神輝興産は、なぜ売上目標をつくらないのか
こんにちは。(有)神輝興産、代表の中憲太郎です。
3月に前年度の決算を報告しました。
売上は6.1億円と過去最高となりました。特に直近3年では毎年1億円近いペースで売上が伸びています。これも神輝興産で働いてくれているスタッフのみなさん、関わりのある方々の努力のおかげです。この場を借りてお礼申し上げたいと思います。
こうしてみると、目標どおり順調に売上を伸ばしているように見えるかもしれません。しかし、神輝興産では「売上目標」というものを掲げたことがありません。そしてこれからも、掲げる予定はありません。今回は、なぜ神輝興産が売上目標を掲げないのか、その理由について説明したいと思います。
売上という数字に意味はない
売上目標を掲げない理由、それをひとことで言ってしまうと「売上目標を達成することが会社の目的ではない」と考えているからです。
売上は会社の規模を表す数値として扱われることがあります。売上何億円、売上何兆円。こう聞くと会社の規模感が伝わりますし、売上が年々増えていれば、会社が成長していると捉えることもできます。
しかし、私が会社を経営する目的は、会社の規模を大きくすることではありません。まして他社と売上を競い、シェアを伸ばすことでもありません。先月のコラムでも記したように、わたしが考える会社の存在意義は「働くスタッフたちが輝ける舞台を用意すること」です。つまりこれが、私が会社を経営する目的になります。
売上を追いかける弊害
ここで、売上目標を掲げることを否定しているわけではないことは、強調しておきたいと思います。私個人として「売上という数字を追いかけることに意味はない」と考えているということです。
多くの企業は、たとえば前年度比10%アップというような形で、あるいは市場の伸長率に合わせて、売上目標を設定するかと思います。どちらにしても、前年度の実績よりも売上目標は高く設定します。
一方、売上という数字を追うことに意味を感じていない私は、売上目標を立てろと言われると、困ってしまうのが正直なところです。前年度と同じ売上目標にしてもいいと思いますが、前年度と同じことをやればいいというものでもありません。また、売上目標を達成したからといって、それで満足するかというと、そうでもありません。
売上目標というわかりやすい目標を安易に設定してしまうことで、逆に弊害が生じるとさえ思っています。
その弊害というのは大きく3つです。
仕事の質の低下
スタッフの疲弊
「お金を払ってくれる相手」という視点以外でお客様との関係が見えなくなる
仕事の質の低下
売上を伸ばしても、必ずしも売上に比例して利益が増えるわけではありません。限られたスタッフで仕事を進めるため、売上を伸ばすには外注費が増えることになります。あるいはスタッフを増員する方法もありますが、その場合は固定費が増えてしまいます。
外注比率のアップ、新しいスタッフの急増、これらはどちらも仕事の質の低下につながりかねません。プロフェッショナルとして、目の前の仕事に向き合うためにも、売上を伸ばすことが大切だとは感じないのです。
スタッフが疲弊する
ふたつ目は、売上という数字を追いかけることでスタッフが疲弊することです。ここ数年、1億円ずつ売上が増加しているからといって、今年度や来年度に7億円、8億円の売上目標を掲げても、限られた人数で会社を運営している以上、そのしわ寄せは最終的にはスタッフにいきます。
人の成長には適度な負荷やプレッシャーは必要だと思います。スポーツでも負荷をかけなければ上手になりません。また、本番のプレッシャーのなかでしか味わえない喜びや、成長もあるでしょう。しかし、過度な負荷やプレッシャーが長期的に続けば、成長どころではなく、疲弊となってしまいます。
疲弊からはなにも生まれません。疲弊し視野が狭くなれば、お互いの強みを活かし合い相乗効果を生むという視点が欠けてしまう。それでは働く喜びが感じられなくなってしまいます。
スタッフ一人ひとりの強みを認識し、お互いがお互いの強みを活かし合いながら相乗効果を生んでこそ、スタッフたちは生き生きと働けると思います。
「お金を払ってくれる相手」という視点以外でお客様との関係が見えなくなる
最後が、「お金を払ってくれる相手」という視点以外でお客様との関係が見えなくなることです。会社の社会貢献の種類として、対価としてお金をいただけるものもあるでしょう。一方で対価としてのお金はいただかずにする貢献があるのも事実です。
目先の売上を追いかけてしまうと、一見売上にならない機会や、繋がりを軽視してしまう可能性があります。
私の経験上、一見売上とは関係なさそうな繋がりこそ、のちに自分たちを助けてくれたり、思わぬ喜びを運んでくれたりすると感じています。
「売上につながるからやる」「売上につながらないからやらない」のではなく、貢献できるから、喜んでいただけるから実行する。売上のあるなしにかかわらず社会に貢献することこそがスタッフの喜びとして返ってくる。そのように思っています。
奪いあうと足りなくなる。わけあえば余る。
世のなかはそのようにできていると思います。だからこそ、売上のあるなしではなく、地域や関係する方たちと繋がりをつくっていく。そこは忘れたくない部分です。
売上と社会貢献
「そうは言っても、売上は企業が社会貢献できている指標であるから、売上目標を掲げた方がいい」、そういう意見もあると思います。「売上とは、企業がどのくらい社会貢献できているか示す指標である」という点は、その通りだと思います。特に我々の事業である橋梁点検に関しては、2033年には、日本にある橋の約67%が50年経過橋梁となります。コンクリートの耐久年数が約50年と言われていることから、今後日本の橋梁は待ったなしの状態とも言えます。つまり、より多くの橋を点検し、売上を伸ばすことは、社会貢献につながるという考え方もあるとは思います。
しかし、だからこそ優先順位が大切だと私は思います。
売上を追いかけて、スタッフが疲弊してしまえば事業として持続しません。インフラに携わる人たちがハッピーでなければ、社会貢献も続けられません。事業が持続しなければ、インフラは守れないのです。
企業規模としての成長ではなく、働く人たちが人間として成長していく。これこそが企業の真の成長だと思います。だから、弊社では売上目標というものはつくらないのです。
おわりに
さて、ここまで“会社として”売上目標は掲げないということを書いてきました。一方で、私が数字を全く意識しないわけではありません。雇用を守るため、スタッフが輝くための舞台を守るためにも、粗利、そして損益分岐点は常に意識しています。
また、矛盾していると思われるかもしれませんが、スタッフ一人ひとりには利益という数字を意識して、そのためにどう貢献するかを考えてほしいと思っています。
「なんだ、結局きれいごとじゃないか」
そう思われるかもしれません。しかし、働くスタッフたちに成長し、会社という舞台で輝いてほしいからこそ、個々人には利益という数字を意識してほしいのです。
数字を意識すれば、利益を生む大変さを味わうでしょう。苦しみもあるかもしれません。それでも、数字を意識して活動することは、本人の成長には欠かせないことだと思います。
トップダウンで言われたことだけをするのではなく、決められたことだけをするのでもない。自ら考え、利益のために行動してみる。新しいことにも挑戦してみる。利益という数字を意識し、会社への貢献という視点で考えるからこそ、挑戦や意欲は生まれるものです。
挑戦すれば失敗することあるでしょう。むしろ短期的に見たら売上や利益が下がることだってあるかもしれません。しかし、数字という指標があるからこそ、結果に対する検証が行え、次のステップが見えてきます。この経験こそが成長につながるのです。
神輝興産という会社は成長の段階にあります。成長は一足飛びではできません。一段一段と成長の階段を登っていく必要があります。まずは目の前の階段を登るためにも、個々人では数字を意識し、新しいことにもどんどん挑戦してほしい。そう思っています。
会社として、スタッフの挑戦を全面的に応援します。
有限会社神輝興産:https://www.shinki-ktr.co.jp/
代表 中憲太郎:https://twitter.com/ktr_kenaka
取材・言語化・見える化:大谷信(https://twitter.com/OtaniMkt)