森の未来会議vol.18 不確かな広葉樹の森と、人の視点の複数性
森林ってどうやって活用できるの?
脱炭素やSDGsが注目されるなか、サステナブルな素材として、木材が「再び」熱い注目を集めています。技術が進み、木造の家や木炭が当たり前だった時代は終わり、木材の利用方法も大きく変化しました。
今だからわかる木材の新しい可能性ってどんなものがあるでしょうか。
先日、森未来が主催したイベント「森の未来会議vol.18 不確かな広葉樹の森と、人の視点の複数性」では、森林・林業・木材の活用に興味のある方が一堂に会し、想像を超えるようなアイデアで盛り上がりました。このイベントの特徴は、専門家だけでなく、クリエイターやデザイナー、そして持続可能な暮らしに興味を持つ一般の方々も気軽に参加できるところです。
今回のゲストは、ユニークな名前でも話題の「株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)」の代表取締役・松本剛さん。
飛騨の豊かな広葉樹林を活用した取り組みは、会場の誰もが感心や驚きの連続でした!
1. 飛騨の広葉樹林活用と家具づくり
木には「針葉樹」と「広葉樹」の2種類があることは、多くの人が知っているかもしれません。針葉樹は軽くてまっすぐな形状が多く、建築材として古くから重宝されてきました。
しかし、飛騨地域に多い広葉樹はどうでしょう?
種類が多く安定供給ができず、形が複雑だったり加工が難しかったりで、これまでは主にチップとして多く利用されてきました。そんな広葉樹を、ヒダクマはまったく新しい視点で見つめ直しました。
例えば、森の中で木の形状をその場で見て、その個性を活かして家具をデザインするというアイデア。広葉樹に多くみられる二股や三股の枝は、通常の林業では「使いにくい」と思われがちですが、それを逆手に取ってテーブルの脚にするなど、驚くような工夫がされています!
森の木がそのまま家具や内装インテリアになるなんて、ちょっとワクワクしませんか?
森未来には日々木材を利用したいという設計士やデザイナーの方からお問い合わせをいただきます。単に木を使うのではなく、そこからどんな空間やコミュニケーションを生み出すのか考えさせられます。
特に印象的だったのが、建築家とのコラボレーションの話です!
飛騨の森には、多くの建築家やクリエイターたちが訪れ、実際に森の中でその息吹を感じながら、新しい価値を創造しています。素材選びの段階から設計、さらに地域との調和まで、多角的な視点でアプローチするプロセスはまさに唯一無二。
粉末状にした木材からできたクレヨン
こうして生まれる家具や製品は、単なるものにとどまらず、「森」と深く結びついた存在に仕上がります。自然と共生し、その魅力を余すことなく活かした作品は、見る人の心をぐっと惹きつける美しさと温かみがあります。
ヒダクマの魅力は、これだけにとどまりません。
テクノロジーと木材を融合させることで、これまで注目されてこなかった曲がった木材を活用し、有機的なデザインを生み出しています。
実際、ヒダクマの曲がり木センターでは、そのプロセスを詳しく知ることができます。かつて「使えない」と思われていた木が、テクノロジーによって魅力的な製品へと生まれ変わる瞬間には、まさに新しい可能性が広がっていくのを感じずにはいられませんでした。
2. 森づくりからまちづくりに
飛騨の森では、「木を切って終わり」ではなく、きちんと再生まで見据えた取り組みが進んでいます。実際、一部のエリアを伐採した後、種子や萌芽による更新を促して再生を図るというサイクルを作り、その過程もwebサイトで公開するなど、自然と人がつながりながら、次世代の森林を育てています。
さらに、ヒダクマの社名に込められた「クマ」との関わりには驚かされました。
クマにとってはどんぐりのなる天然の広葉樹の森がいい森だというイメージがありますが、ヒダクマが保有する社有林でのフィールドワークを通じて、クマは意外と人工林にも適応して生きていることがわかったそうです。人工林の適度に光が入る環境に生える植物の芽や実を食べていたり、人が植えたスギの皮を剥いで、木が枯れたところにハチやアリなどが巣をつくり、それがクマの夏場の貴重な食糧になっていたりすることがわかりました。人間が森に関わることは、森の多様性を高めることに繋がっています。「森はただ木を植えるだけじゃない」という考えてみれば当たり前の考え方に改めて気付かされました。
ヒダクマの活動は森づくりにとどまらず、地域コミュニティとの繋がりも大切にしています。これは全国規模で事業に取り組む森未来と異なり、飛騨の森に特化した取り組みだからこその魅力です。
たとえば、ヒダクマが運営するカフェで行っている「蔵出し広葉樹」では、1グラム1円で広葉樹の端材や木の枝、コブ、樹皮などを購入できます。
購入したお客さんの話を通じて、木材は「使う」だけでなく、「見る」ことにも価値があるという新しい視点が広がったとお話されていました。
森林と人々が密接に関わり合い、共に成長していくまちづくりのヒントが詰まっていると感じました。
後記
今回の森の未来会議では、飛騨の豊かな森林資源を活用した多様な取り組みが紹介され、特に、飛騨の木材を効果的に活用するためのアイデアや、持続可能な林業の実現に向けた具体的な方法論が多く共有されました。
私が特に印象深く感じたのはヒダクマが外国産の木材により発展した飛騨の家具を否定することなく、むしろ産業発展の一環として高く評価していたことです。また、チップとしての利用についても、単なる「悪いもの」として捉えず、その活用のあり方について前向きな姿勢を見せていました。
これらのアプローチから学んだのは、既存の技術や製品を否定するのではなく、良い点と課題を見極め、その中で自分の持てる武器をどう活かしていくかという視点の重要性です。私もこの考え方を通じて、森林の持続可能な活用方法を見つけることの重要性を再認識しました。