90°V型エンジンとはなにか

90°V型というエンジン形式がある。
これは素晴らしいものだ。
だから、これを搭載したバイクも素晴らしい。

バイクに詳しい方は、直感的にそれはおかしい、と思ったに違いないし、論理的な思考をする人も、そうとは限らないと思ったに違いない。

しかし、どちらも信心が足りない。
新しい世界への扉を開き、常識を偏見へと変えてきたのは、いつだって信念だ。

90°Vは素晴らしい。だから、これを搭載したバイクも素晴らしい。
これを至上命題として、この世に、現実の世界に、最高の90° Vバイクを発現させるのが、我々90°V教徒の務めである。

今日は、いまだ文明化されていない異教徒に90° Vの素晴らしさを伝えるため、筆を取った。
これを読めば、二輪免許を持たぬものは教習所に走り、単気筒に乗るものはその古臭さを恥じ、並列二気筒に乗るものはその偶力を恥じ、並列三気筒に乗るものはその奇数気筒の異常さを恥じ、並列四気筒に乗るものはその車体幅の大なるを恥じ、水平対抗に乗るものはそのバンクの取れぬことを恥じるだろう。

それでは始めよう。

まず最初に単気筒があった。
次に、これを活かすためにバイクが生まれた。

しかし、単気筒には問題があった。振動である。
ピストンが往復運動をする以上、その反力が振動となるのは、いわば必然であった。

この振動を消すためにカウンターウエイトの追加が試みられた。
クランクピンの反対側に重りを追加すれば、ピストンが下がるとき、重りは上昇し、ピストンが上がるとき、重りは下降するから、振動を相殺できるというわけだ。

しかし、この試みは早々に破綻する。追加されたカウンターウエイトは上下の振動は相殺するものの、新たに左右の振動を生んでしまうからだ。

それではどうするか?

意志薄弱なものは、重りを減らしてお茶を濁した。
上下左右に揺れますが、最初よりマシですよ、どうでしょう、という訳だ。

閃きの才に恵まれなかったものは、バランサーシャフトを足した。
クランクシャフトと逆回転するシャフトを新たに設け、重りを半分移す。
すると、重り同士で左右は相殺されるので、上下左右のバランスが取れるという訳だ。

すでに90° Vを手にしている我々からすると利口ぶった愚か者の悪あがきにしか見えないが、これが90° V登場以前の状況だったのだ。

転機が訪れたのは、1908年のことだった。
イギリス人J•A•プレストウィッチが90° Vツインを生み出したのだ。彼のバイクは145km/hをマークした。

彼こそは90° V教の創始者であり、教祖である。
彼は語った。
「エンジンは出力を生むための機械である。であるから、出力を生まない部品は存在してはならない」

これが90° Vの教義となった。
彼のアイデアは鮮烈にして単純明快だった。カウンターウエイトが左右の振動を生むなら、水平にもう一気筒足せば良い。
こうすれば、上下で見ても、左右で見ても振動は相殺される。
これは美しい閃きだった。こうして、真に必要とされる部品だけで、一次振動完全バランスは成し遂げられた。

90° Vは素晴らしい。
これを搭載したバイクもまた素晴らしい。

だから90° Vに乗らぬものはみな、これに乗るべきなのだ。

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