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ストレスやメンタル不調の兆しを早期察知し、社員や家族を守る:「見えまストレス!」・板垣一志

この記事は、GOB Incubation Partnersが運営する「GOBメディア」でも掲載しています。

メンタルヘルスが社会課題化する現在、ストレスや体調不良の兆しを「心拍変動解析技術」によって早期に発見するアプリ開発を目指しているのが、2021年2月に創業したばかりの株式会社見えまストレスです。

同社は代表の板垣一志(いたがき・かずし)さんと、博報堂アイ・スタジオで常務執行役員を務めていた、マーケティング担当の佐々木学さん、システムエンジニアの藤原修一さんの3人によるチームです。これまでの歩みとサービスの可能性を、代表の板垣さんに聞きました。

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(画像:左から、マーケティング担当の佐々木学さん、代表の板垣一志さん、エンジニアの藤原修一さん)

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

顔か指の映像を撮影するだけでストレス状態を可視化する「見えまストレス!」

私たちは、人の顔または指の映像を動画で撮影し、生体信号や心拍変動を解析することでストレス状態を可視化するアプリ「見えまストレス!」の開発に着手しています。

スマホやタブレットで動画を撮影するだけなので、毎日手軽にメンタルヘルスの状態を計測できる点が魅力です。

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(画像:見えまストレス! の仕組み(株式会社見えまストレス作成))

計測の結果、ストレス状態に不調が見られた社員に対しては、産業医との面談をセットしたり、改善のためのケアを施したりと早期に対策を講じることができます。これにより、休職や離職防止につなげられると考えているのです。

今や社員のメンタルヘルスは、企業にとって重要な経営課題の1つです。

例えば「課題先進県」の1つと言われる神奈川県では、県に寄せられる労働相談のうち、職場の人間関係に関する相談件数が増加傾向にあり、うち半数はパワハラによるものです。

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(画像:令和元年度神奈川県労働相談の概況(図8 職場の人間関係に関する相談)をもとに株式会社見えまストレスが作成)

また精神障害などの労災請求や決定件数の推移を見ると、決定件数および支給決定件数はなだらかな一方で、労災請求件数は増加傾向にあります。つまり職場ではメンタルヘルスの不調を抱えている人が増えているものの、現状の制度では救いきれていない人がまだまだ多いということです。

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(画像:厚生労働省「過労死等の労災補償状況」各年度資料をもとに株式会社見えまストレスが作成)

こうした現状に対して、リスクが顕在化する前に早期にその不調を察知して職場環境を改善できれば、課題解決に有効な手立てとなるはずです。

リモートワークやフレックスの導入が進み、相談の機会も減った

私は以前、都内で30人規模のWeb制作会社の代表を務めていましたが、やはり精神的な不調を訴える社員は少なからずいました。

そうした社員の多くは真面目で頑張り屋であるように感じます。悩みや不調をギリギリまで表に出さないため、気付くのが遅れ、社会復帰まで時間を要するケースは少なくありません。

特に、近年はフレックス制度の導入などによって、出社時の遅刻や勤務態度の乱れといったわかりやすい不調のサインが、見えにくくなりました。それに輪をかけて、昨今はコロナ禍でリモートワークが進み、顔を突き合わせたコミュニケーションが分断。「ちょっといいですか?」と仲間や上長をつかまえて相談する機会も減るなど就業環境の変化から、ストレス過多になってしまう事例も耳にしています。

さらに休職後も課題は続きます。真面目であるがゆえに復帰を焦ってしまい、復職後すぐにまた休職や離職に追い込まれてしまうことが多いのです。受け入れ側の企業にとっても、その社員が本当に復帰できる状態なのかを判断しづらいこともメンタルヘルスの課題を難しくしています。

偶然から見つかった「心拍変動解析」の活用

そうした課題に対するソリューションとして、心拍変動解析を使った「見えまストレス!」の仕組みを思い付いたのは、いくつかの偶然からでした。

社員のメンタルヘルス対策に悩んでいた2019年ごろ、かかりつけ医だった平竜三医師(小豆沢整形外科/東京都板橋区)に、「ストレスって可視化できないものでしょうか?」と相談しました。すると、平先生は心拍変動解析の仕組みを使った医療機器を、患者にはもちろんのこと、自身の体調管理に使用していると教えてくれたのです。

人差し指にセンサーをつけて計測するのですが、試してみると、ストレス状態などがグラフでわかりやすく可視化されています。

平先生は長年、予防医学を研究してきた中で次のように話してくれました。

「栄養や運動、環境に加えて、メンタル状態が健康や疾患に大きく影響している事に気付きました。なかなか治療が進まない患者さんや原因がはっきりしない症状を抱える患者さんに、心拍変動解析の仕組みを使った医療機器での検査を勧め、メンタルストレスの度合いや自律神経の働き具合などを可視化しています。患者さんと一緒に見ることで、解決法を見つける手掛かりを探すことができているんです」

平先生の医院でも毎日のように活用している検査だそうで、平先生自身も「日常いろいろなストレスに晒されているので、月に1回は計測して、体調管理に役立てています」とのことでした。

こうしたお話を聞いたことが、その後のアプリ開発のきっかけになりました。

また同時期に足の施術で通っていた城山整骨院(神奈川県小田原市)の岩井隆彰院長からも、整骨院で施術前後の自律神経状態の把握に心拍変動解析を使った医療機器を活用していることを聞きました。岩井先生は、過去にはプロスポーツ選手の海外帯同時のコンディション管理に心拍変動解析を活用していた経験もあり、「見えまストレス!」の構想にも関心を寄せてくれ、現在もアドバイスなどをもらっています。

こうして自然と縁がつながっていく状況に、ある種“運命的なもの”も感じながら、起業に向け加速していったのです。

企業側の強いニーズも実感、プロトタイプ開発に向けて

起案当初は、前述の医療機器を利用したサービスを想定していましたが、こうした医療機器は100万円以上のコストがかかることや、カスタマイズが難しいことから断念せざるを得ませんでした。

そこで、もう少し手軽に計測でき、計測後に医療機関の受診や代休取得を促すような一連の仕組みを実現するため、計測エンジンには「映像脈波抽出技術」を使った非接触型バイタルセンシングテクノロジー「リズミル」を採用する予定です。

スマホやタブレット、PCなどのカメラで顔や指(指の場合は光電脈波で計測)の映像を撮影・解析し、数値が悪かった場合は本人と上長にメールを送信し、速やかに勤務状況を確認するための面談へと誘導。“倒れる前に”手はずを講じられる、ソリューションを目指しています。

企業にとってもこうしたリスク管理のニーズは高まっています。

例えば、プロトタイプの検証や契約している産業医との意見交換などで開発協力をお願いしている株式会社小笠原プレジションラボラトリー(神奈川県山北町)小笠原真智社長は、「見えまストレス!」について次のように期待を寄せてくれています。

「現代は多様な世の中であり、年代や環境によってさまざまなストレスを抱えているように思います。当社は工具メーカーとして、国内外で高い評価を受ける切削工具を製作していますが、そうした良いものづくりのためには、社員の心と体の健康がとても重要だと考えています。「見えまストレス!」を使うことで、気づかない体の変化を定量的に認識できることは、社員が自分自身を、また会社が仲間(社員)を守るためにとても有効だと期待しています。これからも、社員の心と体の健康を保ち、会社一丸となり、常に新しい挑戦をしていきたいです」

また、アプリ開発のきっかけを作ってくれた城山整骨院の岩井隆彰院長は、施術の専門家としての立場からこのように話します。

「自律神経のバランスが崩れることは、体の不調、睡眠障害、疲労などさまざまな疾患を引き起こす原因になるので、早期に察知し休息するといった対応をとることは極めて重要です。『見えまストレス!』は、手軽に自律神経を測定できるスマホアプリを目指していることから、計測の習慣化が期待できます。また整骨院経営者の視点からは、応診先などあらゆるシチュエーションでの活用もできるのではないかと考えています」

現在は、金融機関と融資の相談をしながら、プロトタイプの開発に向けて注力しています。リリースのあかつきには、1人でも多く、「ストレス」や「体調不良の兆し」を早期察知し、従業員や家族を守りたいと考えています。

取材・執筆:「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム」運営事務局(GOB Incubation Partners)

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