「学びの多様化学校」令和8年4月設置を目指します
本日の総合教育会議において、教育委員会との間で、令和8年4月の「学びの多様化学校」の設置を目指すことを確認しました。
かつて、北海道のある「サポート校」に視察に伺ったことがあります。
「サポート校」とは、通信制高校の課題を、一緒にサポートしてくれる学習塾のようなところです。
通信制高校の生徒は、社会人も多いのですが、中学校卒業してから通う生徒も多く、そういった生徒の多くが、不登校を経験した生徒でした。
彼らは、一人で、通信制高校の大量の課題をこなすことは難しいため、実際には、毎日「サポート校」に通い、スタッフの方に学習サポートを受けながら課題をこなしていくのです。時には授業形式で。
「サポート校」は学校ではないので、制服や部活動があるわけではありません。
しかし、その「サポート校」の多くの生徒は、自分で用意した制服で通学し、「部活動的」活動を楽しみ、あたかも、そこが学校であるかのようなキャンパスライフを過ごしていました。
その場面を見た時、私は、「この子達は、本当は学校に通いたかったんだろうな」と思ったことを、今でも覚えています。
私が、学校教育制度と不登校の課題を強く考え始めたのは、この時期からです。15年程前の話です。
当時は、教員組織や学校施設の観点から、学校とサポート校との役割分担が不明確(塾が学校化している、または、学校が塾化している)であり、そこを明確に切り分けるよう指導をする観点から、視察に行ったと記憶しています。
今となっては、考え方も大きく変わりましたが、株式会社立学校など規制改革の強力な圧力(外圧)の中で、「学校」の定義がどんどんと崩されそうになり、学校教育法に定める「学校」の定義を守ろうと、一人の組織人として必死になっていました。
学校教育制度は、常に、外(経済資本)からは「規制でがんじがらめ(いわゆる「岩盤規制」)」と見られ、そのことにより、常に規制改革の対象となり、そこを守ることが、文科省の仕事という側面もあります。
「学校教育にどれだけ市場原理を入れていくのか」
これは、永遠の課題だと思います。
ただ、そういった伝統的な学校の定義を守り続けようとしていた当時であっても、サポート校や不登校の現状を考えたときに、本当にそれでよいのかといった思いは、常に私の頭の片隅に残り続けました。
不登校加配、特別支援学級など、様々な制度・仕組みはあります。
この制度・仕組みは、漸進的に改善はされてきています。
しかし、私自身は、教育行政に関わる役人として、不登校問題を根本的に解決できる制度的構想を描けるほどの能力はありませんでした。
完全に力不足でした。
学校教育の「標準性」と「多様性」の両立を実現する基準作ること・・・・。 これほど難しいことはありません。
学習保障の観点から、教育課程の標準時数は1015時間と定められ、各教科等の時数も概ね定められています。
教科書も、法律を根拠に検定教科書を使用します。
義務標準法によって1クラスの子どもの数は35人などと定められ、義務教育費国庫負担法によってその財源は国と都道府県で負担されています。
予算を措置する以上、1学校あたりの教員数は、基準が作られ、その範囲内でしか措置できないのです。
入試の公平性を担保するために、評価基準だって、公平に作らなければなりません。
個々の教育的ニーズに対応した学校教育の「多様性」を実現するには、教員配置、教育課程、教科書制度など、文科省のあらゆる制度を俯瞰的に見渡し、検討が必要です。
履修主義なのか習得主義なのかといった、学習評価の根本問題までしっかりと突き詰めて考えなければなりません。
熱意のある優秀な文科省の官僚と教育学の専門家が10年かけて考えても、もしかしたら、本当の意味での「標準性」と「多様性」が両立できる学校教育制度の実現など難しいのかも知れません。
そもそも、こういった命題そのものが矛盾しているのですから、土台、無理な話なのかも知れません。
一人ひとりの先生の力量に委ねるしかない世界なのかも知れません。
まだ、私には、最終的な答えは持ち合わせていません。
「地域の実情に応じて」それぞれの学校を作っていくしかないのではないか。
今のところ、私が行き着いている答えは、これです。
実際、今の制度(学校教育法施行規則)でも、不登校特例校については、「特別の教育課程」を編成して教育を実施できますよ、となっています。
全国の「標準性」も強く求められている文科省で制度的に決められることは、ここが限界なのかも知れません。
逆に言えば、ここからは、「自治体(設置者)が頑張れ」なのかも知れません。
冷静に考えてみれば、様々な学びの多様化の例は既にあります。
「夜間中学校」です。
夜に学校が開かれている時点で「特例」です。
教育内容は、個々の理解度に応じて提供されています。
3年で卒業しない生徒さんもいます。
「夜間中学校」ですから、夜開かれていますが、別に「昼」開いてはいけない理由もありません。
特別支援学校も、個々の子どもの状況に応じて教科書が配布され、検定教科書を使わない子どもがたくさんいます。
障害の種類や程度に応じて、先生方が決めているのです。
参考にする仕組みはたくさんあるのです。
尼崎市は、本日の総合教育会議で、令和8年4月に、「学びの多様化学校」を開設する方向で準備することを決めました。
正式な学校名はこれから決めていきます。夢のある前向きな名前を、皆さんと決めていきたいと思います。
教育課程をどうするのかもこれから考えます。
授業時数、時間割、評価の在り方なども、これまでの常識にとらわれず考えていかなければなりません。
教員指導体制は、県としっかりと連携していかなければなりません。 校舎についても、多くの地域では廃校となった学校を利用していますが、新たに建設する方向で予定しています。
「「学びの多様化学校」のみ多様化しても意味がない」
こういう意見もあると思います。
もちろん、地域の学校についても、校内サポートルーム・エリアを整備するなどしていきます。
引き続き、サテライト教室やほっとステップなど、それぞれの子どもの状況に応じた取組も実施します。
しかし、「学びの多様化学校」は、間違いなく、これからの学校の在り方を皆で考える、重要な要素となると思います。
「学びの多様化学校」で起きる個々の学びの在り方を、皆で考えながら、地域の学校の在り方も考えていく、そういったサイクルができればと思っておりますし、そうしなければいけないと思っています。
開校に向け、短期間での準備になります。
今後、教育委員会で準備組織を整え、具体的な詰めに入っていく予定です。 私としても、準備がしっかりと進むよう、全力でバックアップしていきたいと思います。
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