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『新建築』2018年1月号を評する─『新建築』2018年1月号月評

冒頭の建築論壇:建築と設計のこれからは,読み応えのある座談会であった.若い設計者には,一読をお奨めしたい.


荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)は,隣接して建つ歴史的建造物である藩校の,照りと反りの付いた屋根を意識したのであろうか,SANAAらしい複雑な形状の屋根が特徴的である.コストによる制約かもしれないが,軒垂木の荒々しい扱いが,内部のルーバー天井とそれを支える鋼管の軽快な構造を効果的にしている.写真で見る限りなので想像の域を超えないが,ホールの客席のシンメトリーでない曲線の構成が,建築全体の形状と呼応しているのであろう.

設計者が「鞘堂形式」と呼んでいる,比較的小さな空間の諸室をホールの周辺にちりばめるという構成が,特徴的な屋根を生み出しているところが巧みである.地域の人びとによってこの施設が使いこなされた時に,その真価が発揮されるのであろう.それと共に評者が上手いなと思ったのは,フライタワーの扱いである.この種の建築では,暴力的になりがちなフライタワーの存在をいかに消すかがポイントとなるが,形態を対照的にしつつ同様な仕上げとすることにより成功しているのではないだろうか.


静岡県富士山世界遺産センター

静岡県富士山世界遺産センターはいかにもコンペで実現した建築である.その「いかにも」というところが,誌面からだと否定的な印象を受ける読者がいるかもしれない.ところが,オープン直前に見せていただく機会を得たのだが,内部の逆円錐形展示空間のスロープが,意外に広さを感じさせるのである.底部が正円であるのに対し,上部を楕円としていることが効いているのであろう.

構造ダイアグラムも見事である.登りきったホールで富士山を見せるのは単純であるが,その箱を建築の構成の中で上手に納めている.ビジターセンターとしては,水盤に写る正富士の仕掛けとともに成功していると言えよう.ただ,圧倒的な富士山という存在に対し,世界遺産になったからといって,このようなセンターが必要かどうかということについては,疑問も残る.それは,既存の浅間大社鳥居の扱い方にも感じられた.本宮浅間大社には何度も訪れたいと思うが,このセンターはどうであろうか.


低過庵

低過庵は,建築そのものよりも,暖めていたプロジェクトの実現に至るストーリーが面白い.藤森節による記述が,そこに身を置いてみたくさせるのは,いつもながらである.ただ,これが縄文と言われると,その内壁の構成は違うだろうと言わざるを得ない.それは製作ワークショップの紹介写真を見れば明らかで,Jパネルの縦の木目を横ストライプの漆喰で和らげる手法など,近代そのものである.それも藤森流であろうか.


京都外国語大学新4号館

京都外国語大学新4号館は,明快な構造によって,さまざまなアクティビティを可能にする巨大な床版がつくり上げられている.

大学という施設も,昨今の図書館と同様に,特定の機能を持つ空間をつくり上げるのではなく,快適な「場」を提供するという方向にいっているに違いない.図面の中に「放課後に先生を捕まえて質問」という記載があるが,このような大学でも,教員は個室に閉じこもっているのであろうか? 教員の居場所のあり方に変化がなくては,大学は変わらないであろう.「捕まえて」では,大学として不味いはずである.「横連窓」という記述がテキストにあるが,設計の趣旨からする と,3階以上にも,スパンドレルが消えた床面までガラスの部分など,変化があってもよさそうである.


NICCA イノベーションセンター

NICCA イノベーションセンターは,昨年脚光を浴びた小堀哲夫さんの近作である.ひとつの建築にこれほど多くの意欲的な試みを投入していることに驚きを禁じ得ない.

平面計画・構造計画・環境調整計画など,この作品ひとつで建築教育ができるのではないかと思わせるほどである.R&D機能とオフィスの空間的な組み合わせも凝りに凝っていて,建築的な面白さも十分である.それに比べて,ファサードはおとなしく見えるかもしれないが,R&Dの諸室の設備ゾーンを覆うアルミルーバーの外装は,見る角度によって表情を変える秀逸なデザインである.誌面では,それは読み取りにくい.せっかく冒頭の写真にファサードを用いているのに,角度を変えた写真が離れた末尾にあり,誌面として残念である.矩計に顕れているが,排気ダクトを隠すファサードの凹凸の付け方も巧みである.

社員の働き方に対する意識改革を目指したワークショップを,建築の計画に反映させたという.実験室と中央のコモンと呼ばれる交流を生み出す執務スペースの取り方は成功しているが,見学会に参加させていただいた印象では,建築空間としてつくりすぎているというのが偽らざる印象である.もしそれが,新しい形式のワークショップの成果であるとすると,現時点での最適解を求めすぎているのではないかと気になった.近年多く見られる,設計段階でのワークショップであるが,建設時点での最適解となってしまう戦後の建築計画学が陥った罠と通じるところがあるのではないだろうか.見学会で,施主側の担当役員であった方が,「完成した建築にはしないでほしいと希望した」と言われていたが,それに応えているかが評者の気になるところであった.とはいえ,すこぶる設計密度の高い建築であり,小堀さんの次作への期待が高まる作品である.


スカイライン@オーチャードブールバード

スカイライン@オーチャードブールバードは,シンガポールならではの集合住宅であろう.日中の真上からの日差しが強い中で,2階レベルのデッキが気持ちよさそうであるが,そこの写真がないのが残念であった.住戸階の平面図も,共用部分の構成が示されておらず,共同住宅としての評価が困難である.


集合住宅というビルディングタイプについて思うのだが,日本の建築家はどのように取り組んできたのであろうか.また,これからどのように取り組むべきなのであろうか.公営住宅が舞台であったことが,日本の建築家の集合住宅への取り組みを歪めたのではないかと感じている.一方で,富裕層のための住宅は,建築家の設計の対象であろう.だが,そこに引っかかりを感じる建築家も多いに違いない.槇文彦先生の小論の「建築家の職業は否応なしにこうしたさまざまな現実に直面しなければならない」という言葉に含まれることは重い.

1月号の誌面全体を通じて,構造の解説が丁寧になされていることに好感が持てた.もっとも,それらのほとんどの構造担当がArupであったのだが.




「月評」は前号の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評するという『新建築』の名物企画です.「月評出張版」では,本誌と少し記事の表現の仕方を変えたり,読者の意見を受け取ることでより多くの人に月評が届くことができれば良いなと考えております!


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