じさつとたましい27

白い建物には、カバやサイがいた。

興味ないかもなあと思った。

建物の中では、昔小学校にあったような、
古めかしい扇風機が回っていた。埃がついている。

カバたちは乾草を食べていた。

1頭、おしりを向けているカバを見ながら、
動物園の動物って幸せなのかなあと考えた。
よくあるテーマだが、今日見る動物たちは大体が疲れているように見えた。
夏の暑さのせいか、動物園の動物は社畜なのか。

馨ももう少し大学に居たらいいのに。
孤独を愛するようなフリをして、本当は人一倍普通になりたい私。恥ずかしい。
むしろ、神のように扱わなければ激怒したAと同じくらい、いやそれ以上にそのように扱われたい願望があるのかもしれない。

沈み込む気持ち。扇風機の風が頭を撫でていく。

「すえさんってさあ」

馨が話し始めた途端、おしりばかり見せていたカバがこちらを向いて見せた。

あっ

目があった。

目に吸い込まれる。

ああ、この目。

このカバはちゃんと生きている。

カバから感じる生きたものの刺激。魅力…。

「ねえ、思えばカバって本当にいたんだね。私カバ初めてみた。そっかカバって本当にいたんだね!絵本だけでしか見たことなかった!」


急に目を見開いて、声が大きくなる私。興奮する私。いきいきする私。

馨がまた口元を手で押さえながら笑った。

「なに、一目惚れでもしちゃった?今ね絵本に出てくるカバの話しようと思ってたんだけど」

「あったねえ、あったねえ、カバの絵本。ねえこのカバ生きてるね!ええ!すごいね!!」

隣にいたカップルが怪訝そうな顔でこちらを見てきた。

「すえさんは、本当にいろんな顔がある人だよねえ。絵本作家とかになればいいのに」


「そんなこと言わないで。大学にまだまだ残留するのに、創作活動なんて始めようものなら、きっともう拗らせまくって、ニートコースだよ」

かなり浮き沈みの多い会話だった。
それでもカバの目はこころの窓を開く、深くて魅力的な目だった。

馨のことは馨のことで応援できそうな気持ちになったり、自分のこれからなどが不安で、やっぱり馨のことが羨ましくなったりした。

それでもカバの目は変わらないのだった。

気持ちは目まぐるしく移ろいでも。
変わらないカバの目だったのだ。

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