追い込み期間
出発まで残り1年。
若き日の私は、夢を追う情熱に突き動かされていた。
朝は高木コーヒーで香り高いコーヒーをテーブルや自転車に乗って配達、夕暮れにはガソリンスタンドで車のボンネットを開ける日々。
時には、ピザの匂いを身にまとって街を駆け抜けた。
休日?そんなものはなかった。
同世代が祭りに興じる中、私は稼ぎのチャンスと捉え、ひたすら働き続けた。
目標は、遥か彼方のアフリカ大陸。
その地で、未知の世界を自分の目で見たいという思いが、私を突き動かしていた。
準備は簡単ではなかった。
大阪駅で「黄熱病」、神戸港で「コレラ」のワクチン接種が必要だと知り、慌てて日程を調整。
京都太秦から大阪までの道のりは、想像以上に遠かった。
神戸港へは車で向かったが、カーナビもスマホもない時代。
古き良き紙の地図を頼りに、必死で道を覚えた。
ピザ配達で鍛えた地図読みの腕が、ここで役立つとは。
装備も厳選した。
8万円の一眼レフカメラと望遠レンズ。
フィルムを守るための特殊なバッグ。
45リットルの縦長バックパックに、自作の工夫を凝らした寝袋。
1週間分の衣類と、たった1足の靴。
そして、心強い味方となる旅行英会話の本。
驚くほど少ない荷物。
しかし、その一つ一つに、未知の冒険への期待が詰まっていた。
日が近づくと、
「もう今さら」という諦めと覚悟が、後戻りを感じさせない。
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