PTA業務をアウトソース「PTA’S(ピータス)」——親だからこそできることにリソースを配分:PTA’S・増島佐和子
この記事は、GOB Incubation Partnersが運営する「GOBメディア」でも掲載しています。
PTA活動が、子どもたちの学校生活を支える重要な役割を担っていることは言うまでもありません。しかしながら、「役員はやりたくない」「仕事との両立が難しい」……そんな声も聞かれます。PTA活動に対して前向きな気持ちで取り組んでいる人は、決して多くはないのが実情かもしれません。
そんなPTA活動の課題に目を向け、解決に向けたプロダクトを開発、運営しているのが、さかせる代表の増島佐和子(ますじま・さわこ)さんです。
増島さんは、PTA活動に「アウトソーシング」を導入するためのマッチングサービスを提案します。
PTAのために有給取得……アナログで広範囲に及ぶ業務
私は現在2児の母親として、1000人規模の公立小学校でPTA副会長を務めて2期目を迎えています。実際にPTA活動に参加したことがある人ならわかると思いますが、実に多くの業務をこなさなければいけません。
例えば運動会などは、保護者の観覧に関してPTAがサポートするのが一般的です。仮に500人の児童がいる学校なら、その数倍の保護者が学校へ押し寄せます。備品のレンタルや人員の配置、前日の準備はもちろん、開催当日の警備や保護者が使うトイレの掃除、後片付けなどを分担しなければいけません。
また打ち合わせのためには、基本的に学校へと出向く必要があります。しかもこうした準備を、家事育児や仕事と両立させなければならないのです。人によってはPTA活動のために有給休暇を取得するケースもあります。
しかし保護者だからこそできること、保護者の視点だからこそ持ちうるアイデアはたくさんあります。PTA活動を通じて、それを学校現場で子どもたちの教育へと還元することは非常に価値のあることです。
問題なのは、保護者がやるべき業務と、保護者がやらなくてもいい業務、あるいはプロに任せた方がいい業務が混ざってしまい、そのすべてを保護者が担わなくてはならない現状にあります。
PTA業務をアウトソーシング「PTA’S(ピータス)」
そこで私が開発、運営しているのが、PTA業務を外部の企業へとアウトソーシング(外注)するためのマッチングプラットフォーム「PTA’S(ピータス)」です。
PTA’Sでは、「業種カテゴリー」「対応可能エリア」「キーワード」の3つからアウトソース先の企業を探すことが可能。カテゴリーとして、印刷や行事の警備、記念品の名入れといったよくある業務や、IT・システム関連の導入サポートや講師派遣の依頼、さらには今ならではの消毒など、12カテゴリーを用意しています。
PTAが自分たちで企業を探そうとすると、発注先の選定にはかなりの手間がかかります。調べるだけでも面倒ですが、たとえ見つけたとしても、その企業がそもそもPTAからの業務依頼に応えてくれない可能性もあります。
PTA’Sでは一定の要件をクリアした企業だけを掲載しています。企業は登録時に、自社のサービスに該当する業種カテゴリーと対応可能エリアを選択して登録するため、PTAとのミスマッチを防ぐことが可能です。また業種別に検索できるので、通常、企業名からだけでは知ることが難しい提供サービスについて知ることもできます。
私が役員を務める小学校でも、一部の業務をアウトソースしています。例えば先日は、コロナ禍での運動会の警備を専門業者に依頼しました。制服を着た警備員が正門に立って外周の見回りをすることで、防犯効果を高めるだけでなく、場所取りを巡るもめごとなども未然に防ぐことができました。
PTA’Sではそのほか、PTA活動に関するお役立ち情報をまとめた「調べて欲しい教えて欲しい」というコンテンツも準備しています。
過去にPTA役員を務めた人のブログなど参考になる情報はネット上にたくさんあります。しかしそれらはあくまで経験則で、実際のところPTAが何をどこまで順守すべきか、専門家に確認している人は多くはないでしょう。例えば保護者によるボランティア団体であるPTAが、どこまで厳密に個人情報保護法に従わないといけないのか……など、多くの人が疑問を抱くけれどなかなか答えが見つからない点について、専門家に相談の上、発信しています。こうした情報があれば、PTA役員として、保護者から質問を受けたり、どうすればいいか迷ったりしたときにも自信を持って対応することができます。
現在は、マッチングとこのコンテンツ提供の両軸でのサービス運営を考えています。
ホームページ + Google フォームで総会もオンライン化! コロナ禍でPTAの非効率が顕著に
私自身、実際に役員を務める中で、やはりPTAの業務をもっと効率化する余地をたくさん感じています。それが如実に現れたのが今回のコロナ禍だったのかもしれません。
PTA活動は、年末から年明けにかけて、来年度の予算や役員決め、総会の準備などもっとも忙しい時期に入ります。例年なら役員が学校に集まって話し合いを重ねますが、今年度はその真っただ中に、対面での話し合いの機会を持てなくなってしまいました。否応なく、これまでのやり方を変えなければいけなくなったのです。
こうした事態を受けて、私が役員を務める小学校では総会を完全にオンライン化。PTAのホームページ上で「Google フォーム」のリンクを貼って議決を採るようにしたところ、保護者からも手軽だと好評で、むしろ以前よりも多くの人が議決に参加してくれました。
また2020年の春にしばらくの間、新入生が対面で会えない状況が続いていた中で、なんとかお互いを知れる機会を設けようと、新入生のための交流会もオンラインで企画。全体の半数近くの子どもたちと保護者が参加してくれました。実はこうした取り組みを学校が主催する場合、公平性の観点から、各家庭のスマホやPCの所有状況、Wi-Fi環境などを把握しなければいけません。もちろんこういった視点はとても大切ですが、だからといって、新入生に不安な気持ちのまま過ごさせるわけにもいきません。ですから校長先生に許可をもらった上で、PTA主催で実施しました。こうしたタイムリーな取り組みは、PTAという組織だからこそできるものだと言えます。
このように、PTA活動にはちょっとした工夫や改善で、大きく時間や労力を削減できる余地がまだまだ残されています。そしてその削減した時間と労力を、子どもたちのためのコンテンツに使えば、より豊かな学校生活を実現できるはずなのです。
双子の出産を機に、子どもの教育環境に関心
私が子どもたちの教育環境に関心を持ったきっかけは自分の出産です。
新卒で広告代理店の営業職に就き、その後同じ分野で2度の転職を経験。転職を繰り返す中で少しずつスキルアップを実感できていたのですが、一方で、自分にしかできないことが遠のいていくような感覚もありました。
このままでいいのだろうかと迷っていた時に、一卵性の双子の妊娠がわかりました。調べてみると、確率は250分の1とのことでした。せっかく250人に1人しか経験できない体験ができるならと、会社を辞め、しばらく育児に専念しました。
育児をやってみるとものすごく楽しいのですが、その反面、やはりものすごく苦労もあって。本当に、こんなにも大変なものなのかと実感させられました。
そこで、同じような思いをしている親たちを助けたいとの思いから、保育士の資格を取得しました。とはいえ、私という保育士が1人増えたところでサポートできる人数には限りがあります。だったらこれまでの広告代理店でのキャリアや、身につけた保育士の知識を、より影響力のある形で活かせるものはないだろうかと考えていたときに、保育園運営事業者の採用募集を見つけて応募したのです。主に、新しい認可保育園の開設や運営と、600人くらいの保育士さんを対象とした研修の企画、実施などに携わりました。
“子どものための放課後”をデザイン、学童立ち上げのために奔走
そこで4年ほど勤め、子どもたちが小学校に上がる年齢になりました。世の中的に、小学校に上がると手が離れて少しラクになると聞いていたのですが、全然そんなことはありませんでした。
保育園の場合、子ども1人ひとりに手厚く、遅くまで預かってくれたり、園によっては食事を出してくれたりするところもあります。でも小学校ではそうはいきません。学童もまだまだ設置基準がはっきりしておらず、何の資格も持たない大人が子どもを見ているだけのケースも残念ながらありました。
結局、親の安心のために習い事に行ったり、学童に来ても、学校と変わらず自習したり、決められたカリキュラムをこなしていたり……。本来、放課後は子どもたちが自由に使える、子どもたちのための時間なのに、子どもたちが自ら考え楽しめる時間や場所が足りていないことに疑問を感じていました。
だったら自分で子どもたちにとって理想の学童を作ろうと思い立ち、「放課後児童支援員」の資格を取得。学童保育を設立するための準備を進めます。
どうしても初期投資が大きいので、まずは小さくイベント的にスタートしました。例えば学校が終わった子どもたちを集めて、迎えに来てくれる保護者のために一緒に食事の準備をしました。子どもたちは、煮るとか切るとか1つひとつの工程を、工作の延長のような感覚で楽しんでくれます。料理を通じて、生活の知恵はもちろん、自分で考えて動くことも学ぶことができます。
(画像:イベントの様子)
迎えに来たお父さんお母さんと一緒にご飯を食べる時間を作ることで、子どもが「今日こんなことを覚えたんだよ」「これ私が作ったんだよ」と話ができますし、保護者の方も、家に帰って慌ただしく食事の支度をする必要がなくなります。ある調査では、親子で学校について話す時間は、1日15分程度しかないそうです。だからせめてご飯を食べる時間だけでも、子どもとしっかり向き合う時間を作ってもらいたいと考えていました。
こうして学童設立の準備が進み、不動産を探しているときに、新型コロナウイルスが発生。計画が頓挫しました。全くの想定外でしたから正直どうしたらいいか迷いましたが、会社を辞めてから、子どもたちも私の夢にすごく協力的だったので、コロナのせいで諦める姿を見せるのだけは嫌でした。そこで今の私にできることは何だろうと考えた先に行き着いたのが、PTA’Sだったのです。
サービス開始1年で300校の導入を目指す
おかげさまで、2020年11月25日に、首都圏限定のβ版でPTA’Sを公開することができました。このタイミングで公開したのは、どのPTAもだいたい年末から年始にかけて来期の予算編成をするからです。
まずはできるだけ多くのPTAの方にアウトソーシングという選択肢を知ってほしいと思っています。PTAは保育園や幼稚園の保護者会も含めると、全国に約7万4000あります。まずはサービス開始1年で、0.5%に当たる300校ほどのPTAに利用してもらうことが目標です。同時にアウトソース先の企業も、1カテゴリー最低5社として計60社の登録を目標に掲げています。
繰り返しですが、私は保護者だからこそできること、保護者だからこそ持ちうるアイデアにリソースを集中させるべきだと考えています。それ以外の業務はプロに任せて効率化し、働いていてもいなくても、お母さんでもお父さんでも、誰もが自分の子どもや学校の子どもたちのことを考え、無理なく活動できるPTAを実現したいです。
PTA'Sの詳細はこちら
取材・執筆:「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム」運営事務局(GOB Incubation Partners)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?