数年前の今ごろ。
我が家のバスルームの出窓に、イソヒヨドリが
巣作りをしていたことがある。
冬の間、寒くて二週間ほど締めっきりだった
バスルームの出窓には格子戸をはめ込んでいたのだけど。
人間は通れないが「小さな鳥」くらいは出入可能な隙間がたくさんあった。
寒い時期、ほとんど開けることのなかったその窓。
私たちは毎日のように湯船にお湯を入れ、一日の疲れを湯で流していたので、きっとたまたま雨宿りにきたイソヒヨドリにとって"暖をとり卵を産む"場所として、気に入られたのだろう。
彼等(イソヒヨドリ)が新居に選んだとは梅雨知らずに居た私は、春先に向けて掃除をするために開けた出窓の1/3を陣取る「鳥の巣」をみてまず度肝を抜かれた!
中には翡翠色の小さな卵まで入っているではないか。
しばし一人、巣と卵を眺めていると親鳥らしき
鳥が、私を威嚇するように青く美しい翼で羽ばたいている。
巣から離れて窓を閉めて30分ほど放置すると、
私を威嚇していた親鳥らしき鳥は巣にすっぽりハマって、青い卵を温めていた。
それからというもの私たち家族がお風呂に入るときの楽しみは、「イソヒヨドリがいつ卵から孵るのか?」だった。
確か当時、三歳だった双子も毎日のように
「鳥さんは?」
と聞き、私や夫は
「知らんふりして、隙間から見守るんだよ。」
と双子に教えた。
そうしているうちに、翡翠色した卵たちから
五匹ほどイソヒヨドリの子ども達が生まれて、
親鳥たちは交互に餌を獲りにいき、ピヨピヨと
泣く小鳥たちの口にせっせとご飯を運んでいた。
お風呂の出窓越しのお付き合いが一か月ほど、
経過しようとした頃。
そーっと覗いたイソヒヨドリの巣には、
所狭しと身を寄せ合う成長した雛たちが
見て取れた。
成長した彼等(彼女)らは、とても窮屈そう
だったのでつい私は魔がさして手を伸ばし、
彼ら(彼女)らを、広くて安全な場所に移動させようとしてしまった。
すると、さすが野生のイソヒヨドリは、
私の手が届く前に全員が巣を脱出して、
隣の庭木に飛び立った。
そうなると、もう彼(彼女)らは、出窓には帰って来ない、しばらくすると親鳥が助けに来たのか、すでに飛べるようになっていた彼(彼女)たちは、二度と戻ってくることは無かった。
毎年、春から初夏になる今時期には、
イソヒヨドリがベランダに遊びにくる。
美しい囀り声に向かって
「また、我が家の出窓に巣をつくらないかい?」
とナンパを試みるが、私の誘いにのってくれない。
鳥にしても人間にしても、"距離感"というやつの
なんと難しいことか。
二度と戻らないと知りながらも、時折、彼(彼女)らが巣作りに好む木の枝などの材料を
出窓に散りばめてみる。
もしかしたら、二週間ほど家族旅行などすることがあれば、また出窓に巣を作ってくれるんじゃないだろうか。
私の代では無理でも子ども達が大人になる頃、
昔のことなど忘れた青い鳥が、気まぐれにお風呂の出窓に巣作りしてくれることを静かに
願っている。