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都市再生について─『新建築』2019年12月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!
(本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです)


月評用2020


結節領域としての渋谷

僕は渋谷に30年ほど住んでいますが,駅の工事が20年近く続いています.
建築論壇:都市をつくるを読んで,鉄道や河川,道路やロータリーを移設しながら民間の高層ビルを多数建てるという,大変な事業が続いていたと分かりました.
ただし,気になったことがひとつあります.
渋谷駅の土地区画整理事業の施行区域の設定と,都市再生特別地区の区域設定を,誰がしたのかということです.どちらの区域も従来の渋谷駅に重なるように設定されていて,そのことが問題を難しくしているように思ったからです.
従来の渋谷駅は南北にJR山手線,東西に井の頭線と銀座線が交差して,4象限の街区構造だったわけですが,次第に4象限では足りなくなり,国道246号線を挟んだ渋谷ストリーム(本誌1811)と桜丘地区を合わせた6象限で開発が進んでいるわけですね.さらに先行開発された渋谷ヒカリエ(同1207)とマークシティ,および渋谷フクラス(本誌192頁)と工事中の宮下公園まで含めると10象限です.

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9路線も集まるから当然ですが,渋谷駅はすでに4象限では成り立たず,6〜10象限ないと機能しなくなっている.
この駅はもう結節点としての駅ではなく,結節領域とでも言うべき面的な存在になっているのですね.
これは鉄道の駅の進化を示す重要な現象で,おそらく人類史上初の事例です.そのような結節領域の真ん中に位置するのが渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)第II期(中央棟・西棟)のふたつの敷地なんですね.非常に重大な場所です.ところが,先述の区域設定は昔の4象限の渋谷駅しか眼中にないようです.
4象限だけに区域が限定されてしまえば,交通施設も4象限に集中するし,渋谷スクランブルスクエアの場所には超高層を建てざるを得ず,その利用客によってGLがますます混雑する.史上初の結節領域の中心をつくるにしては,余りに負荷が高すぎる.せめて6〜8象限まで区域を広げていたら,スクランブルスクエアを中高層程度にしてGLの負荷を減らし,交通ロータリーの一部を外周部に置いて焦点を分散させ,領域的に問題を処理できたように思います.
特にバスロータリーを4象限に集中せざるを得ないのが残念です.GLを車のために使うのか人間のために使うのかという,古くからある近代都市の問題機制に対して,6〜8象限を使って領域的に回答できていれば,人と車がゼロサムにならずにすんだかもしれない.その意味では,アーバンコアを分散配置するというのは領域的な発想で,説得力があるし,とてもよいと思いました.今後の工事で数が増えていくことに注目しています.

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超高層という近代建築特有の問題機制

渋谷駅のGLに関するもうひとつの論点は,超高層という近代建築特有の問題機制です.
昔から超高層は高くすればするほどコアと躯体と設備で床面が埋まってしまうという不条理な建築型です.ゆえに20世紀初頭以来,超高層を正当化するには,フットプリントの集約によって生じる広大なGLを何のために使うのかが争点でした.

ル・コルビュジエのヴォアザン計画(1925年)はGLにジャングルみたいな緑地を計画しましたが,高層ビルの根拠がGLの開放にあることを明瞭に意識しています.1970年代の西新宿の開発でも多くのビルが足元の屋外空間に工夫を凝らしました.ところが90年代後半からその意識が乏しくなり,超高層のGLに商業施設をへばり付かせています.汐留の電通ビル(電通新社屋建設プロジェクト,本誌0212)はせっかくジャン・ヌーヴェルが高層棟をやったのに,足元に劇場と商業施設をべったり張り付けて,集客と金儲けに血道をあげています.

昨今の湾岸エリアの高層オフィスも同様で,GLと1階で盛んに金儲けをしています.もちろん1階にショップがあってもよいのですが,全国チェーン系のテナントばかり張り付けるのは,どんな街にするのかというビジョンは何もないと言うに等しいです.その意味で,渋谷駅のGLにはテナント付けを含めて注目しています.ちなみに,計画図には垂直方向の都市要素(アーバン・コア)は載っていたのに対し,水平方向の都市要素がGLにあるのか確認できなかったんですが,僕はGLにアーバン・コンコースみたいな巨大な水平要素があってほしいと思っています.東西を一体化する巨大な往来のような場所がほしいです.


都市再生──3種類の事業

ところで,今月号のテーマである国内の都市再生には,今のところ3種類の事業があります.
第1種は渋谷駅の再開発のような土木主導(国交省主導)の都市再生,
第2種は丸の内やミッドタウンのようなデベロッパー主導の都市再生,
第3種は国内ではまだ少ないですがニューヨークのハイラインのような市民主導の都市再生.
この3つは経済原理が違い,税金ベースの公共事業,金融ベースの民間事業,そのいずれでもない資金調達による市民事業の3つです.また事業が奉仕する相手も違い,国家,資本,市民の3者です.もちろんいかなる事業も1者だけでは成立しませんが,3者のどれがドミナントなのかは無視できないでしょう.今月号はこれら3者の特集でもあります.

日本橋室町三井タワーCOREDO室町テラスは3者のうちの第2種です.
ゆえに少しでも良質なテナントを付け,また課金しない座席や場所を設けることで,街を再生します.
第1種の都市再生では往々にして市民の声は二の次,三の次ですが,第2種では一部の市民の声が反映されます.この場合はビジネスパーソンの声ですね.ガラスの大屋根の下はそういう方々のためのウェルメイドな空間になったと思います.ただ,新しい日本のビジネス街をもたらす建築を目指したかというと,そこまでではないのかもしれません.それでも強調したいのは,この建物は法規の規制がないのに31mライン(百尺規定)を引き継いでいますね.
かつて明治安田生命ビルの再開発(本誌0410)では,高さ31mの明治生命館を保存することで容積緩和を受け,高層ビルを増築しましたが,ここでは容積目的ではなく,日本橋地区における31m建築の多さから,自主的に31mラインで景観を形成しています.すなわち,第1種(国交省)の放棄した街並みを,第2種が別の形で再生しつつある.
これはニューヨークやシンガポールのビジネス街には見られない現象です.おそらく日本独自のビジネス街はこの31mラインをいかに成熟させるかにかかっているという気がします.すると31mレベルのフロアにどんなテナント付けをするか,どこまで一般開放したり屋外化するか,等が大事になります.

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OTO RIVERSIDE TERRACEは第3種(信用金庫)と第1種(河川局)のハイブリッドです.ゆえに国家や資本に先行する河川の状態を再生しています.それが川沿いの敷地に価値を与えていますね.ベルギーやオランダのような良質な河川沿いの都市空間が日本には少ないですが,乙川沿いに車を通さないようにしたことは決定的に重要です.この敷地は川辺まで歩いてアプローチできるし,建物内のどの店からも,どの通路からも川辺を見るように設計されたことに好感を持ちました.

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PLAYatréTSUCHIURAは駅ビル内を自転車で行き来できるのが面白いですが,ホームや電車内まで行けるとなおよかったです.オランダやデンマークのように,自転車の集団がそのまま乗車できるような車両もJRなら用意できるでしょう.日本は鉄道網が発達しすぎたせいもあり,自転車文化が未熟です.もし国内の鉄道と自転車がゼロサム状態を脱すると,こうした都市再生も本来の威力を発揮すると思います.(談)

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