Polygon(ポリゴン)とは何か?zk-Rollupを軸にイーサリアムのスケーリング課題に挑むL2エコシステムPolygonについて
NFTをはじめ、web3関連情報をリサーチする際、初期段階で多くの人が目にするであろう「Polygon」というキーワード。OpenSea上でイーサリアムと共に決済手段として採用されているなど、馴染みのある方も多いかと思います。Maticトークンとしても知られていますよね。
改めて説明すると、Polygonはイーサリアムのスケーリング問題を解決するためのL2ソリューションを提供しているプロジェクトです。
2022年2月上旬にはSequoia India、SoftBank Vision Fund2、Galaxy Digital、Tiger Global、Union Square Venturesなど錚々たるVCから約560億円の(トークンによる)資金調達も発表し、トークンベースの時価総額でいうと2.3兆円におよぶなどL2としての存在感を確固たるものにしています。
その一方で、PolygonやMaticの名前はよく聞くけど具体的にどういったサービスなのかわかりづらい、L2ってそもそも何?という方も多いのではないでしょうか?
僕もそのように感じていたところ、先日タイミングよくPodcastの収録でPolygonのJapanメンバーであるヨリコビールさんと岡山さんにお話をさせて頂く機会を頂戴しました。
Podcastでのお話を通してPolygonの目指す方向性や可能性について強く感銘を受けました。そこで今回は個人的にも課題であったゼロ知識証明(ZKP:Zero Knowledge Proof)の学習も兼ね、個人的にリサーチを進めた内容をアウトプットしていこうと思います。
以下ではPolygonの概要や同プロジェクトが推し進めるzk-Rollupを使ったL2ソリューションについて紹介をしていきます。
Polygonが解決する課題とは
2017年当時、大流行したクリプトキティーズというNFTゲームを覚えていますでしょうか?ブロックチェーン技術を活用したクリプトゲームの元祖とも言えるものなのですが、この流行によりEthereumのトランザクションが詰まってしまい、ガス代が高騰するなどスケーラビリティ問題の顕在化を引き起こしてしまいました。
補足:Ethereumのスケーラビリティ問題とは?
ブロックチェーンはトリレンマを抱えており、「スケーラビリティ(高速化)」「分散化」「セキュリティ」の3つは同時に解決されないものと言われています。Ethereumはこの中でセキュリティを最優先として開発を進めているため、たくさんのトランザクションが行われるとガス代(手数料)が非常に高くなったり、取引が正常に処理されないなどの問題を引き起こします。OpenSeaで0.01ETH(約3,000円)のNFTを購入しようとしたら、5,000円以上ものガス代がかかってしまって諦めた…そんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
2017年、この問題を解決するために生まれたのがPolygonです。Ethereumにおけるトランザクションを高速化するのはもちろん、手数料の安さと安全性もしっかり担保していくためのソリューションを提供しています。
スケーラビリティ問題を解決するPolygonのソリューションとは?
たくさんのソリューションを多面的に展開しているPolygonですが、現段階のメインプロダクトは2020年6月にローンチされたPolygon PoSとなっており、OpenSeaを始め多くのNFTマーケットプレイスやDeFiに採用されています。
これはEthereumのサイドチェーンPlasmaと、Proof of Stake(PoS)を応用した独自チェーンをかけあわせたものとなり、いわばサイドチェーンとL2のハイブリッド版独自チェーンとも言えるでしょう。これによりEthereumの高いセキュリティを保ちながら、高騰するガス代や遅延するトランザクション処理の問題を解決することが可能となります。
もちろん独自のチェーンとなっていますので、Polygon上でアプリケーションを構築することも可能になっています(EVM互換性があります)。
より具体的なPolygon PoSの仕組みとしては、Polygonのチェーン上にチェックポイントを複数設けており、一定のブロックの度にスナップショットをEthereumに書き込んでいく仕様となっています。
各アプリケーションレイヤーにおけるPolygonの活用について
このPolygon PoSは多くのアプリケーションで採用されていて、OpenSea、Uniswap、Sushiswap、Decentraland、Sandboxなど、web3を代表するプロダクト郡におけるトランザクションをPolygon環境でも行うことが可能です。例えばOpenSeaではETHではなく、Polygonのトークンで購入できるNFTをよく見かけると思います。
このようにEthereum以外のマルチチェーンの対応を各アプリケーションは推し進めており(ガス代を軽減するための選択肢の拡充として)、その選択肢としてPolygonはまず検討されるソリューションとなっています。
ちなみにPolygonは2021年2月にMaticという名前からリブランディングしているため、そのトークン名とプロジェクト名に違いがあります。
またリブランディングの理由としては、これまでの単一のソリューション提供の方針から、(変わらずEthereumに全張りしつつ)あらゆるスケーリングソリューションを展開していく方向に変わったのが理由だそうです。ポリゴン(多角形)という意味の通り、Polygon PoSに留まらない多面的なアプローチを展開しています。
zk-Rollupへのフォーカスを進めるPolygonのソリューション
今、「Polygonを活用する」というと、基本的にはPolygon PoSのことを指すほどPoSはメインのサービスになっていますが、リブランディングした背景からもPolygonは多くのソリューションを提供しています。
以下に今後Polygonが注力していくというサービスをみていきましょう。
1.Polygon Edge
独自のブロックチェーンを起ち上げることができるSDKです。Ethereumと互換性のあるプライベートまたはパブリックなブロックチェーンを構築するためのフレームワークとなっており、モジュール式で拡張可能な点が特徴となっています。
エンタープライズ企業がプライベートなブロックチェーンを構築する際に利用されることが多いと言います。
2.Polygon Hermez
ここ最近目にすることも多い、zk-Rollupという技術を使ったL2ソリューションです。zkとはゼロ知識証明 (zero-knowledge proof)の略であり、これはトランザクションが正しいという証明を、その秘密情報がなくとも(まさにゼロ知識で)証明する手法のことを言います。
つまり、Ethereum上で都度トランザクションが正しいかどうか証明を行うことなく、その証明をL2チェーンで巻き取り(Rollup)、独自の計算技術を使ってトランザクションを進める仕組みと理解すればよいでしょう。
こちらは2021年8月発表された2.5億ドルにおよぶHermezチームの買収とその統合によって提供されているソリューションです。
3.Polygon Nightfall(開発中)
こちらもzk-Rollupを軸としたソリューションで、Ernst & Youngと共に協業開発を推し進めているプロジェクトです。
zk-RollupとOptimistic Rollupsのコンセプトを効果的に組み合わせており、スケーラビリティを保ちながらも、プライバシーに特化した唯一のロールアップです。まだローンチ前ですが2022年Q2あたりを目指して、企業利用を前提として開発を進めています。
4.Polygon Miden(開発中)
こちらも同じくzk-Rollupのスケーリングソリューションであり、zk-STARKsという技術を採用したソリューションとなります。
ちなみにゼロ知識証明の技術にはzk-STARKs(Zero-Knowledge Scalable Transparent ARguments of Knowledge)とzk-SNARKs(Zero-Knowledge Succinct Non-Interactive Argument of Knowledge)の2つがあります。
比較的専門性を要する技術的な仕組みなので詳細は割愛しますがzk-SNARKsはスケーラビリティや量子コンピューターに対するぜい弱性があると言われており、それを解決しているのがzk-STARKsとなります。
5.Polygon Zero(開発中)
そしてこちらもzk-Rollupのソリューションです。Plonky2という独自の証明システムを活用することで、どの技術よりも高速にzk証明におけるトランザクションを生成することができると言います。
この技術はHermezと同じく、2021年12月に4億ドルで買収したインド拠点のプロトコルMir Protocolの技術を受け継ぐものであり、それをZeroとリブランディングし現在はその統合を進めています。
以上の通り、Polygonとしては完全にゼロ知識証明のスケーリングテクノロジーにコミットしていることがわかるかと思いますが、他にもL2ソリューションにおけるメジャーどころとしては、Optimistic rollup方法もあります。
これはL2チェーンで巻き取ったトランザクション上で問題が起こった場合にのみ、トランザクションの検証を行うという、その名の通り”楽観的”なソリューション方法となっています。zkに比べてシンプルな方法でもあるのですが、その分セキュリティ的に劣ったり、その検証期間を担保するためL1への反映(トランザクションの最終確定)に1週間ほど要するなどいくつかの課題感があるのが現状です(ちなみにこれはPolygonが創業当時採用していたPlasmaの技術を引き継ぐものです)。
zk-RollupはこのOptimistic rollupの課題を解決する、L2スケーラビリティソリューションの大本命と言われている技術であり、他にもStarkEx、Loopring、zkSyncなど多くのプロジェクトが生まれてそして大量の資金が集まっています。
そんな中Polygonとしても、上記の通りいくつもzk-Rollupプロジェクトを起ち上げています。ユースケースや技術を分けながら買収投資を推し進め、意図的に社内競合をさせるなど、そのテクノロジーにフルベットしていることがおわかり頂けるでしょう。
数学の研究者やMeta社のゼロ知識証明の専門家など、人材獲得にも積極的であり直近では10億円以上の予算を割り当てていると言います。
まだまだR&D段階にあると言いながらも、可能性あるzk-Rollup技術をアグリゲートし進化させていくPolygonエコシステムが作るスケーリングの未来に、今回のインタビューでのお話を通して強い期待を描くことができました。
Polygon Japanとしての国内マーケットへの展開について
最先端の技術投資はもちろん、各アプリケーションとの連携、そして直近の資金調達など、これからの展開が楽しみなPolygonエコシステムですが、もう一つ特徴としてエンドユーザーにおけるMaticトークンの浸透も挙げられるのではないでしょうか。
OpenSea上におけるNFTの売買時や、国内発のステーブルコインであるJPYC発行時におけるMatic付与など(自分も最初の取得はJPYC経由でした)、Polygonエコシステムとのタッチポイントは多く挙げられるでしょう。
そういった点を活かして、これからweb3事業にコミットしていきたい企業や個人の窓口となるような活動を今後岡山さんを中心に推し進めていきたいと言います。
例えば、すでにTwitter Spaceではweb3起業家を招いてのweb3School、そしてNFTアーティストを招いてのNFTschoolと言った公開イベントを展開するなど、そのコミュニティ作りを積極的に行っています。
デベロッパーフレンドリーなエコシステムをもっているPolygon、国内でのプロジェクトはヨリコビールさん、岡山さんのお二人を中心にサポートを行っていくそうなので、これからブロックチェーンを活用したプロダクトを展開していきたい!とお考えの企業や個人の方はぜひご連絡をしてみてはいかがでしょうか?
特にTwitterの運用に力を入れており、問い合わせも一元化していくとのことなので、Twiter上でDMをしてみるといいかと思います。
他にも今回のインタビューでは以下のような点についてお話を伺いました。
・Polygonのようなグローバルチームにおける働き方
・web3プロジェクトに参画するための心構えやアクション内容
・二人がおすすめするweb3プロジェクト
・ENSは早く取得していたほうがいい問題
・メタバースを事業化していくための2つのアプローチ方法
お二人のフレンドリーな人柄が伝わるEpisodeとなっていますので、ぜひランニングや家事のお供にでも聞いてみてください。