日本に行って、最初のコンセプトムービーを撮影してきたそうです。その時2人が見せてくれた動画がこちらです。
日本コンセプトのNFTコレクションは世の中にたくさんありますし、中には素晴らしいものもありますが、容赦ない意見を言うと99%が"西欧的に再解釈され、限られた予算によって品質が犠牲になっている"ものでした。
端的に言うと美味しくないが高額なカリフォルニアロールをSushiとして販売されている気分です。それをOh, I love Japanese food! Bullish! とか言いながらみんな買ってて、もはやディストピアです。この世に真実なんて何一つない、世界なんて消えて無くなれば良いと思ってました。
No Ikigai in this life!!!
しかしこの動画を見せられた時、Dokyoはそういったものと一線を画す可能性があると感じました。
この後数回Brandoとミーティングし、日本コンセプトというより、本物の日本人クリエイターを起用しようという話になりました。弊社は既に自社でレイヤー別にPFPを作る技術を確立していたので、日本でDokyoクリエイターチームを組成する提案をしました。
偽日本コンセプトNFTのせいで世界なんて消えて無くなれば良いと思ってましたが、Brandoと会話する中で世界をより良くする努力をしようと思いました。
「日本の寿司職人が本気のカリフォルニアロール作って世界展開してみた」という感じのチャレンジにしようと決めました。
その後BrandoがAva LabsのDomと連携し、彼が社内調整をしてAva Labsから支援を受けて制作することになりました。Domありがとう!
登場人物
*全体を見るともっとたくさんいるのですが、コレクション制作に関わったメンバーに限定します
Dokyoコアチーム
Brando - DokyoのFounder・元美容師(カナダ出身・コスタリカ在住)
Kotaro - DokyoのCreative Director(香港出身・日本在住)
Bor & Izak - Dokyoのオペレーションを担当(東欧にチームが存在)
Shin - MurasakiのCo-Founder・ビジネス担当(オランダ在住)
Murasaki制作・アートチーム
佐々木 - MurasakiのCo-Founder・制作ディレクション(日本在住)
村澤 - MurasakiのArt Director(日本在住)
東山 - MurasakiのArt Director(日本在住)
Takuma - MurasakiのBusiness DIrector兼通訳・ShinのYork大学同期(日本在住)
Searchfield Inc - Murasakiと提携しているクリエイティブスタジオ (日本)
制作
最初に決めること
最初に決めるのは何を作りたいかです。これはビジョンを持ったチームが決定します。コレクションにどんなナラティブがあるのか、世界観の部分の作り込みから入ります。
Dokyoはコレクション制作が本格化する前からKotaroがブランドブックを作り込んでいました。
こちらは貴重なプロジェクト初期のブランドブックで、コレクションの方向性、グッズ展開、タイポグラフィなど46ページに渡り詳細が載っています。
コレクションを作り始める前に、プロジェクトがどういったナラティブを持っているのか、どういったブランドにしていきたいかかなり明確に言語化されていた状態でした。
その次にコレクションの詳細を決めていきます。こちらがKotaro作のベースとなる作画。
次に一般的には以下のような項目を決めていきます:
・素体:性別・肌の色・顔パーツのバリュエーション
・目鼻口など:形・色
・髪型(ヘッドウェア):髪型・髪色・ヘッドギアのアイテム
・服:服の種類・服の色・服のバリュエーション
・アイテム:手に何か持つか etc…
・背景:色・模様
・特殊効果:オーラや背景に浮かんでいる物体など
Dokyoはマスクが重要なコンセプトなので、マスクのバリュエーションを重点的に決めていきました。
これをまとめて素体・パーツ表を作ります。どの素体でどんなパーツが何%欲しいか。レアパーツなどの割合をどう作っていくか、Discord内コミュニティとどう繋げていくかなどの設計と合わせて作っていきます。
かなり緻密な設計が必要で、マーケティング事由で毎日この割合は変わったりするので制作チームは対応していました。
ここまでが実際に制作を始める前に決めることです。結構大変ですよね。ここまでのやり取りで1000000000000000000回くらいやり取りがあります。
しかしここまで決まっていれば後は粛々と制作するのみ、とはいきません。
制作の流れ
作るものが決まると、パーツ毎に発注書を作ります。この発注書は全てのパーツに対して作られます。
以下はDokyoのかえるのお面です。
このかえるのお面を作るまでの過程は以下の通りです。ラフ時点でのフィードバックを元にかなり方向性を変えています。よくあります。
こちらが詳細な流れです。
以下の流れを合計250以上の全パーツに対して行います。気の遠くなるような作業ですが、圧倒的インプリ力で2ヶ月弱で攻略しました。
1 ビジョンチームと制作チームが協議の上各パーツの要件を決める
2 制作チームが発注書を作る
3 発注書をアートチームにシェアしてアート制作する
4 アートチームからアートのラフが出る
5 ドラフトをビジョンチームとシェアしすり合わせ
6 フィードバックを再度アートチームに伝える+チューニング
7 ビジョンチームOKで納品
繰り返しですが、これを250以上の全パーツ*色差分やります。これを2ヶ月弱でやり遂げたチームメンバーを誇りに思います。
安価で制作している会社は大体上記4か5の段階で納品してきます。あと発注書とかちゃんと作っていないです。
全工程をやり切るかやり切らないかで品質に大きな開きが出ます。真剣にアートに取り組むプロジェクトであればこの工程は必須になってきます。
本来は最後にパーツ合わせでPFPを開発していく作業があるのですが、DokyoにおいてはBorのチームが自前でやったことと、この機微について1万字くらい書けそうなので一旦スキップします。
制作のコツ - 制作で陥りがちな罠とその対処法 -
Dokyoでは良いクリエイティブを作れたと思います。では、良いクリエイティブを作るにはどういった進行をすれば良いのか、という点はあまり触れられないので、その辺りを書いていきたいと思います。
結論から言うと、クリエイターの質が良く、魅力的なビジョンがあるのに制作が上手くいかない理由の90%はコミュニケーションに起因します。
1 共通認識の醸成
通常ビジネス・マーケチームと制作・アートチームでは共通言語が存在しないので、そこを上手く制作ディレクター(佐々木)とアートディレクター(村澤・東山)が翻訳してあげる必要があります。
例えば制作チームから提出したラフに対して、ビジョンチームから数回「マスクの目を輝かせて欲しい」という要望がありました。
個別のマスクを光らせることは可能なのですが、一旦プロジェクト本体の目指す世界観まで切り込んで「マスクの目を光らせるというより、マスク自体が意思を持った生命体として再定義した方が良いのでは」という共通認識を作ります。
そこで受けたフィードバックをベースに、アートチームに対して伝わる言葉でフィードバックします。
ここで「マスクの目を輝かせて欲しい」という要望は「着彩時の発光感を全体的に上げて、特に目の輝度をより上げて欲しい」というフィードバックになります。
そしてこんな仕上がりになります。
これは言語の壁というより、マーケティング・ビジネスと制作・開発の壁なので、慣れていないとプロジェクトが大爆発します。よくあります。
大爆発をさせたことも、見たこともあります。
ゲームでもNFTでも、悪気がなさそうだけどラグってるプロジェクトは大抵こういう感じです。資金が足りないというよりコミュニケーションロスで無駄になっていて足りなくなってしまうケースです。
このやり取りを地道に繰り返していった先、真にクリーンなコレクションが完成します。
2 制作文化のすり合わせ
これはスタートしてから気づいたのですが、西洋と日本はかなり制作文化が違います。
日本のクリエイティブ文化は発注側がかなり丁寧に要件を決めます。発注側がクリエティブのことを理解し、「どう作って欲しいか」ということを詳細に落とし込みます。その為発注側がかなり綿密な発注書を用意します。
一方で西洋のもの作りはビジョンだけが存在し、制作側がその中身を言語化し要件に落とし込んでいくというプロセスが一般化しています。Dokyoに限らず他の案件でもこういった流れになっていることが多いです。
極端な話ですが、北米のプロジェクトから「アニメを作るにはいくらかかるのか」という見積もり依頼が来たりします。
1エピソード何分で、合計何エピソードあって、何シーズンやるつもりで、アクションなのかノベル系なのかなどの詳細はこちらからヒアリングしない限り出てきません。
一方で、要件定義のスコープも含めて制作単価は北米の方が高かったりします。
海外からの案件に関しては言語よりも制作文化がすり合わないことが原因でディールブレイクすることが多いように感じます。
北米の発注側は専門家じゃないから資金を出したら全て考えて欲しいと思っていて、日本の制作側はもっと詳細に作りたいもののすり合わせができないと制作に入れないというジレンマ。
どちらが正しいということではなく、良いものを作るために双方カルチャーを合わせる必要があります。
定例会議や先方にクリエイティブ担当を置いてもらいフィードバックをもらえるようにする、こちらはビジョンを言語化する為にディレクターが確認しながら進めるなど。
お互いを理解したつもりになって任されていた制作物をいざ提出したら先方が想定していたものと全く違った、ということはよくあり、制作文化が違うとこういった事態に陥りやすいです。
3 話す
言語の壁もありますが一番大きいのはビジョンと製作物のすり合わせです。週に何回もミーティングの機会を設けて認識のすり合わせを行います。
ただロケーションが遠すぎてミーティングの時差を合わせるのが大変なので、大体ヨーロッパが犠牲になります。辛い。
プロジェクトが大爆発するきっかけは各チーム間の関係が冷え切っていることがほとんどです。こういう時はお互い腹を割って話をしたくないので最低限の業務連絡に終始したりするのですが、取引コストは上がる一方で「誰の目にもXXした方が良いのは明らかなのに誰も言い出さない」という事態に陥ります。
幸いDokyoに関してはビジョンチームも制作・アートチームも「わからないことは徹底的に話し合いたい」というスタンスで進みました。
各人が完全にハッピーな現場はないと思っていて、問題も山ほど起きるし誰もが絶対に言いたいことはあるものです。お互いの不足を攻めるより、原点に戻って「こう言うビジョンを達成したいから、今ある問題を解決するにはどうしたら良いか」というコミュニケーションを取れると取引コストを乗り切れます。
東京で再会 - mint
そんなDokyoのチームと夏の東京で再開することができました。
その後それぞれの場所に帰って、mintまでの準備に取り掛かりました。Murasakiができるのはここまで、あとはコアチームの圧倒的コミットメントによる販売までの期間良いナラティブを作ることができました。
9月にDokyoはmintを迎え、無事売り切れ、現在に至ります。
とても良いチームに参画できて誇りに思いますし、世界一のプロジェクトにする為のお手伝いができて素直に嬉しいです。
未だDokyoはスタートしたばかり。今後の展開が楽しみです。
クリエイティブをKotaroがまとめたスレッドを貼っておきます。
それでは、また!