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年末・栄光のヤキニクロード
本日は2024年の年末に突如として僕と妻に降り掛かったトラブルエピソードをお話します。
お店の仕事を納め、妻と過ごした年末。
今年は2人で自宅焼肉をしようと話し合い、アラジンのミニグリラーを購入しました。
遠赤外線ですぐ温まり、
減煙機能が付いていて、見た目も可愛いグリーンカラーの商品です。
某家電メーカーの通販サイトから購入し、12月上旬には届いていたのですが、焼肉をする年末に開封しよう!楽しみだね!なんて言って箱に入れたまま保管していました。
今思えばこれが全ての始まりだったのだと思います。
いよいよ自宅焼肉を決行する夜。
野菜を切り、買ってきた焼肉を並べ
遂にアラジンのミニグリラーを開封しました。
やはり可愛いルックスをしています。実物を見てやはり買って良かったと思いました。
そして、いよいよ焼肉パーティスタートと意気込んで
ミニグリラーのスイッチを回しました。
しかし電源が入りません。説明書ではスイッチを入れると2秒で発熱するはずなのにウンともスンとも言いません。
その瞬間嫌な予感がしました。いやいやそんなわけない、きっとコンセントがうまく差さっていないんだ。もしかしたら延長コードの方が壊れているのかもしれない。
2人で今起きている事実を受け入れられず、説明書に書いてある電源が入らない場合の確認事項を何度も読み返しました。
しかし電源は一向に入らない。
実は入っているのでは?とプレートを触っても熱を帯びる気配はありませんでした。
もう認めましょう。
認めたくなかったけれど。
このミニグリラーは初期不良品でした。
まずは購入した家電メーカーのカスタマーサービスに電話をかけました。
メーカーは返品・交換はまずアラジンのメーカーに連絡して初期不良の承認を得てから出ないとできないと言われました。近くの店舗での交換も不可能との事です。
アラジンのメーカーはすでに年末年始休業期間に入っており、そもそもその連絡自体も年明けからでしかできません。
とりあえず返金自体は後日になるが確実にできるとの事でした。
返金が可能なら。。
僕は決心しました。
「今からもう一個同じの買ってくるよ。」
妻は驚いていました、今日はフライパンでもう食材焼いて食べようよと言っていましたが僕の決心は揺らぎません。
近隣の家電屋に片っ端から電話を掛けて同じ商品がないか聞きました。
3件目でようやく在庫があると確認が取れました。場所は僕たちのアパートから5キロほど離れた場所でした。自転車で20分、それくらいならなんとかなる。
その家電屋に取り置きをお願いして自転車を走らせました。
暖冬とはいえ20時ともなれば気温は下がり、冷たい風が顔を打ち付けます。
仕事納めでこれから忘年会でも開くのかスーツを着た一団が楽しそうに談笑しているのを横目にとにかくペダルを漕ぎました。
取置きを頼んだ家電屋に到着し、窓口に声をかけました。
お待ちしておりましたとスタッフのお兄さんが商品を持ってきた時、僕は自分の目を疑いました。
スタッフさんが持ってきた商品の入った箱が僕が買った物の3倍は大きかったからです。
その商品は僕が求めていたものとは別物でした。
商品名も伝え価格もほぼ同じだったのですが、それは僕が買ったものとは別モデルのアラジンのグリラーだったのです。
今にも膝から崩れ落ちそうなほど落胆しました。
頭を下げ謝るスタッフさん。
今から発注すれば年始には届きますと説明されましたが、もちろんそれでは全く意味がありません。
僕は・今夜・焼肉がしたいのです。
恥を承知でスタッフさんにこれまでの経緯を話しました。
買ったグリラーが不良品だった事、すでに我が家では肉や野菜の食材が並べられている事、急遽新しいグリラーを買いにきた事。
スタッフさんはものすごく同情してくれました。
年末の楽しい焼肉パーティが台無しですねと。
そして何やら液晶パネルの付いた端末を叩き、僕の方を神妙な面持ちで見つめてきました。
「お兄さん、今日自転車でいらしたんですよね?」と問われました。
僕がそうですと答えると
「もう5キロ頑張れますか?」と聞かれました。
ここから5キロ先の同店になら在庫が1つあるとの事でした。
それを聞いた瞬間僕の中の血液が一気に巡り始めたのを感じました。
僕は勢いよく「行きます!」と答えました。
スタッフさんにその店舗へ連絡してもらい取置きをお願いしました。
妻に電話を掛け事情を説明しました。
「今からまた移動するんだけど、さらに5キロくらい先だから帰りが遅くなる。」と伝えると妻は「大丈夫?本当に無理しないで安全運転でね。というか本当に買いに行かなくても私はいいよ?」と優しい言葉をかけてくれました。
しかしアドレナリン全開の僕をもう止めることはできません。
「ここまで来て手ぶらで帰れるかっての!僕は行くぜ!これは完全に栄光のヤキニクロードだ!」と言い放ち電話を切りました。
僕の頭の中にはまさに映画クレヨンしんちゃんの「嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード」のワンシーンが浮かんでいました。
家に帰って楽しみにしていた焼肉を食べるために、野原一家が各自で悪役のボスがいる熱海に向かうあのシーンです。
駐輪場から自転車を出した時、手袋がないことに気づきました。
僕は財布も携帯も失くした事がないのですが、なぜか手袋だけは毎年失くすのです。
それがまさか今起こってしまうとは。
しかし最早そんなことに構っている暇はありません。
今すぐ次の家電屋へ向かうべく、再び自転車を走らせました。
今まで来たことのない全く生活圏の異なる道を進む時はなぜだがいつも不安な気持ちになります。
しかもだんだん人気がなくなり、道路と歩道も大きくなってきました。
大型トラックの行き交う音が恐怖を掻き立てます。風も強くなってきました。手袋を失くしたので指先が悴みます。
しかもここまでずっと自転車を漕いできたので、服の中は汗をびっしょりかいています。
その汗が徐々に冷えてきて体温を奪います。
本当にこんなところに家電屋があるのか?と思った矢先急にショッピングモールが現れました。
ここだ!この中の家電屋だ!だだっ広い駐輪場に自転車を停め、駆け足でショッピングモール内に入りました。
閉館時間30分前、すでに館内はかなり人が減っていて仄かな静けさがあります。
スタッフさんに声をかけるとすぐに察してくれて取り置きしていたミニグリラーを持って来てくれました。
これだ、僕が買った物と全く同じものだ!
念の為初期動作確認をお願いし、一瞬だけ電源を入れてもらいました。
スイッチを捻るとすぐに遠赤外線センサーが反応し、柔らかなオレンジの光を放ちました。
点火の速度の速さに驚くと同時に、
やはり僕が先に購入した物は不良品で間違いないと確信を持ち、焦燥感を感じました。
そこのスタッフさんも僕の満身創痍な表情を察したのか、「こちらの商品ずっとお探しだったんですか?」と尋ねられ、またしてもそこで事の経緯を話しました。
「それはそれは災難でしたね」と言って下さいました。多分僕はこの時かなり精神的に疲弊していて誰かの優しい言葉を欲していたのだと思います。スタッフさん達の労りの言葉が心にじんわり沁みました。
そして新しいグリラーの箱を持ち、再び自転車に跨りました。
出発する前に妻にLINEで「今から帰る。申し訳ないけどお風呂だけ先に入らせて下さい」と連絡しました。
ショッピングモール内との温度差が激しい。
ここから家までのマップを調べると10キロ30分の道のりと出ました。
行くしかない。早く戻らねば。
自転車のカゴに置くと道路の段差などの衝撃で壊れてしまうのではないかと不安になりました。この時の僕はかなりセンシティブになっていたのです。疲労もピークに達していたので、帰りの道は超低速で自転車を漕ぎました。
本当はできる限り早く帰りたかったのですが、安全運転でという妻の言いつけを守りました。
ここは本当にウチの店がある場所と同じ江東区なのか?まるで景色が違うと思いました。
ウチの常連さんの中にはこの辺りにお住まいの方も多く、いつもこの辺りから自転車でウチのお店まで来て下さっているのだなと思いました。
今いる位置からウチのお店までの距離を調べました。4キロとありました。
夏でも冬でも身体に負担が掛かるであろう距離感です。本当にありがたい事だなと年末の最後にお客様達への感謝の気持ちでいっぱいになりました。
そう思うと、なんだかこの栄光のヤキニクロードもちゃんと意味がある事なんじゃないかと前向きな気持ちになりました。
徐々に見慣れた街並みが現れます。
手袋を失くしたので両手が寒さで麻痺しています。
ショッピングモールで買えば良かったなぁ。
そしてついに我が家へと無事帰還しました。
玄関を開けると妻が出迎えてくれました。
新しいミニグリラーを妻に託し、僕は風呂場へ向かいました。
「追い焚きしておいたよ」とドア越しに妻の声が聞こえました。
湯船にはヒノキの香りがする入浴剤が入れられていました。
なんて出来た人なんだ、本当にありがたい。
シャワーで冷え切った汗を流しました。
両手はものすごい強さでジンジンとして痛みを感じます。
湯船に浸かると全身の力が抜けて完全に脱力してしまいました。
サイクリングを普段からする人に取っては往復20キロなんて大した距離ではないでしょうが、普段からほぼウォーキングをたまにするくらいしか運動をしない僕に取っては山登りに匹敵する過酷さでした。
これはやばい、バターのようにとろける。
もうずっとこの湯船の中にいたい。
溺れちまいそうだ。。
そう思いましたが、リビングでは一旦ラップした食材を再びテーブルに並べて妻が待っています。
時刻はすでに21:30を回っていて妻も空腹なはずだし、僕が無事帰って来れるか不安で精神的な疲労もあったと思います。
もう体は十分温まった。
肉だ。肉を食おう。
僕は風呂場を出ました。
リビングに戻るとテーブルは食材が並べられミニグリラーの初期不良が発覚する前の状態に戻っていました。
1つ決定的に違うのはちゃんとミニグリラーの電源が入っている事でした。
栄光のヤキニクロードを経て、ようやくスタートラインに戻って来れました。
妻が菜箸を僕に渡しながら「最初の一枚焼いちゃいなよ」とファースト焼肉を譲ってくれました。
では慎んでと僕は菜箸を取り、1枚目の牛タンを熱が帯びたミニグリラーに乗せました。
クレヨンしんちゃん「嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード」よろしく、この物語はここで終わりとさせて頂きます。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
お疲れ様でした。
そして、今年も何卒宜しくお願い申し上げます。