羨ましくて
まるもが好きな人を追いかけてる姿を私はいいなあと思っていた。
放課後
部活を休む日は、授業が終わりすぐにまるもの教室に行きKの帰宅に合わせ、同じバスに乗れるようしれっと時間を調整していた。
Kは、堀深く整った顔をした青年だった。運動部であったらもっとモテモテになっていたと思うが、独特な世界観を持ち女子からはあまり絡まれていない印象であった。
いつも同じようなメンバーで帰宅をしていたので、バスの中で私たちはKのいるグループから少し離れた席に座るようにしていた。
私はまるもの横でいつもKをぼんやり眺めていたが、Kのグループに一人、背が低く可愛らしい顔をした男子がいることに気づき、『この男子を好きになりたいかもしれない』と人には理解し難い感情を抱いた。
なんだろう、気づいた時には「好き」だったというものではないのだけど、「好きということにしたい」というものでもなく、でも「好きにはなれる」という感じだった。
一年生の時に転校してしまった某男子と背格好や雰囲気が似ていたので、私は小動物系の男子を好む傾向があったのかもしれない。
それからその男子(以後Yとする)をよく観察するようになった。
Yは私ともまるもとも同じクラスではなかったが、Kとは部活が同じだったためか、その集団の中でも特に仲が良いのだなと気づいた。
そしてなんとなくまるもに「Y、かわいいよね」と言ってみたりしているうちに、『私はYが好き』ということにしたいと思うようになった。
そうすれば恋バナを通してまるもともさらに仲良くなれると思ったし、もしまるもがKと付き合っても私がYと付き合っていれば一緒に遊ぶこともできる、と、なぜかすべてがうまく前提で妄想をし、「みんなには内緒だけど私Yのこと好きだと思う」とまるもに伝え、私たちは恋する仲間としてさらに仲を深めた。
惚れている、という感情ではなかったが、雰囲気も好きだし仲良くなりたいという気持ちは本当だった。
しかし、気持ちの半分くらいは「まるもの世界に私も入っていたい」というエゴのために「好き」を利用していたのだと思う。
おはよう作戦
それから私たちはなんとかKとYと仲良くなろうと頑張った。
まずは朝おはようと声をかけるところから始めようと、朝の電車をみんなと車両をずらし乗り合わせてみたりしたが、あまりにも不自然だったためこの作戦は失敗した。
私に関しては、今までクラスも違く話したこともなかったため、相当不審者だったと思う。
その後も、帰り際にメアドを交換してほしいと言ってみたがKもYもそれを拒みまたも作戦は失敗した。
結局二年生のうちは大して話すこともできず、あまりにも不審者すぎる私たちの行動を今では黒歴史と呼んでいる。
女子、大荒れ
私たちがあれやこれや謎な作戦をしていることは他の女子にも怪しまれていた。
私がYを好き、という図は誰が見ても分かりやすいものだったと思うが、私の口からまるも以外の人にそれを言ったのは他に二人いたかどうかだった。
どうそうとコソコソしていることや、やたら私とまるもが仲良くしていることを気に入らない子たちもいて、対立というか朝の登校メンバー内で何度かもめごとも起こっていた。
当時は前略プロフィールというリンクサイトが流行っていて、そこに載せられる「リアル」というつぶやきを投稿できるページがさらにその波を荒立てていた。
主語のない悪口は、「私のことかも」を全員に思わせるし、鍵付きのページは「悪口用かも」と思わせる。
この時期はクラスの女子同士でも喧嘩が多く、それがクラスの雰囲気をも悪くしていたので再び私たちは生徒指導室にお世話になった。
堂々とした喧嘩や、冷戦のような状態が続いていたが、それもそろそろ三年生になるぞというときには落ち着き、「私たちの仲は永遠」みたいな雰囲気になりつつあった。
ちなみに大荒れはしていたが、この年の音楽祭も私のクラスが金賞をとった。
理由は昨年と同じだろう。担任も変わっていない。私の音痴も変わっていないのだから。
学習旅行は鎌倉へ行った。
続