時のかけら
唯一
前回、一年生の時はほとんど男子と話すことがなかったと言ったが、一人だけメールを続けていた男子がいた。
当時はまだガラケーで、私はシンプルなシルバーの折りたたみ携帯を使用していた。
その男子とは何かのタイミングでアドレスを交換し、本当に時々大したことではない会話を送り合っていただけであった。
この時、女子に一人マドンナみたいな女の子がいて、その子は男女の溝がありながらもなんとか仲良くしようと、多方面の男子とメールをしていたが、この男子とだけはうまくメールが続かないと言っていて、マドンナには無理なのに私はなぜこの男子と普通にメールを続けているのだろうと思った。
後で知ったことだが、彼は私を利用していただけだったんだよね。
それなのに、秋頃になり「私、この人のこと好きかも」となってしまい、ちょうどその時部活でペアを組んでいた子も「クラスに気になる人がいて」と言っていたため、私たちは二人だけの秘密と言って休日二人で会う時だけこの話をした。
最終的には二人で交換ノートなども始めてしまっていたが。
クリスマスも近い日に
秋が終わり冬が来た。
12月に入り月末には地区大会を控えていたが、とある休日の私は相棒の家に入り浸っていた。
二人で部屋に閉じこもり、何かアクションを起こすべきかうんぬんと話をしていたところ、その日たまたまその男子からメールが来た。
当時使っていたシルバーの携帯は、表に小さなディスプレイがついていて、メールなら「メール」、電話なら「着信」と表示される仕様になっていた。
そして、メールは自分でフォルダをいくつか作れ、アドレスごとにどのフォルダに受信するかを選択できた。
私はその男子からのメールは専用のフォルダを作成し、そのアドレスからのメール受信だけに「着メロ」を設定していた。
サイレントの状態でもその着メロの色に光るため、マナーモードでも誰からメールが来たかが分かるようになっていた。
私は、携帯がその色に光った瞬間心臓が跳ね、相棒にメールが来たどうしようとさわぎたてた。
しかしそれは嬉しい内容のものではなく、むしろ私は何もアクションを起こすことなく失恋をした。
メールには「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」と一言書いてあるだけだったので、「何すればいいの」と返した。
すると「〇〇先輩のことが好きで仲良くなりたいから協力してくれないか」といったことが書かれたメールが届き、私は相棒の部屋で空気の抜けた風船のようになりすべてのやる気を失った。
大好きな先輩
彼が仲良くなりたいといった先輩は、前回の記事で書いた夏合宿時に同じ部屋になり、私と相棒が姉のように慕うようになった大好きな先輩だった。
私たちと先輩は頻繁にメールを交わし、部活や試合の後にはマックやミスドで仲良くお話をしたりと濃密な時間を一緒に過ごさせていただいた。
本当に、「先輩」という存在ができてから初めて甘えることができた優しくて可愛い先輩だった。
私はこんなにも皮肉なことがあるかと絶望したが、彼には応援するよと返事をし自分の気持ちをなかったことにした。
彼が私の気持ちに気づいていたかはもうどうでもよい。ただ先輩の可愛さを共感できる友達にでもなろうと決めた。
それから、学校は冬休みに入るもバドミントン部は地区大会に参加していた。
クリスマスだった。
私は一日中、いやほぼまる二日間先輩と同じ時間を過ごし、その様子を逐一知りたいという彼の要求にも応え丸二日間メールを送り続けた。
正月が終わり、短い冬休みも終わり、一週間ぶりくらいに学校に行くと、事態は思いのほか複雑なことになっていた。
まず、彼はバドミントン部の別の先輩と付き合っていたし、それ以外の先輩のアドレスも知っていて、私の懐いていた先輩ともメールをしていた。
先輩と付き合いたいから、その先輩と仲の良いほかの先輩と付き合うことにしたという。
もう訳が分からない。私には理解ができなかった。
それから彼は徐々にクラスでも不良度が目立つようになり、禁止とされているワックスや第一ボタンの開閉、遅刻などが目立つようになり、何度も担任に指導を受けるようになった。
仮として付き合っていた先輩が少しやんちゃな人だったから、そういう影響もあったのかもしれない。
そして一月を最後に、彼は市立の中学校へ転校し姿を消した。
徐々に彼とのコンタクトも減り、結局先輩に好きと言えたのかもわからない。
仮で付き合っていた先輩には新しく彼氏ができていたのでお別れはしたのだろう。
本命に振られたのか、この学校の校則が窮屈だったのか、彼はいなくなってしまった。
彼が転校してからそれを知った私は、お別れも言えなかった。
ちょうどその日は雪が降っていたので、「今日雪だね」と送ったメールには「うん」とだけ返ってきて、彼との友達だったかもわからない関係はその日に終わりを迎えた。
私が彼からのメールにだけつけていた着メロ「時のかけら/EXILE」はそれ以降一度も鳴ることはなかった。
それから学校に残された私は先輩たちと会うのがなんとなく気まずかった。
しかも、駅までのバスの中で私の前の席に先輩が座っていて、「あいしって、○○のこと好きだったの?」と聞かれ、さらに気まずさが増した。
先輩たちは私が彼とメールを続けていたことも知っていたのだろうか。
彼に思いを告げたことはないが、彼が先輩たちに私のことをなんと言っていたのかもわからない。
好きではあったけど好きではなくなった。そんな複雑な思いを知らせる必要もなく、「そんなんじゃないですよ」と返したがあまり納得のいく顔はされなかった。
好きだったらどうしてくれたんですか。私の好きは、大好きな先輩に奪われたし、彼が仮で付き合っていた先輩にも奪われたんですよ。
冬が終わる
一年生の約半分の時間、私の中の男子はこの男子しかいなかったので、男子の先輩に好意を抱かれていたことには気づかないふりをしていた。
しかもその先輩は女ったらしな面もあるようだったので、深くかかわらなくてよかったと今では思う。それにしては不器用だけどね。
その男子の先輩、私が入部を決めるのを付き合ってくれた女の先輩(後の副部長)と付き合っていたらしいけど、その女の先輩は夏を前に不登校になってしまった。
恋愛が原因かわからないけど、「先輩の男」にはやはりかかわらなくて正解だった。
私の相棒はというと、気になっていたクラスの男子とメールを続け、後に告白。好きとも違うし付き合うもよくわからないけどいいよと言われつき合いが始まっていたが、一年もしないうちに自然消滅のような形になってしまったらしい。
クラスのことは、秋に文化祭や体育祭、音楽祭などがあった。
音楽祭はクラスが金賞をとった。
担任が熱い人だったのと、クラスに声楽をやっていた子や音楽に強い子が多かったからだと思う。私は音痴だったので戦力になっていないので。
そしてバレンタイン事件が発生し、三年生が卒業。
私の一年生も修了した。
続
バレンタイン事件はこちら。