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初版出版3周年を機に振り返る「進化思考」の進化の軌跡

「進化思考」は、今年の4月で書籍の初版発行から3周年を迎えました。書籍を刊行したことによって生まれた多くの出会いやご縁、読者や関係者の皆様からの応援やご意見によって、進化思考はこの3年の間も成長し続けることができました。今回は、さまざまな反響を巻き起こしてきた進化思考の“進化”の軌跡を振り返ります。


<はじめに>

進化思考とは?

進化思考は、「変異」と「選択」を繰り返す生物進化の構造を、人間の創造性に応用する新しい思考法です。
提唱者である太刀川英輔が、誰もが創造的になれる自然の法則を見出すために長年かけて探求を続けた結果、進化論をアナロジーとし、発明やデザイン、イノベーションという現象を生物学的な進化のプロセスと相似形のものと捉える「進化思考」が生まれました。
進化思考では、DNAのコピーエラーと同じように、常識にとらわれずクレイジーになる「変異」の思考と、状況の本質を理解する「選択」の思考の往復によって、創造性のプロセスを体系化しています。

<進化思考の歩み>

書籍『進化思考』出版 2021/4

進化思考の概念や方法論をビジネス領域をはじめ多くの人たちに伝え、事業開発・デザイン・アートなどあらゆる分野の発想に応用していただくことを目的に書籍を出版しました。
書籍『進化思考』は、島根県隠岐諸島に位置する辺境の小さな島に生まれた出版社「海士の風」による最初の書籍として刊行されました。
生物の進化や人類の創造に関する大量の写真や図録、読みながら実践できる50の「進化ワーク」などを織り交ぜ、進化思考の考え方や実践方法を余すことなく詰め込んだ本書はベストセラーに。進化思考の手法は大企業や教育機関に広がり、大学や高校などの入試問題にも採用されました。

山本七平賞 受賞 2021/11

アイデアに富む着想と親しみやすい表現による人文社会科学部門の著作に贈られる学術賞「山本七平賞」を受賞しました。
「進化思考」は、革新者を育て、イノベーションを起こすための手法として注目されてきましたが、解剖学者の養老孟司氏、進化生物学者の長谷川眞理子氏、経済学者の伊藤元重氏、政治学者の中西輝政氏、法学者の八木秀次氏が選考委員を務める日本を代表する学術賞の受賞によって、進化の視点から創造性を紐解く新しい思考法として、学術的な観点からも評価を得ることができました。

学校の入試問題に採用 2022-2023

『進化思考』における記述の一部が、同志社大学の国語の入試問題の題材になるなど、いくつかの学校の試験の題材として採用されました。

「ITエンジニア本大賞2022」で特別賞を受賞 2022/2

ITエンジニアがおすすめの本を選ぶイベント「ITエンジニア本大賞2022」のビジネス書部門において、『進化思考』がベスト10に選出されました。さらに、特別ゲストとして参加したアートディレクター・日高由美子さんより特別賞として表彰いただきました。

NHK Eテレ『魔改造の夜技術者養成学校』に出演 2022/3

NHK Eテレの人気番組『魔改造の夜 技術者養成学校』に、太刀川英輔が「デザイン(創造)の講師」として出演しました。「ミキサーの魔改造」をテーマに、「中のジュースを遠くに飛ばすミキサー」をつくるためのアイデア出しのワークショップを行い、発想を生み出すヒントとして「進化思考」における9つの「変異」のパターンを紹介しました。

ノーベル賞受賞者・吉野彰博士と対談 2022/5

旭化成創立100周年を記念したイベントで、リチウムイオン電池の発明者であるノーベル化学賞受賞者の吉野彰博士(旭化成名誉フェロー)と対談をさせていただきました。太刀川による「進化思考」の講演並びに吉野博士との対談の映像は、約4万人の旭化成グループ従業員に向けて配信されました。吉野博士との対談という太刀川のかねてからの念願が実現すると同時に、“一人ひとりの「好奇心」と「知識」こそが、想像力を豊かにし、次の100年をつくっていく”というメッセージを旭化成の皆さんに発信する機会となりました。

改訂版プロジェクトが始動 2022/6

創造的思考法としての完成度をさらに高め、科学的知見を正確に取り入れた改訂版出版プロジェクトが開始されました。改訂にあたっては東北大学の進化・生態学者である河田雅圭総長特命教授に監修者として入っていただき、「進化思考」の書籍の進化に伴走いただきました。河田先生が進化学について解説した新書が最近出版されましたので、合わせてご覧ください。
著者にとっても、改めて進化学を河田先生という素晴らしい専門家から深く学び直す、かけがえのない機会となりました。

NHK番組で解剖学者・養老孟司氏と対談 2022/11

異なる分野で活動する2人が仕事の現場を訪ね合い、話し手・聞き手を「スイッチ」しながら対談を行うNHKの人気番組『スイッチインタビュー』に解剖学者の養老孟司さんとともに出演しました。番組後編では、学生時代から60年近く「生き物の形」について探求を続けてきた養老さんをNOSIGNERの仕事場にお招きし、「進化思考」の考え方をご紹介しながら、さまざまなアプローチで形を追求してきたデザイナーとしての活動をお話しさせていただきました。

Pen クリエイター・アワードで「山口周賞」を受賞 2022/11

月刊誌『Pen』が、その年最も活躍したアーティストやクリエイティブディレクター、ミュージシャンなどクリエイターを称えるために創設した「Pen クリエイター・アワード」にて、太刀川英輔が「山口周賞」を受賞しました。推薦者である著作家・パブリックスピーカーの山口周さんより、「生物の進化という有効性が実証されている現象を網羅的に構造化し、それをイノベーション原理につなげたという点で、非常に画期的だった」とご評価いただきました。

「高等教育の未来を考える」会の座長を担当 2023/3

教育分野で先進的な実践を行うメンバーたちが大学教育の未来について考えるベネッセ教育総合研究所主宰の「高等教育の未来を考える」会にて、太刀川英輔が座長を務めました。4回にわたる委員たちとの座談会を経て、希望ある未来を描く大学教育ビジョンをまとめた提言書を作成。新しい教育の指針として「GROWING AMBITION ー学生よ野望を抱け」を掲げ、社会に変化を生み出す「野望」を育む新しい大学教育と、それを実現する創造的なカリキュラムのあり方を提案しました。

インドネシア・バンドン工科大学にて講演 2023/3, 2023/8

インドネシアの最高学府であるバンドン工科大学(ITB)で太刀川が進化思考の講演を行いました。この内容が好評だったため、進化思考のインドネシア語版が出版されることに決定しました。3月に行われたスペシャルレクチャーに続き、8月に行った講演は、デザインの力で社会にインパクトをもたらすリーダーたちを育成することを目的に新設された「Design Leadership」プログラムの記念すべき最初の講義となりました。

UNESCO-MGIEP主催会議への登壇 2023/5

「UNESCO-MGIEP (国連教育科学文化機関 平和と持続可能な開発のためのマハトマ・ガンジー教育研究所)」が主催し、世界中の著名な学者や研究者、教師、政策立案者、民間企業の代表者らが集結した会議「混在する現実における繁栄のための教育」に太刀川が招待され、「Design thinking and creativity in education」セッションにて「進化思考」のプレゼンテーションを行いました。この会議は、Sustainable Flourishing Goalsを前提とした初めての国際会議でもありました。

進化思考 韓国版の出版 2023/6

書籍『進化思考』の改定作業中の原稿を翻訳した韓国版が、韓国の出版社・Next Wave Mediaから刊行されました。初の海外出版となった本書に対して、書籍販売サイトでは読者の方からの好意的なレビューが多数寄せられ、メディアやブログでも紹介されるなど大きな反響がありました。

進化思考 台湾版の出版 2023/9

韓国語版に続き、書籍『進化思考』の改定作業中の原稿を翻訳した台湾版(繁体字版)が台湾の出版社・雙囍出版から刊行されました。2022年から取り組んできた改訂版プロジェクトの内容を大きく反映させた本書は、台湾の人気書店「誠品書店」で9月のイチオシ本に選ばれるなど大きく注目されました。

台湾デザインミュージアムで展覧会を開催 2023/9

書籍『進化思考』台湾版の出版と同時期に、台湾デザイン研究院が管理する台湾デザインミュージアムにてNOSIGNERによる展覧会『DESIGNS FOR THE NEXT 100 YEARS』を開催。NOSIGNERが手掛けてきたプロジェクトとその背景にある社会課題にフォーカスした展示に加え、「進化思考」の展示パートを設置。さらに進化思考に影響を与えた自然科学者たちによる貴重な文献を集めた関連企画「進化思考図書館」など、台湾の皆様に多様な切り口で「進化思考」をご紹介する機会になりました。

世界デザイン会議の国際学会で論文発表 2023/10

日本では34年ぶりの開催となった世界デザイン機構(WDO)による「世界デザイン会議/World Design Assembly(WDA)」にて国際学会(研究・教育フォーラム)が開かれ、「進化思考」増補改訂版をもとにした論文がアクセプトされ、論文発表を行いました。また、世界デザイン機構の発足団体のひとつでもあるJIDAの理事長を務める太刀川は、同会議の実行委員に名を連ね、会期中に行われた選挙でWDOの理事に選出されました。

『進化思考[増補改訂版]』の出版 2023/12

進化学者である河田雅圭氏(東北大学総長特命教授)に生物学監修をご協力いただき、1年以上をかけてさまざまな方たちと議論を重ねてきた『進化思考[増補改訂版]』が刊行されました。初版に対するご批判やご指摘を受け止め、改訂を行った本書は創造性の観点から新たな内容を加筆し、50ページ増の560ページとなり、さらに読みやすく、読み応えのある一冊に進化しました。

スタンフォードビジネススクールの学生に向けて経済産業省で講演 2024/3

スタンフォード大学経営大学院の学生と先生方およそ30名に対し、太刀川が日本のデザイン及び進化思考についての講演を経済産業省にて行いました。本講演は同校の日本での研修旅行の一環で、日本の高度経済成長とデザインの関係性やスタートアップの実情について学ぶためのプログラムでした。

『進化思考』書籍刊行3周年 2024/4

提唱者の太刀川英輔が長年の探求の末に体系化した「進化思考」は、書籍の初版発行以降、多くの方々からの応援やご支援、ご批判・ご指摘などさまざまな声をいただき、現在もまだ進化の途上にあります。
また、100名以上の熱意ある読者の方々によって形成された読者コミュニティが活発に活動を継続しており、進化思考の実践者の皆さんの仕事や暮らしに役立てられています。

生態系の崩壊や気候変動、感染症の蔓延や災害などの社会課題が頻発する現代にこそ、創造性は求められます。
私たちは進化思考によってこれまでの教育をアップデートし、持続可能な共生社会をデザインする創造的な人を増やしたいと願っています。


<進化思考の歩み>出版前史 編


「進化思考」は、2021年の書籍出版以前より太刀川が長年温めてきたものです。以下に、『進化思考』出版に至るまでの歩みについてもまとめました。

修士論文「デザインの言語的認知」を執筆 2006

「進化思考」の原点は、太刀川が建築を学んでいた大学院生の時にまとめた修士論文「デザインの言語的認知」にあります。以前から関心を持っていたアイデアや発想が生まれるプロセスをテーマに据え、着想のトリガーが言語にあるという仮定のもと、言語学の観点からアイデアが生まれるプロセスに迫った論文でした。

講義「デザインの文法」を開始 2012

社会人となり、デザイナーとしての活動を本格化させた太刀川は、修士論文の内容を発展させた講義「デザインの文法」を武蔵野美術大学で始めます。その後、社会人向けにも行われるようになった「デザインの文法」は評判を呼び、東京大学i.schoolで教えられるようになったり、さまざまな企業のイノベーションに活用されるようになりました。

展覧会『ノザイナー かたちと理由』を開催 2016/9/16-10/31

言語を持たない自然物の造形に、人間以上の創造性を感じることに関心を抱くようになった太刀川は、生物の進化と人間の創造性の共通点を探り始めます。そして、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で開催された展覧会『ノザイナー かたちと理由』では、進化と創造を対比させ、かたちの奥にある理由や、デザインを発想する方法に迫る展示を行いました。

「進化思考」のワークショップを開始 2018

展覧会を通じて多くの気づきを得た太刀川は、「デザインの文法」を発展させ、生物の進化から創造のプロセスを学ぶワークショップ「進化思考」を開始します。さまざまなセクター・領域のリーダー・専門家たちが集う「コクリ!キャンプ」で行った最初のワークショップでは、後に「進化の学校」をスタートさせる山田崇さんや、『進化思考』の出版元となる阿部裕志さん、英治出版の原田英治さんらと出会いました。その後、ワークショップはさまざまな企業で行われ、イノベーション手法として「進化思考」が取り入れられるようになりました。

『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』に「進化思考」の論文が掲載 2018/9

「進化思考」の概要をまとめた約10,000字の論文が『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載されました。まだ不完全な状態ではあったものの、生物の進化のプロセスから創造性を学ぶ「進化思考」の考え方を文章としてまとめる最初の機会となりました。

書籍『進化思考』執筆開始 2019

「コクリ!キャンプ」で出会った阿部さんや原田さんらが島根県海士町に出版社「海士の風」を立ち上げることになり、「進化思考」を一冊目の本にしたいとお声がけいただいたことから、3年間にわたる執筆がスタートしました。

「進化の学校」が開講 2020/8

進化思考を学んだ山田崇さんら有志メンバーの自発的な動きによって、オンライン講座が開設。社会のさまざまなセクターに創造性の種を植え付けていくための講座「進化の学校」がスタートしました。この学校は、進化思考の講義やワークショップを通して、事業創造のための新しいアイデアを磨き上げる研修プログラムです。
「進化の学校」には、企業の経営者やイノベーション創出を目指す社員、創造的な実践を目指す学校の先生や公務員など多くの仲間が集まり、現在までに約1,000人の卒業生が生まれています。
企業や団体から個人まで広く提供され、商品開発や人材育成などに活用されています。卒業生の皆さんの中には、毎週集まりながら進化思考を通した創造性教育の探求を続けてくれている仲間が多くいます。

NHKのTV番組『ザ・ディレクソン』に協力 2021

NHKのTV番組『ザ・ディレクソン』の企画に協力し、「進化思考」を活用して防災訓練を「進化」させるプロジェクト「あそ防!」に取り組みました。中学生の頃に東日本大震災を経験したメンバーたちに対して「進化思考」による創造性教育を行い、アイデア出しやコンセプト設計、コンテンツ制作をサポートしました。




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