頑張る奴は見てくれている
どんな奴でも受け入れるのは有馬先生のやり方ということはお伝えした。
ここでは自身の経験を伝えたい。
1期生にとって最後の夏である2008年。
大会に向けて練習へ励んでいた。実践練習の守備にBチームが就いた。
僕は二塁手。実はこのぐらいの時期からエラーが減り、打撃でも成績を残すようになっていた。だからこの守備でアピールしようと。
各打者の傾向や、投手の能力を考えてポジショニング。
配球で決める選手も多いが、僕は打ち方の癖で判断していた。配球で判断するということができなかったという言い方が正しい。
そして一通り終了し、有馬先生が守備だったメンバーを集めてこう言った。
「この中で一番しっかりやっていたのは新町だけだ!」
この瞬間嬉しさは正直なかった。自分の性格上、サボることはできない。ごく当たり前に目的を持って練習していただけに過ぎない。
ただ時間が過ぎると認められるのは正直に嬉しかった。学年上がると野球も勉強も良くなっていた。誰だって上達することは嬉しいよな。心からそう思えた。
もっとうまくなりたいと思っていたが、上級生の夏が終わり新チームとして夏休みを決める班分け。またBチーム。結果も残していたので、多少Aチームは期待していたが甘かった。今度は上級生の立場。成長したところを見せたいし、引っ張っていこうと思った。絶対メンバーに入りたい。それだけだ。中学時代メンバーに入ってないから、高校では絶対メンバーに入って活躍すると。
そして8月の中旬。麻布高校多摩川グラウンドで練習試合があった。
試合準備のため全員で草抜きをするように指示があり、しばらく従ってやっていた。僕はセンター付近にいて、しばらくするとホームから有馬先生の声が聞こえた。
「新町―、来い!」
えっ、何かしたのかな。
野球で怒られたことはあるけど、普段の生活では怒られたことはない。恐る恐るダッシュで向かうと、相手校の監督が横にいて、有馬先生からこんなことを聞かれた。
「捕り方よりも?」
一瞬何を言っているのか迷ったが、すぐに分かった。
「入り方です!」
うちの守備における打球処理の考え方のことだった。捕る形よりもバウンドを見て打球に対しての入り方のことを言う。普段の練習からずっと言われていること。むしろそれをわかるようになって上達した。
有馬先生が相手校の監督に、
「こいつは俺の言うことを信じてくれてるんだよな」
認められてると思うと嬉しかった。
残暑でへばっていたが、頑張るぞという気持ちに戻ったことは今でも心臓が覚えている。