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マンションの地下で行われる怪しげな演劇に潜入してきた

「NICESTALKER」さんの公演「新訳あわれ彼女は娼婦」を観てきた。
人生初の演劇鑑賞である。今回はその感想を書いていく。

マンションの地下で行われる異様な舞台

ある日先輩に、「演劇を観に行こう」と言われ特に説明もなく連行されたので、

・どこの団体がやってるのか?
・どういう物語なのか?
・どこでやるのか?


といった基本情報が何もないまま現地入りすることになった。

演劇などといった格式の高いエンタメはさぞ立派な会場で催されるのだろうと思いきや、示されている現住所はどうみても住宅街であり、格式どころか生活感あふれまくりで、会場はさして特徴もないマンションの地下だった。

「マンションの地下で演劇!?」
「お金がないから勝手にマンションの地下で演劇やってる?ど貧困違法演劇集団じゃねーか!」


そうした不安駆られながらマンション地下に入っていき、そこでパンフレットを手渡され、今回の演劇がNICESTALKERさん主催「新訳あわれ彼女は娼婦」であることを知るのである。

マンション地下という異様なロケーション、「娼婦」という単語、筆者の無知さ。
それらが合わさり、これからストリップショーでも敢行されるのかと勘違いしたが(それはそれでやぶさかではないが)、本作「あわれ彼女は娼婦」はイギリスの劇作家ジョンフォードが17世紀に作り上げた舞台作品であり、それを演出のイトウシンタロウさんが翻訳したわけである。全然ストリップショーじゃない。

ついでに言えば、マンション地下という異様な舞台も、ちゃんと調べてみたらスタジオとして貸し出されるようなので、全然適法だった。

参考: スタジオ空洞

なので、NICESTALKERさんは至極まっとうな合法演劇集団であり、ガサ入れの不安に駆られながら演劇を観ることにはならなそうである。
「ど貧困違法演劇集団」などという無礼すぎるレッテルを貼ってしまい、マジですいませんした。貧困なのは筆者の想像力でした。押忍。

ストーリーとワークインプログレスについて

「あわれ彼女は娼婦」という作品を一言でいうなら「妹萌え」。
兄と妹の愛を描いた近親相姦モノである。

17世紀当時のイギリスは男女の関係に厳しい規律が設けられており、一度結婚したら離婚をすることができず、結婚前の性行為は重罪、婚外性行為などもってのほか、ましてや近親相姦など許されざる禁戒だったらしい。とにかくしきたりが厳しいのがこの時代だ。

そのような世相の中、妹萌え作品をリリースしたのだから、「あわれ彼女は娼婦」は相当に賛否両論だったらしい。

そうした問題作を、ワークインプログレスという形で演劇しようというのがNICESTALKERさんの今回の試みである。

ワークインプログレスという聴き慣れない言葉の意味は、演劇界でも明確に定まっていないらしいが、NICESTALKERさんは劇作の途中過程を公開すると解釈した。
したがって、今回の公演は物語全編ではなく、劇の重要なシーンをピックアップしダイジェストのような形で流す劇となっていた。

初めて演劇を観た感想

手狭なマンション地下という舞台だったため、演者と観客の距離が近く迫力感に満ちていた。

初めて俳優の演技を生で間近で観ることによって、画面越しでは決して伝わらない、声のトーンの強弱の付け方、表情の作り方、間の作り方、それらの技術がよりあらわになり、演技のことなど何も知らない筆者ですら「これはすごい!」と感動の念を覚えた。プロフェッショナルだ。

本劇団は人手不足のため、演者が1人何役もこなしていたのだが、その中でも1人で3役を担っていたイグロヒデアキさんの演技は突出してたように思う。
なんせイグロさんはヒロインの父役、下僕役、さらには女役までこなしてみせたのだから。そのスイッチングの巧みさは圧巻の一言に尽きる。

近親相姦という禁戒をテーマにしてるわけだから、物語は明るい感じでもなく、全体的に悲壮感が漂ってはいたが、コメディ要素もあり、笑いとシリアスが良い塩梅で散りばめられていた。

結論、とても面白い。大満足の1時間半だった。

おわりに

まさか演劇がこんな面白いものだとは思わなかった。
全然期待してなかっただけにものすごく楽しい時間となった。

低俗な遊びばかりに身を投じている卑しい身分の筆者が、演劇という文化的な娯楽をこんなにも楽しめるとは全く予想していなかった。
筆者にもまだまともな感性が幾分か残っていたのかもしれない。
さて、次は何の演劇を観に行こうか。

【参考】
ナイスストーカー
あわれ彼女は娼婦 - Wikipedia

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